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    compass_fish

    水と文字を吐くフグです。雑食です。

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    compass_fish

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    プロットの次のたたき台です 読み物ではないと思う 後で元気になったらコレをこねる

    下書き①ringing

    「もしもし、こちら——」
    「……イヌピー?」
    「ココ?どうしたんだ、……。……姉貴の命日ならまだ、」
    「ッ、お前今どこにいるんだ」
    「は?お前が言えたクチかよ、何年ぶりだと、」
    「いいから今どこか言え、言ってくれ、頼む、」
    「……どうした、なんかお前、……大丈夫か?と言うかお前どうしてウチの番号知って——」
    「イヌピー!!」
    「……」
    「ッ待て、切るなよ、いいな!?」
    「……別に切らねえよ」
    「じゃあ、今から会えるか」
    「バイクは」
    「無え」
    「……はは、相変わらずかよ。今どこ」
    「××んとこ」
    「分かった、近くのサイゼでいいか」

    〈div class = "falsification"〉
     〈Chapter:prologu〉
      〈system_number:"03-34X1-XXXX"〉
      〈program_ title:"ringing-ríŋiŋ"〉
      〈actor:"  ","H.K"〉
    〈/div〉

    しらじらと濁る視界。色鮮やかなリボンが巻かれた場所は、曲がり角だからぶつからないように。鏡を見ても輪郭しか見えず、色合いはどことなく曖昧に。髪を染める人も多い場所だった。どこかそっけなく、整然としながらも色彩に溢れたここは"施設"と皆に呼ばれている。
    ぺたり。手のひらを少し柔らかい壁に這わせた。壁から三歩、隣人の部屋。鈴が鳴るなら、その手前で立ち止まる。
    「……」
    鳴らないので十八歩前へ。中庭扉。鍵は掛かっていただろうか。……まだ、外は明るい気がする。簡易携帯を取り出して、一一七。
    『——九時三十一分丁度をお知らせします』
    よかった。もう開いている。プッシュノブを押して開けて、三歩まではコンクリート床、四歩目から芝生。転ばないように。色合いできちんと判別をすること。遠くに見える黒いモヤは誰かの髪の色だろう。黒髪。ゆっくり見渡すと、ひどくぼやけているが見えている範囲で中庭には三人。
    黒髪は夜に眠れない、昼寝好きな皆川。
    花壇にいる金髪は黒瀬だろうか。
    ベンチにいるのは、……誰だろう。佐倉か、渡部だと思うのだけれど。ああ、サングラスを掛けているから伏見だったか。なんであそこの三人は揃いも揃ってブルーの髪色をしているんだろうか。三人を見つけることは簡単だけれど、見分けるのに不便なのだ。似たような色は。

    兎に角、なんら普段と変わりない光景がそこにはあった。いつだって他人に不関与で不寛容で無関心で無反応で視界の外。
    その頼りない視野の遥か遠く、風にそよぐように影が揺れた。……誰か来たのだろうか。施設の人間は皆同じ服だから、部外者は分かりやすい。施設に入れられている人間の服はホワイト、職員はブルー。つまり、黒い服のあの誰かは間違いなく部外者である。
    ……だからと言って、どう、と言うわけではないが。おおかた上役に金の融資をしに来たのだろう。結果的にそれらは施設の様々な人の生活を薄くひたひたと潤していくが、結局それだってトップダウン式だ。鉢植えを縦にずらりと並べたような具合だろう。上の鉢から溢れて滴り落ちた分だけが、その一つ下の鉢の中に注がれる。……そういった環境であることは、一応、承知の上だった。本意ではないが。
    自分達ホワイト(或いは、白服と呼称)に与えられた仕事も、結局は上の為。そうでなければ自分達が立ち行かなくなるから抵抗しないだけであって、この構図は善意の表づらをした優しい搾取だ。
    社会的弱者に救済の手を。謳われ救われる側にとってみればたまったもんじゃない。その恩恵を受けることしか出来ない自分達も、ある種同罪なんだろうけど。黒い服が列を成す。
    「……、」
    「……?……!」
    話し声。風下だから、少し聞こえる。畏まった提携分の挨拶。ご融資。ご贔屓。ああやっぱり。
    黒瀬が舌打ちして花壇を蹴る。彼は外からの客人が嫌いだった。聞いたこともないが、何か思うところがあるらしい。別にどうだっていいけれど。
    視力を半ば失い、この狭い箱庭で日々丁寧に残りの人生をすり減らしていくだけなのだから、他者への興味はとうに薄れた。興味と期待が同義である事も、それなりには分かっている。
    「……。……!」
    黒服の群れから一人が抜け出てこちらへとやって来る。またいつもの同情だろうか。たまに居るのだ、態々近寄ってきて憐れむやつが。ああその傷は?何故ここに?あなたみたいな子が……。
    それなりに目立つ容姿と派手な痕跡を有するが為に、幾度となくそのターゲットにされていたから察するのも早い。が、逃げる訳にもいかないだろう。上は体面が悪いと叱るだろうから。
    滲んで曖昧な視界でそちらを見る。黒服。黒髪。男。背はそんなに高くない。歩くのが早い。せっかちなたちだろうか。とんと見なくなった自分の顔だが、それでも嫌そうな顔をしている自覚くらいはあった。右足を半歩引く。せめてもの抵抗だった。
    「——イヌピー?」
    「……?」
    男はこちらを向いている。距離にして三メートル、しかしその名前に覚えはないし、後ろを振り向けど誰もいない。息を飲む音。
    「イヌピー?何ソレ、アンタ誰だよ」
    「……俺の事、分かんねえか」
    「聞き飽きたね。俺さ、火事で頭と目やられてんの。昔会った?とか聞かれても困るし知らねー」
    「火事」
    「プライバシー保護、は、……あのオッサンに言っても無駄か。ウチのパトロンだろ?じゃあサービスで話してやってもいいけど、どうする」
    「いや、いい。……そうか、……記憶が無いのか」
    「別に全部じゃねえし、今生きてンだから気にして無い。で、イチオウ、サンコーまでにアンタの名前聞いといたほうがいい?」
    「俺は、——俺はアンタにココって呼ばれてた」
    「で、俺はアンタをイヌピーって?」
    「……ああ」
    顔名前分かってんだったらなんで早く来なかったんだ、と言いかけて八つ当たりだと自覚し素早く飲み込む。施設暮らしが長くて、不意にカッとなってしまう事がある。悪い癖だ。
    本当に知己かどうかも分からないが、遺産も後ろ盾も何もない奴の知り合いを名乗るんだから数奇者か善人か。……きっとどちらでもないだろう。デメリットは思い浮かばない。メリットは、……まあ、こちらも未知数だが刺激を欠いていた事は事実なので。
    「んじゃよろしく、ココ?……ハハ、何よろしくすんだろうな」
    「……」
    呼び慣れない名詞を舌で口内でかたどってそう呼ぶ。果たして記憶を失う前、この名前を本当に呼んだ事があるのか——。このココと名乗る男が自分に益を齎すのであれば。そう思って演技をしてみせた。腹芸だ。不得手だがここに来てからそれなりに覚えて使ってきた。
    ココの顔はぼやけて見えない。
    イヌピーは微笑んだ。それが適切だと知っているから。内心舌をべえと出しながら、薄っぺらな声で騙してごめんな、と小さく笑う。どうにだってなってくれればいい。

