無題無題
ピンク、赤、チョコレートを模した茶色。
この時期は、街のコンビニでさえバレンタインムード一色だ。
弁当を買いに行ったそのコンビニで、ふとその華々しい色が目についた。ただそれだけの。
何種類もの味の小さなチョコが収められ、パックになった大きめの袋のそのチョコを、銭形でさえ気付けば買っていたのだ。
職場の茶請けくらいにはなるだろう。
そんな軽い気持ちで、それらは警視庁捜査二課の、キャンディボックスに詰め込まれた。
「まったくお前は……」
取調室の、もはや馴染みとなった景色。
スチール製のデスクを挟み、向かい合わせに座るのは、ルパンと銭形の二人だった。
本来ならばここにもう一人、記録係が部屋の隅にいる筈なのだが、何をするかわからないルパン用に、特別に席を外してもらい、その仕事までも銭形が請け負うのが、捜査二課の――もとより警視庁の常識となっている。
ため息でもつきそうな渋面の銭形に、若干複雑そうな、どこか引き攣った笑みのルパンが、目線だけで先を促した。
「なんだってこうも毎度毎度、祭時にばっか狙い定めて仕事すんだよ。部下から苦情受ける俺の身にもなれってんだ」
「だってさあ。やっぱこういうイベント時にはとっつぁんと一緒にいたいじゃんよー」
「ああん?」
言われた意味を、銭形は理解できない。
だいたいが、この男は何を望んでいるのだろうか。
こんな年上の、それも男の自分に対して。
すぐ身近に、不二子という絶世の美女がいるにも関わらず、だ。
「お前なら俺なんぞにねだらなくても、いるだろうが、不二子が」
「不二子ちゃんがこんな時に俺の相手してくれる訳ないじゃんよー。この手のイベントは毎度毎度他の男とデート中だもんよー」
終いにはデスクに突っ伏して、わあん、と泣き真似をし始めるルパンに、やれやれと銭形は、今度こそ本当にため息をついた。
相手はほとんど絶対に、金持ちの男だろう。それも、大金持ち、と称していいくらいの。
それも色恋などではもちろんなくて、彼女の場合はビジネスだ。そんな事さえ、想像がつくのだが。
「あー、そんならな」
スーツの上着のポケットをごそごそ漁り、目当ての物を見つけたのか、銭形が、デスクの上にぱらぱらと何かを捲いた。
ふえ、と顔をあげるルパンの目には、小さなチョコレートが4種類、視界に映る。四角い形のそれらが、こちらを見上げている。
「とっつぁん、どったの、これ」
「昼飯買ったコンビニで見つけたから買ったんだよ。茶請けに職場に配ったら、残りがちょうどそれくらいだったんだ」
「えーと、だからね?」
「ちょうど4粒だ。お前ら4人で分けて食え」
へ、とルパンは思わずチョコと、銭形を交互に見た。
見つめられる視線に照れくさくなったのか、頬を赤らめた彼が、ぶっきらぼうに言い放つ。
「いいか、お前一人で食っちまうんじゃねえぞ! ちゃんと4人で分けろよ」
「へーいへいへい。ありがとうとっつぁん!」
いやっほー!と子供のようにはしゃぐルパンに、あー、とか、うーだのと唸りながら、銭形は、書類に集中するふりをする。
窓の外では静かに、雪が降り始めようとしていた。