百花の魁「梅さん」
「……ん? おー阿■、元気してたか?」
「元気してたか、じゃないですよ。いつの間に女主人になってたんですか」
「ああ、いやなあ」
ぷかりと煙管をふかす。
「ここの前の主人がな、花魁が主人になれるまでの間ここを頼んだっつって死んじまってなあ」
「錨だったんですか」
「いいや、ただの友人さ」
「で、なにか?まーた後始末か?」
「あー……はい」
「よしよし、営業始まる前にちゃちゃっと片付けに行きますかね」
「よろしくおねがいします」
= = = = =
ふと思い立って姐さんのことでも。
この小話は友人だった遊郭の主人に頼まれてしばらく女主人を請け負った姐さんの話だったような。
あと、どっかで書いたような気がするのにどっか行った姐さんの"夫"の話。梅妻鶴子の人です。
毎日自分を妻と呼んでくれたから、という意味での夫。この人にはほとんど姐さんの姿は見えていなくて、姐さんはただ愛してもらうだけだったのかなあと。
姐さんが獣領域じゃなく歌領域なの、花そのものではなくて「今まで梅という概念に注がれてきた感情」から生まれた存在で、特に漢詩や和歌で作られた人だからと考えています。だから花そのものよりもっと概念的で、梅雨のイメージも含むし、梅毒なんかのマイナスイメージも含む。人がいなければ梅という概念に感情を注ぐものも居なくなるわけで、だから姐さんは人を守ることを第一に動いています。さらに言うと魔法使いだけの世界もあまり望んでいないです。そういう情緒がある方が珍しいまでありますし。自分を愛してくれた全ての知的生命体に等しく愛を返そうとするし返してしまう生き物。だから動物などには基本淡白です。
愛の女であり、一生自分の恋が叶うことは無い女。
人は花(自分)を愛してくれても、花(自分)に恋することは無いから。
もちろん魔法使いとしての見た目に恋してくれる人はいるかもしれないけれど、本来の自分(概念)に姿形などないから。