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    8hacka9_MEW

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    ワタルと虎王が落ち葉で遊ぶ話

    カサコソ、カサコソ、黄や赤の葉っぱが舞っている。
    ワタルは、アスファルトに散らばるそれに吸い寄せられるように、落ち葉の絨毯へと足を踏み入れた。
    葉を踏むと、微か抵抗と共に、パリパリと音がする。その感触と音が心地よく、ワタルはひっそりと笑みを浮かべながら、何度となく、落ち葉を踏んだ。

    カサコソ、パリパリ、カサコソ、パリパリ

    葉が硬い地面に擦れる音と、足元で聞こえる音の対比が楽しくて、ワタルは跳ねるような足取りで、葉を踏んでいく。

    ハラハラと舞う落ち葉は、どこまでも、どこまでも続いているような気がした。
    もっと、もっとと思いながら、ワタルは落ち葉が敷き詰められた道を、進み続けて行った。

    「……あれ?」

    ふと気づくと、ワタルはいつもの通学路から、見知らぬ道に出ていた事に気付いた。道の両側には、赤や黄色に色づいた街路樹がどこまでも道なりに続いていた。人通りはなく、ワタルの上にはハラハラと落ち葉が舞うばかりだった。

    不意に、強い風が吹き、ワタルの髪や服、そして周囲の落ち葉を舞い上げる。ワタルは思わず、目を瞑って顔を腕で覆った。
    やがて風が止むのを感じ、ワタルは薄く目を開き……ついで、目を見開いた。

    ワタルから少し離れた所に、見覚えのある人影が、やはりワタルと同じ様に顔を腕で覆っている。先程までは影も形もなかったはずだったのに、まるで、舞い散る落ち葉に運ばれて来たかの様で……

    「虎王」

    考えるより先に、ワタルの口から名が溢れた。金色の髪の下の青い瞳が、驚いた様に見開かれ……

    「ワタル!」

    西日よりも眩しく明るい笑顔で、虎王が笑い、ワタルへと駆け寄った。
    「虎王、どうしてここに……?」
    嬉しさと戸惑いを交え、ワタルは目の前の虎王へと言う。もしかしたら夢か幻ではないのかと、ほんの少し、疑わしく思った。虎王は、不思議そうな顔で首を傾げる。
    「ここ?ここって、何のことだ?」
    「え?だって、ここは……」
    「オレ様は、モンジャ村から聖龍殿へ戻る所だったんだぞ?お前こそどうして……」
    言いながら、虎王は辺りをキョロキョロと見回した。
    「ワタル」
    「なに?」
    「ここはどこだ?」
    「ええ……っ?虎王も、分からないのか?」
    「なんだ、お前も分からないのか?」
    「うん……ボクは、学校帰りに、落ち葉を踏んで遊んでいたんだ。気が付いたら、ここに着いていて、目の前に虎王がいたんだ」
    言いながら、ワタルもまた、辺りを見回した。前にも後ろにも、どこまでも続く道と黄や赤の街路樹があるばかりで、他には何もない。二人以外の人が通る気配もなく、聞こえるのは落ち葉がカサコソ舞う音ばかりだった。
    ワタルは何だか、見知らぬ場所で迷子になったかの様に、心細くなってきた。
    「ワタル」
    急に、ずいっと虎王がワタルへ顔を近づけてきた。
    「え?な、なに?」
    「お前、落ち葉を踏んで遊んでいたって言ってたよな?」
    「あ…、うん」
    「なにが楽しいんだ?」
    「ええ…っ、なにって…」
    言いながら、ワタルは足元を見る。いつの間にか、ワタルや虎王の周りには、一杯の落ち葉が敷き詰められていた。
    軽く足を上げて、落ち葉に足を乗せると、パリパリと、軽い音がした。
    「……落ち葉を踏む音を立てるのが、何だか楽しかったんだよ」
    「落ち葉を踏む音?」
    「うん、こうやって……」
    ワタルは、さっきと同じ様に、跳ねる様に落ち葉の絨毯を踏んでいく。パリパリと軽い音が、ワタルの周りに響いた。虎王は、それをじっと見ている。あまり、面白い事じゃなかったかな、と、何となくワタルが気まずく思った時だった。
    虎王が足を上、ワタルと同じ様に落ち葉を踏み締める。パリパリと響く音を聞き、虎王はパッと笑顔になった。
    「ホントだな、ワタル!」
    「え?」
    「ただの落ち葉なのに、こんな音を立てるなんて、何だか楽しいな!」
    虎王は笑って、落ち葉を楽しそうにゆっくりと踏んでいく。ワタルも嬉しくなって、虎王の側に行き、二人して、落ち葉を踏んだ。

    パリパリ、カサコソ、パリパリ、カサコソ

    踏みながら、ふと、ワタルは落ち葉の敷き詰められた光景を見る。黄色や赤に茶色といった落ち葉は、程よく乾いて軽い音を立てている。
    その形はまるで……
    「何だか、コーンフレークみたいだな」
    「?こーん…何だって?」
    虎王が、足を止めてワタルに顔を向けた。
    「コーンフレークだよ。朝ご飯に食べる……香ばしくって、パリパリしたものだよ。牛乳をかけて食べるんだけど、パフェの下に入ってたりもするね。水分を吸っちゃうとふにゃふにゃになっちゃうんだけど、ボクは、パリパリしたのをそのまんま食べるのが好きだな」
    知らない?と、ワタルが言うと、虎王は首をふるふると横に振った。
    「そっか…聖龍殿では食べないかもね」
    「そのこーん……ナントカは、せんべいの一種か?」
    「パリパリしてるって言っても、せんべいとは違うよ。甘いのもあるけど、どっちかっていうと、香ばしいだけの…お菓子の一歩手前みたいなものだよ。砂糖とか、チョコレートがかかったものだと、お菓子になるね」
    「チョコレートがかかっているのもあるのか?」
    虎王の目が、好奇心で輝き出す。素直な反応に、思わずワタルは笑った。
    「うん、チョコフレークっていうんだけどね。外は甘くて、中は香ばしくて、美味しいよ」
    「そうなのか?オレ様も食ってみたい!」
    虎王が、心底食べたそうに言う。ワタルは、困った様に笑った。
    「今は持ってないけど…今度会う時に、一緒に食べれる様に持っておくよ」
    「よし、約束だぞ!」
    「うん」
    期待に満ちた目に、思わずワタルは頷くも…心の中に、小さな引っ掛かりを感じた。

