蓋をかぶせて.
「お前な、急に術を唱えるな! 当たるところだったろ!」
「あれは周一さんの判断が遅いせいでしょ。当たらなかったからいいじゃないですか」
「……おれごと壺に入れる気だったくせに」
「あはは。いいですねそれ。周一さんが手元にあったら楽しいだろうなあ」
楽しくない。的場の明るい声を聞きながら、名取は苛立ちを抑えるように溜息をついた。
空はやけに澄んでいた。雲は遠く、風もない。空気が湿り気を増しているが梅雨には早い、そんな時期だった。
蔵で調べ物をしていた休日に、突然押しかけた的場に山奥まで連れてこられたのだ。そこで始まった妖捕り物をようやく終え、ひと息つけたのが今だった。
山道を降りた先に、ぽつんと立つ古びたバス停。ふたりはどちらからともなく、その日陰に腰を下ろした。
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