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    ファイアナ(現パロ)
    高校の頃からの初恋を胸に、先生を追いかけて、新米教員となった☀️と、かつての教え子が同僚になって距離が近くなったことで色々と自覚してまう🌿

    桜が風に舞う、穏やかな春の朝。
    正門の前で足を止め、懐かしい校舎を見上げる。

    ここは、僕が三年間過ごした場所。
    卒業してから、しばらく経ったというのに――こうして目の前にすると、あの頃の記憶が静かに呼び起こされていく。

    教室を満たす柔らかな光の中で、先生の横顔を、理由もなく目で追っていたこと。
    板書を止め、遠くを見るように何かを考えている姿が、どうしてか気になって仕方なかったこと。
    ふと名前を呼ばれ、返した声がやけに上ずってしまったこと。

    こうして思い返すと、胸の奥に小さな熱を灯す記憶ばかりだ。多少は美化されているかもしれないが、それでも、僕にとっては今の僕を形成する大切な記憶だった。

    かつての思い出のおかげか、新任として赴任する緊張感は確かにあったのに、その強さは少しだけ和らいだように感じる。――その時だった。

    「……ファイノン?」

    背後から聞こえた声に、思わず振り返る。
    桜の花びらの向こう、若草色の髪が朝の光を受け、輪郭をやわらかく縁取っている。
    その人は、軽く目を見開き、驚きを隠せない様子で僕を見ていた。まさに、ついさっきまで思い出していた記憶の中心にいた人。その人と、まさか、こんなにも早く再会できたことに、嬉しさとどこかむずがゆい恥ずかしさが胸の奥で混ざり合っていき、自然と口元を緩めてしまう。

    「お久しぶりです。今日から、お世話になります……、アナイクス先生」

    一瞬だけ間を置いて、先生は目を細めた。

    「…本当にあなただったとは。まさか、こうして再会する日が来るとは思いませんでした」

    口元にほんのわずかな笑みを浮かべながらも、その声音には驚きと興味が入り混じっている。
    それと同時に、先生の視線が一瞬だけ僕の全身をなぞる。それは評価するようでいて、どこか確かめるような眼差しだった。
    その視線に、胸の奥でわずかに強まった鼓動を悟られまいと姿勢を正す。けれど、先生はそんな僕の様子を見て、目を細めてふっと微笑んだ。

    「……緊張してますか?」
    「……少しだけ」
    「安心なさい。少なくとも、格好は問題ありませんよ」

    軽く肩の力を抜かせるような先生の言葉に、思わず息がほどける。先生は視線を正門の奥へ向け、桜の花びらを払うように手を軽く振った。

    「あなたには不要かもしれませんが、せっかくですので、職員室まで案内しましょう」

    若草色の髪が春の風に揺れ、ひとひらの花びらがその肩に落ちる。僕は一拍遅れてその背を追いながら、再会の余韻を胸に静かに抱きしめた。

    ――――――――――

    「ファイノン先生、……はぁ、ファイノン!」

    耳に届いたその声は、かつて生徒だった頃、課題を忘れた時や授業中に気を抜いた時に聞いたもので、反射的に背筋が伸び、ペンを握る手が止まる。

    顔を上げると、上着を脱ぎ、シャツの袖を軽くまくったアナイクス先生が立っていた。

    「……まだ終わらないんですか?」
    「えっと、もう少し…かな」
    「もう少し、とは。具体的に言いなさい」
    「この採点が終わるまで…です」

    恐る恐る答えると、先生はゆっくりと視線を答案用紙の束へ落とし、その厚みを確かめるように指先で軽く叩いた。

    「はぁ…、帰りはもう少し遅くなりそうですね」

    先生は小さく溜息を零しながら、迷いなく僕の机の端に積まれた答案を手に取った。

    「え、先生まで残る必要は――」
    「必要はあります。新人の面倒を見ることも、先輩教員の役目ですから」

    そう言うと、先生は迷いなく僕の机の端に積まれた答案を手に取り、近くの席に腰を下ろして赤ペンを構えた。
    しばらくの間、職員室にはペンの走る音と、紙をめくる乾いた音だけが続いていた。
    視界の端に映る先生の横顔は真剣そのもので、その姿勢や眼差しに、ふと高校時代の記憶が重なる。

    「先生の面倒見の良さは、変わらないね」

    ふと漏れ出た言葉に、先生が横目でこちらを見る。

    「変わらない?」
    「ほら、学生の頃も、放課後に、授業で分からなかったところを教えてくれたり。入試前とかは、毎日付き合ってくれていた……って、半分は僕が押しかけたようなものだけど」
    「あぁ…、そんなこともありましたね」

    先生の口調は淡々としているのに、どことなく優しい雰囲気を感じる。

    「……覚えてくれていたんだね」
    「覚えていないはずがありません。あなたは、納得するまで帰らない生徒でしたから」
    「それって……良い印象ってことで、だよね?」

    思わず確かめるように口にすると、先生はほんのわずか口元を緩めた。

    「さて、どうでしょう?」

    微笑を残したまま、先生は手元の答案用紙に最後の赤を入れる。そして、先生答案の束を揃えると僕の机に戻してくれた。

    「これで、採点は終わりですか?」
    「あ、そうだね。僕のほうもちょうど終わったよ。はぁ…助かった…。ありがとう、アナイクス先生」

    礼を言いながら答案を受け取ると、先生の視線が、ふと僕の顔をとらえる。
    その目は、答え合わせの正否を確かめるときのように静かで――けれど、どこか心配そうでもあった。

    「……あまり根を詰めないように。あなたは昔から、期待されやすくて、それに応えようとしがちですから」
    「うっ……」

    僕を案じている言葉とは分かっているが、図星を刺されたようで息が詰まり、視線を横にそらしてしまう。
    先生はそんな僕の反応に、再び小さな溜息をつき、僕の頭を軽く叩いた。

    「倒れては意味がない。そして、少なくとも、あなたが倒れたら案じるものがここに居ることは忘れないように」
    「……はい」

    自分でも気付かないうちに、小さく笑みがこぼれていた。先生の言葉は、ただの忠告ではなく、僕を案じてくれる優しさそのものだと分かる。

    胸の奥に、じんわりとした温もりが広がっていく。
    ――やっぱり、何も変わっていないね、アナイクス先生。

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