【夏五】いつもとは違う顔「…お前、大丈夫かよ?」
覗き込んでくる五条に、いつもの傲慢さはない。まるで置いてけぼりをくらった幼子のように、青い目は不安げに揺れていた。大丈夫だよ、と伝えたかったのに、耐えきれなかった咳に邪魔される。こんなときどうすればいいのかわからないのだろう、ただおろおろと周囲を見渡して狼狽える。
あの、五条悟が。
そう考えればなんだかおかしくて、思わず顔に出てしまっていたらしい。なに笑ってんだよ、と顔を顰めた。
「だい、じょぶ、だから。ほら」
もう出なければならない時間なのだろう。白い頭の向こうに、困った顔で中を覗き込んでいる補助監督が見える。急がなければならないが、無理やり連れだすほど非情にもなれない。
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