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    空鳥ひよの

    @Hiyono_Soradori

    一次創作・二次創作の落書き倉庫とか

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    空鳥ひよの

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    11/22はいい夫婦の日なので、夫婦設定のからあさSSをば。

    仲直りのおやつの時間『本日11月22日はいい夫婦の日!なので今日の特集は仲の良い夫婦芸能人特集を……』
     テレビから流れてきた言葉をわずかに耳を傾けてしまう。今日はそういう日なのか、と
    初めて知った。映像から流れてくるのは、芸で活動している者達の仲睦まじい姿。
    中には抱きしめ合う映像も流れていた。
    『仲の良い秘訣は何でしょうか?』
    『そうですね~、お互い思いやることでしょうか?』
     映像に映る夫婦は常に笑顔であった。テレビ用に仕立てたものもあるかもしれないが。
    「私達には関係のない話のようなものだな」
     読んでいた本をそっと閉じる。やれやれと言いながら、私はテレビを消してその場を離れる。
    羽織りを取り、外の空気を吸おうと町へ赴くことにした。どのみち朝火は買い物に出かけていて、家にいない。
    少しくらいは互いに離れても良いだろう。……違う。今は、喧嘩をしてしまって互いに離れている状態とも言える。

    ――それは昨日の帰り道に寄った服屋にて。
    「あっ。あれ可愛い~」
     昨日、何気なく街中を歩いていたら朝火がとある洋服店を見つけた。彼女好みのデザインだと遠目から見て思った。
    「あの、九楼さんはどれが似合うって思いますか?」
     何故そういうことを私に聞くのだろうか。こういうのはあまり得意ではないと前からずっと言っているというのに。
    だが朝火が良いと言っていた服は正直、彼女に似合うものではなかった。デザインこそは良いが、色が似合わないと思った。
    それにどうみても彼女の体型にはあわない。
    「君にそれは似合わない。色もそうだがまずサイズがあわあないだろう。君はふくよかで、丸みのある――」
     気づけば朝火は頬を膨らませて私を下から睨んでいた。
    「酷い、そこまで言わなくても」
    「君はわからないのか?その服のサイズでは――」
     最低、と彼女は一言吐き捨てて距離を置いたままそのまま家へと帰った。
    家へ帰った後も互いに口を聞くことはなく、ただ重い空気だけが漂っていた。
    寝る時も背中を向けて寝ていたし、朝食も怒りのオムレツを喰らわされていた。

     悪かったと思うが、あれは私なりに正直に言ったもの。無理に似合うなぞいえば、逆に彼女が恥をかくというのに。
    「まったく、面倒なものだ」
     歩きながらそう思う。ちょっとでも怒らせるとすぐにオムレツを出してくる、こちらとは話そうとしない。
    そんな時は彼女へ素直に謝ればいいのだが、きっかけが毎回ない。また誰かに人の心がないものだなと言われそうだが、私は人形だ。
    心なぞ元から無い存在。だが、それが芽生えてしまったのが厄介なものだった。芽生えさせたのは紛れもなく、彼女なのだから。
     目的の店が見え、中に入る。甘い匂いがやはり鼻につくがもう慣れた。フルーツタルトはまだ売切れていなかったので、この店の名物のタルトを数種類買っていった。
     そのまま家へ戻り、台所へ向かう。やかんに水を入れ湯を沸かし、その間にティーポットと茶葉を用意する。
    「茶葉はこれで……良いか」
     朝火が買い置きしてある茶葉を開けると、紅茶の良い香りが台所に広がる。恐らくとても良い茶葉であることが香りからもわかる。
     がらがら、という引き戸の音が聞こえた。どうやら朝火が帰ってきたようだった。だがそこに「ただいま」の言葉は聞こえてこなかった。
    丁度湯も沸いたところで、ポットに湯を入れて温める。その後茶葉を入れて、また湯を注いで蒸す。
    「……あ」
     台所で用意していると、朝火が顔を出してきた。手には食材を入れた袋を抱えていた。
    「朝火。君の好きなタルトケーキを買ってきた。それと茶も入れている。食べるといい」
     そういうと、朝火はこちらの目を合わせることなくただ買ってきた食材を冷蔵庫に入れていく。
    「……昨日のは悪かった」
    「……」
     まだ黙り通している。相当怒らせてしまったというのが伺える。
    「あれはサイズもそうなのだが、君にあう色味ではなかったのが大きい」
    「じゃあ、最初からそういえばいいじゃないですか。なんでそんな……」
     私にはまだ人の感情を理解していないものがある。それは本を読み、知識を重ねていたとしても。
    文字でしか知らないことが私には多い。だからこそ感情を知るのには時間を要する。
    「もっと良い服を探せばいい。君は可愛らしい部分もあれば、美しい部分もある。それにあったものを見つけ出せばいい」
    「なっ。ななななな、なんでさらっとそういうこと言うんですか!?」
     顔を真っ赤にして朝火は私の背中を叩く。どうやら照れているらしい。
    「それはさておき、私からの詫びだ」
     彼女の前には先ほど買ったフルーツタルト数種類と、話しながら淹れた紅茶を用意した。これで彼女の機嫌が直ればいいのだが。
    「……むう。私の大好きなケーキ屋さんのタルト……」
    「いらないのかね?」
    「いります食べます!」
     怒りながら、彼女は座る。そしてフォークを手にして、目の前にあるフルーツタルトを一口頬張った。
    「今回はこれで許します」
    「食べすぎには注意したまえよ」
    「むむ……」


     私にとって朝火という妻は、見ていて飽きないということを最近知った。
    彼女にとって長く、そして私にとって短い時間。そんな中で互いに喧嘩しあうこともあれば、頼ることもある。
    良い夫婦とは言い難いかもしれないが、私と彼女にとって良き時間を共に過ごせたらと思う。


    END
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