まさかまさかまさか、
アンドロポフ艦長とザカリン大統領らが陸へと向かったあと、折り返して生き残りのアメリカ兵を送ると連絡が入った。そのためグラスは甲板にそのまま残っていた。彼らがザカリンを死守してもらったおかげで最後の最後、アメリカは全面戦争を避けることができたのだ。
生き残りがいたというのは僅かな希望しかなかった。ザカリンが救難艇に乗り込めた時は傷や低体温のこともあり、記憶が曖昧なところがあった。ヒメネスとニコルズからの報告だとアメリカ兵は1人だけ。それもまた海に戻ったという。SEALsが戦地に戻ること、任務が終わっていないか、もしくは仲間を助けるためか。
回復したザカリンからは助けに来た時、アメリカ人は3人だったと、そのうち1人は建物から脱出の際死んだと聞いた。報告だと4人だったはずだがと思案していると、途中ドゥロフが差し向けた兵からの猛攻の時、助けがあったと言われた。
一発必中とはこのことかと思ったね。
自国の兵を失ったのもあり、どう表現していいものかと少し悩んだ風に、ザカリンは語った。その時彼らのチームのボスは、そう、彼がボスだね、笑ったんだ。
弾丸が吹き荒れる中、一瞬の静寂。その中で、勝機を見出したかのように。
だから、戻ったとなったら、その仲間のところに向かったんじゃないのかな?
港に向かう中、ザカリンはアメリカ兵の回収も命じた。無論無傷でと。SEALsに自国からの連絡が入っていないことも考え、ザカリン自らの声明を流し、そしてようやく回収に漕ぎ着けたのだ。
遠くボートが見えてくる。
やっとこれで任務が片付くか、とグラスは思った。自分たちの任務は、ザカリンの救出と、アメリカ兵の回収だ。ひとつは無事済み、残るひとつだ。グラスはやれやれと息を吐いた。近づくボートに乗るSEALsは2名。半分、か。
半分…目を細め、そして見開いた。
1人は怪我をしているのだろう、ボートの縁に寄り掛かるように座っていた。もうひとり、それは見たことのある髪の色をしていた。
いや、まさか。
ビル・ビーマンと休暇を共にしたのは、随分と前だ。彼は先に訓練へとどこかに発ち、その後自分は長めの休暇だったため、狩猟に向かう準備をすることにした。美味い肉が穫れたら食わせろよ?
そうビーマンは発つ朝にそう言った。そういえば、まだ彼と共に狩をしたことがなかったと思い、じゃあ今度は一緒に行こうと提案した。悪くはねぇが、休暇くらいのんびりと過ごしてぇよな。するりと首に回すビーマンの指は、夜を思わせる仕草で、グラスは仕方のない奴だと笑い口づけた。
朝からとも、別れる日にとも思った。
だいたい次に会える日すら見当がつかないのだ。
おおよその目星はつくも、それが当たることは稀だ。
だからこそ未練がましく求めてしまうことがある。生き残り、戻り、また会えることを望むために。