おとぎ話のような夢 夏真っ盛りの今日この頃。明日はついに、私の誕生日がやってくる。
今年は姫美華ちゃんがパフェ食べに行こうという誘いがあるので、一人で過ごすことはない。
お姉ちゃんは相変わらず忙しいから、先にプレゼントだけもらった。
「でもなあ、白いワンピースかあ」
お姉ちゃんなりに頑張って選んだのだろう。でもこのワンピース、というよりかはドレスみたいなデザインだから普段使いしにくいものだった。
ものすごくフリルがついているし、まるでお姫様かお嬢様が着るの?ってくらいの派手めなワンピースだった。
「着る機会、あるのかな……」
少しため息をついて、そのワンピースをクローゼットに仕舞った。
それに明日はちょっとだけ早いし、と思いすぐベッドの中へと入る。日付を超えたらまた一つ、歳を取ってしまう。
今まではそんなこと何も思わなかったけれど、19歳になると思うと来年には大人の仲間入りだ。
どんな大人になるのだろう、と小さい頃は思っていたけれどまったく変わらないまま大人になるんだなって思うと、ある意味夢が壊れたような感覚だ。
――いつになったら、あの人はやってくるのだろうか。
私がずっと帰りを待っているあの人こと、烏丸さん。
無事、復活したと姫美華ちゃんとトキネさん経由で聞いた。だから、ずっと待っているには待っているけれど……。
「いつになったら来るんだろうな……」
少しだけ寂しさを覚えつつ、私は目を瞑り眠った。
白くて広い部屋。そして窓辺には色とりどりの花が咲いている。
ここはどこだろうと辺りを見渡してみる。置いてあるものは全て豪華な装飾が施されたものばかり。
それに自分自身の姿も良く見ると、白いふわふわとしたドレスを着ている。
まるで王族か、はたまたお嬢様になったような気分だ。そういえば寝る前に、少しだけやった乙女ゲームがこういう世界観だったことを思い出す。
「なんだ、乙女ゲームの夢を見ているんだ。ふふ、面白い」
夢の中なのに妙にリアルだが、それでもなんだか楽しい気持ちがふわふわと浮かぶ。
周りを見ていると、ふいにドアからノック音が聞こえた。私以外にも誰かいる!?と思い、驚きつつも私は「はい、どうぞ」と答えた。
「姫様、婚約者様がお見えですよ」
半分仮面を被った執事の恰好をした男性がそういった。私、この夢の中でお姫様だったんだと知った。
そういえばあの乙女ゲームの主人公がお姫様だったのも、今更ながら気づいた。
それにしても、婚約者とは一体誰なのだろうか。ゲームの中ではめちゃくちゃかっこいい人気イケメンキャラだった……はず。
興味なくてまだ攻略すらしていない。
「では、お入りください――クロウ様」
部屋に入ってきたのは、なんと烏丸さんだった。着ているものはシャツとベスト姿で、しかも腕まくりをしている。
さらに手には薔薇も持っており、一体これは何事なのだろうと頭の中が大混乱。
「え、あの」
思わずあとずさりをしてしまって、彼と執事さんを困惑させてしまった。
「どうしたんだ、朝火。何か様子がおかしいが……」
「あ、あの、えっと」
どうしてだろうか。ここは夢の中というのに、彼の顔を直視できない。
これが夢であるならば、何故烏丸さんがここに出てきたのだろうか。会いたいと願い続けてしまった結果?
「ところでクロウ様。貴方は何故そのような姿を」
「ああ、今日は暑かったので上着を脱いだまででな。薔薇は私の家の庭に咲いていたものを持ってきた」
それでも姫様の婚約者ですか、と執事さんは飽きれていた。確かにお姫様の婚約者といえど、そのような恰好はこの場にはふさわしくない。
でもなんだか烏丸さんらしいなと少しだけ思ってしまった。
「朝火」
私の名前を優しく呼ぶ声。それが愛おしいと感じる。あの日から、聞いていない貴方の声を。
だからあの人の声を聞く度に涙がこぼれそうになる。それを今必死に抑えているけれど、もう無理みたい。
「……っ!」
寂しかった。あの日再会することを約束したけれど、貴方に会う日々がなくなって寂しさは少しずつ募りはじめていた。
貴方がまた時計人形として復活したと聞いた日は、涙が出た。けれど、まだ貴方の姿をみていなかったから半分信じがたいものではあったけれど。
夢の中でもいい。もう一度、貴方に触れたい。触れたくて、たまらない。
「……どうしたんだ、今日は」
私は思わず、烏丸さんに抱き着いた。嬉しくてたまらなくて、勢いで抱き着いてしまった。
「君は突拍子に何かしてくるが、今日はそれがよく現れているな」
烏丸さんは察したのか、私をぎゅっと抱きしめてくれた。夢なら覚めないで、と願わずにはいられないくらいに幸せだ。
「そうだ、この薔薇を君に。似合うと思って持ってきたのだが」
そういって私の頭に薔薇をそっとかけた。
「ふむ、薔薇の姫君といったところか」
「そ、そんな……そんなことないですぅ……」
顔が熱い。烏丸さんってこんなキャラだったっけ!?と思ってしまうくらい、私に口説いている。
嬉しいような、恥ずかしいような。これは夢だと唱えるけれど、やはり幸せすぎる。
「……その、朝火」
「はい」
――誕生日、
ぱちりと目が覚めた。
なんという夢を見てしまったんだ、と一人ベッドの上で悶える。今何時なんだろうと思いスマホをみると、時間は深夜2時を表示していた。
「あー……誕生日になっちゃったなあ」
なんという誕生日プレゼントなのだろうと思う。いや、これは私が作りだした妄想夢。そう、これは夢。
夢だけれど――それでも、あの人に会えたから。
「でも、やっぱり夢の中じゃなくて……」
現実で会いたい。その気持ちがますます募る一方だ。
だから、早く来て。私はここで待っているから。大人になる前に、早く。
――その夢はまるで、御伽話のような
END