    『今度』など、本当にあるのだろうか…と

    ワタルの、僅かな心の陰りに気付かない虎王は、足元の葉っぱを両手一杯に掬い上げた。
    「これだけ一杯あったら、芋が焼けそうだな!」
    「芋……って、焼き芋の事?」
    「おう!ヒミコから聞いたんだ。落ち葉を集めて燃やしている中に、さつま芋を入れると、焼き芋になるってな!」
    言いながら、虎王が葉を自分の上へと放る。風に煽られた葉が、虎王やワタルの周りを舞った。
    「今度、ヒミコも一緒に、焼き芋しような!」
    虎王が嬉しげに笑って言った。楽しい事を想像している顔だった。ワタルも、一緒に笑いたかった。
    ヒミコと、虎王と、焚き火を囲んで焼き芋を食べる……たったそれだけの光景が、とても、キラキラと眩しく輝いている様な気がした。

    それは、まるで、

    叶わぬ夢の様に、ただただ、美しい光景の様な気がして……

    「ワタル?」

    虎王がワタルに呼びかけた途端、急に、強い風が吹いた。
    足元の落ち葉が、宙に舞う。赤や黄色や茶色の落ち葉が、ワタルと虎王を隔て……虎王を、覆っていってしまうかの様だった。
    ワタルは、駆け寄って、手を伸ばした。

    このままでは、虎王が、落ち葉と共に風にさらわれていってしまう気がして……

    「虎王……!」

    木の葉ではない、夢ではない感触を、ワタルはその手で、しっかりと掴んだ。

    やがて、風は止み、ハラハラと周りに落ち葉が舞い降りた。
    ワタルは、目を擦る。舞い散る木の葉に紛れていた砂が、目に入ってしまったようで、少しだけ痛かった。
    滲んだ視界の先には……

    確かに、ワタルが掴んだ虎王の腕があった。

    虎王は、驚いた様な顔で、ワタルをじっと見ていた。金の髪に、木の葉が何枚もついている。
    幻でも、夢でもない。
    その事に……ワタルの目頭が、熱くなった。

    「ワタル」

    虎王は、空いた手でワタルの肩についた落ち葉を払った。髪や頭についた木の葉も、少し乱暴に払う。ワタルは、虎王の手を掴んだまま、同じ様に肩や頭の木の葉を払ってやった。目が合うと、青い目が細められる。

    「泣くな、ワタル」
    微笑んで、虎王がワタルの前髪から木の葉を取る。虎王と同じ髪の色をした葉を、ワタルに差し出した。
    「オレ様達は、何度でも、また会える。だから、泣くな」
    「………虎王…、……」
    ワタルは、虎王から手を放し、手のひらで目元を拭った。
    「うん、…大丈夫。目に砂が入っただけだから」
    「そうか、砂か」
    「うん、」
    二人は頷き合い、笑った。

    「ワタル、お前はどっちから来たか、分かるか?」
    「え?……うーん、多分、こっちかな…」
    ワタルは、自分の背後を指差した。
    「そうか、じゃあ、お前はそっちに向かえ。オレ様は、こっちに向かう」
    虎王は、自分の背後を指差した。
    二人の指差す方向には、どこまでも落ち葉が敷き詰められた道が続いているかの様で、その先に何があるのかは見えなかった、が……

    「そうすれば、きっと帰れる」
    虎王が、ニカっと明るく笑った。
    「虎王……」
    「振り向くなよ?自分の帰り道だけを見て進むんだ。オレ様もそうする」
    「……うん、分かった」
    ワタルも、虎王に笑いかける。虎王は、嬉しそうに笑っていた。

    「またな、ワタル」
    「またね、虎王」

    二人は、お互い手を振って……

    そうして、それぞれが来た道を、落ち葉を踏みながら、歩き始めた。

    パリパリ、カサコソ、パリパリ、カサコソ

    自分の足元と、背後から、落ち葉の音が聞こえてくる。
    背後の音は、段々と遠ざかっていき………

    不意に、後ろの落ち葉の音が、全く聞こえなくなった。

    ワタルは、思わず後ろを振り返る。
    そこは、ワタルがいつも通っている通学路の住宅街だった。
    どこまでも続くかと思われていた落ち葉の絨毯は、ワタルの足元と、その背後の家の数件前にしかなかった。落ち葉は風に吹かれると、あっという間にその場から周囲へと散らばっていった。

    もう、虎王の姿は見えなかった。
    ワタルは、自分の手元を見る。
    黄色のイチョウの葉が、しっかりと握られていた。

    「……チョコフレークと、焼き芋…か」

    何だかおかしな組み合わせだな、と、ワタルは微笑んだ。

    後でスーパーで買っておこうかな、と、ワタルは落ち葉の音を聞きながら、思った。

    カサコソ、パリパリ、カサコソ、パリパリ
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