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    8hacka9_MEW

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    ワタルと虎王が豆まきの豆を食べる話

    ワタルは、包みを抱えて、龍神山の階段を登っていった。今日は自治会で子ども向けの節分の催しがあり、その時にワタルは、食べる用の豆をもらったのだ。歳の数だけ食べるといいと言われたが、持っている豆はワタルの歳以上に入っていた。どうしたものかと考えて、ふと思いついて、こうして龍神山へとやってきたのだ。
    いつもの近道を通って、龍神池へと出る。辺りはしんとしており、誰もいなかった。
    ワタルは、桜の木の下向かい、腰を下ろした。地面が少し冷たかった。
    来る確信はどこにもなかった。会えれば嬉しいが、会えなければ『そういうものだ』と思えばいい。そのくらいの気持ちの整理の仕方を、ワタルは覚えていた。

    やがて……

    「よう」

    頭上から声が聞こえて、ワタルは振り返って桜の木を見上げた。木の枝に紛れて、虎王の姿が見えた。ワタルは、虎王に笑いかけた。
    「やあ」
    「なにしてんだ?こんなところで」
    「虎王こそ、どうしたんだ?」
    「オレ様か?なんとなくワタルに会える気がして、歩いてきたんだ。そうしたらこの木を見つけて、登ってみたら、お前の姿が見えるんじゃないかって、そう思ったんだ。そうしたら、お前はすぐそこにいた」
    虎王は、嬉しげに笑って、木から飛び降り、ワタルの側に着地した。
    「それで?お前はなんでここに?」
    「ボクも同じだよ。今日ここに来たら、虎王に会えるんじゃないかって、そんな気がしたんだ」
    「そうなのか?」
    「うん」
    「…そうか」
    虎王が、喜びを噛み締める様に、言った。ワタルは笑って、座ったら?と言った。
    「虎王に会えたら、これ、一緒に食べようかと思って」
    「?なんだ?」
    虎王は、ワタルが開いた包みを覗き込んだ。
    「豆だよ」
    「豆?」
    「今日、もらってきたんだ。自分の歳の数だけ食べると、元気でいられるんだって」
    「ふーん…、ワタルは、いくつなんだ?」
    「ボクは10個だよ」
    「なら、オレ様も10個だ!ワタルと同じ数がいい!」
    「自分の歳の数だってば。10歳って事でいいの?」
    「知らん」
    「、え?」
    「翔龍子はそのくらいかもしれんが、それは『オレ様』の歳じゃない」
    「……虎王」
    「だから、オレ様は、ワタルと同じ歳だ。それが、オレ様は一番いい」
    な?と、虎王は笑った。ワタルは、頷く事が出来ず、虎王に、豆を差し出した。
    「じゃあ、10個取って」
    「ああ」
    虎王は、いち、に、と数えながら、豆を取った。そうして、10個目を数えた時だった。
    「ワタル」
    「え?」
    「これじゃ、足りないぞ?」
    「え、あ…」
    包みに残っていたのは、9個だった。元々、一人分を多めにもらったものだったから、中途半端な数でもおかしくなかった。
    虎王は、自分が取った豆を一つ、ワタルの方へ入れた。
    「ワタルが食えよ」
    「え?…ボクは良いよ。虎王が食べて」
    「元々、オレ様は自分がいくつかはっきりしないんだ。だったら、ワタルが食った方がいいだろ?」
    「…虎王」
    「この先、オレ様がワタルの歳になるかも分からないんだ。だったら、ワタルが食った方が…」
    「なに言ってるんだ!なれるよ!」
    ワタルは知らず、声を荒げた。虎王は驚いて目を丸くしている。
    「なんで……、なんで、自分はもう、歳を取らない様な事、言うんだよ…!虎王は、ちゃんと歳をとるんだ。来年も、再来年も、そのずっとずっと先も……っ。ボクと、同じように…ちゃんと歳をとるよ……っ」
    ワタルの声が、掠れた。
    なんだか、悲しくなったのだ。
    虎王の言い様はまるで……

    この先には、もう自分に未来がないかの様な、そんな言い方だったから……

    「ワタル……」
    「……ごめん」
    ワタルは、目に滲んだ涙を乱暴に掌で拭いた。そうして、自分の所から、豆を一つ取った。虎王は、その手を押し留めた。
    「お前が食え」
    「だって……」
    泣きそうな顔をするワタルに、虎王が笑いかけた。
    「大丈夫だ、オレ様は、ちゃんと歳を取る。お前と同じ様に」
    「……虎王」
    「だって、そうじゃなきゃ悔しいじゃないか。お前ばっかり歳を取って、オレ様はそのままなんてさ。だから、オレ様は必ず、お前に追いついてみせる。約束だ」
    「…ホントだね?」
    「ああ」
    「約束だよ」
    「ああ、ワタルとの約束だ。必ず守るさ。だからお前も……」
    言いかけた虎王の言葉を遮るように、強い一陣の風が吹いた。ワタルは、思わず目を瞑った。風がおさまり、目を開けると、もうそこに虎王はいなかった。

    「……虎王」

    “だからお前も……”

    虎王が言いかけた事は、最後まで聞き取れなかったが、ワタルは、虎王が何を言いかけていたのか、分かった気がした。
    「……うん、」
    手元を見ると、豆はきっちり、10個だった。一つつまんで、口に入れる。香ばしいはずのそれは、少しだけ、苦く感じた。
    「……虎王も、ちゃんと食べてくれよ……」
    また、視界が滲んだが、ワタルはそれを、豆の苦味のせいだと思う事にした。
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