    〈Number of days elapsed = three months later〉
     〈actor:"  ","H.K"〉

    てっきりその場限りの同情だと思っていたのだが、ココは予想を裏切り、定期的に施設に顔を出していた。
    何が楽しいのだろうか、こんな場所。
    何が面白いのだろうか、こんな自分。
    道化にしては情動が不明瞭な自分。
    同情にしては行動が能動的なココ。
    ほんとうに、かつて顔見知りだったんだろうか。そうでもなければ、ここまでしないだろう、多分。
    ココは最新のバイクカタログを持ってきた。ヤマハのやつ。ぼやけて図柄は見えなかったが、黒やら白やらのそれが唸り声をあげて走る様を想像すると、少し胸が躍った。
    「ココ」
    「何、イヌピー」
    「オマエはどれが好きなの」
    「俺は乗らねえ」
    「そ、」
    「それより、これとかどう。イカすぜ」
    「エンジン音聞きたい」
    「ん、」
    差し出された右イヤホンをひっかければ、耳の奥に重たく太いワイヤーをびぃ、と引き続けるような音が鳴る。きっと、間近で聞けば体の芯まで震えてしまうだろう。目を閉じれば排ガスの臭いがするようだった。膝の上にあった右手の指先をきゅ、と握っては開ける。吠え声に手がリンクした瞬間、風を感じて視線を上げた。
    「……、」
    「イヌピー?」
    「……いや。いいな、コレ」
    「だろ」
    ——俺には一生縁がない音だ。こんな視力じゃ街を歩く事すらままならない、バイクなんてもっての外だった。
    ココの持ち込む外の世界はイヌピーをいつだって楽しませたが、同時に白と彩色の箱庭から出られない事を幾度も肌に感じてしまうから、苦しかった。新しくできたボーリング場に行ってみたい。ジェットコースターに乗りたい。スケボーがやってみたい。野球で一塁から三塁、ホームベースまで息を吐き吐き駆け抜けたい。たまにはカッコつけて、美術館とかにも行ってみたい。バイクに乗りたい。
    ……外で、ココと歩いてみたい。記憶を欠いて以来の強い衝動だった。ファミレス、スタバ、水族館、学校。この際どこでもいい。隣にこいつがいたら、多分、きっと楽しいんだろう。馬鹿やったって真面目にしたって、こいつとなら、きっと。
    バイクの唸り声はいつしか消えて、片耳から入ってくる音はやかましい広告にすり替わっていた。イヤホンを外す。
    「イヌピー?」
    「わり、今日ちょっとチョーシ悪ぃから帰るわ」
    「……そ、か。じゃ、また会いにくるわ」
    「ハハ、」
    待ってる、と言いかけて飲み込んだ。女々しかった。

    〈Number of days elapsed = one week later〉
     〈actor:"  ","H.K"〉

    「——いいな、これ」
    「やるよ」
    「……サンキュ」
    指先に鼻を寄せてそう答えれば、手のひらに小瓶。
    アロマオイルの類らしい。施設の中は香料厳禁だが、部屋で少し嗅ぐくらいなら大丈夫だろう。ずしりと重くて湿った、森や木のような香り。ココらしからぬそれは、多分イヌピーの為のもの。
    目を閉じて冷たいガラス質の感触を楽しむ。ほぼ機能していない目を、最近面倒くさがって閉じっぱなしにする事が増えた。どうせ移動中はココが手を引いてくれる。一人でいる時はきちんと見ようと努力するが、彼の存在がイヌピーを以前よりも怠惰にさせた。イヌピーはその変化を享受している。
    「イヌピー」
    「何、」
    ぱちりと開けた瞼の向こう、肌色の影——ココの手が伸びてきていた。もう一度何、と問えばぱたりと落ちる。どこかに触れるつもりだったのだろうか。興味よりも、喉の奥にみしりと詰まった硬さが勝ったので、何も言わない。表情はぼやけて相変わらず伺えやしないし、何か、言葉にして聞くのも憚られた。……かつてのイヌピーは、それを許したのだろうか。火事の前の、本来のイヌピーなら。
    分からなかった。
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