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    しろい墓

    @trpg_shiroosan

    主にらくがき倉庫。うちうち/うちよそ/たまによそよそさんのSSなど
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    しろい墓

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    うちよそSS。つばるみ。
    留美ちゃんはフォロワーさんのこ そのうちリメイクしたいと言っていてとうとうできていない(小並感)

    しあわせ描き


    「ねえ」
    「うん、なあに?」
     とある日の夜。はじめこそ慣れていなくて"モドキ"感の拭えなかった親子丼を作るのもすっかり板につき、あいするひとのお腹を膨れさせることに成功した椿は、彼女の「たまには私がお皿洗うから……!」なんて声も押し切ってシンクに水を流していた。やることを探していたんだろうか、それからはすこし心配そうな表情をしながらも自分のスマホをいじっていた留美は、ふとその手を止める。
    「椿って、まえラテアートつくる仕事してたんだよね?」
    「うん」
    「今もできる?」
    「……あー、まあ。しばらくやってないから前より下手になってると思うけど、作れると思うよ」

     いつかは聞かれるだろうなと思っていた。

    「ほんと? じゃあ、作ってほしいな! 私、椿の作ってくれたラテ飲みたい!」

     あと、いつかはこんなお願いをされるんだろうなということも、うすうす勘づいてはいた。

     嫌だというわけではない。……いや、そこにある幾多の思い出は必ずしも悪いものじゃなかったのだから、自分の愛したラテとずっと自負していた手先の器用さを活かせる仕事に罪はないのだけど。でも、あまりに、「悪い」方が濃すぎているのだ。よく「100人の称賛より1人の批判でつけられた傷のほうが根強く残り続ける」みたいな話を耳にするけれど、椿の場合は、たぶんそれだったのだろう。
     だからカフェを辞めてからは、あの苦味とどこか甘ったるいミルクの風味を忘れようとしていた節があることを、いま、認めざるを得なかった。──彼女の願いなのに。誰よりも大切な留美のお願いなのに、俺は、
    「ていうか、私も一緒に作りたいな。椿と」
     ………………わかったよ、じゃあ一緒に作ろうか、と。
     自然と口に出ていた。今までの思考はまるでなにも意味が無かったというように。ばかみたいだねと、口を衝いた自分とはべつの頭の中の自分が嘲笑ったような気がしながら。


    ◆◆◆


     お揃いのマグカップにひとり1杯分のインスタントコーヒーを溶かす。温めたミルクはいつも買っていた紙パックのストックではなくて、なぜか吸い込まれるように冷蔵庫の隅にあった瓶のほうを使ってしまったけれど、まあ危険はないだろう。
     俺がお腹痛くするぶんには何も問題ない、と隣でステンレス製のピッチャーに入ったミルクを興味津々な様子で見つめる留美を見れば、椿の頬はゆるり綻んだ。
    「椿、」
    「ん?」
    「あの……それ……私も……だめ……?」
     カフェにあるようなピックはないから爪楊枝で代用するとして、カップの中のコーヒーに完成したフォームドミルクを注ぎ込むなり楕円を描くようにくるくると指をあそばせる椿に留美はおずおずと尋ねてくる。
    「だめ。危ないでしょ?」
    「いっつもそれ……」
    「だってきみが怪我したらなんにもならないでしょ。痛い思いしてるとこ、見たくないよ」
    「でも私は椿と一緒に作りたいって言ったんだよ! それじゃあ椿しか作ってないじゃん!」
    「でも俺の作ったのも飲みたいって言ってたよね?」
    「あ、言っ……てた、けど……!」
     不服そうに、けれど言葉が続かずぐっ、と唇を噛むようにする留美を見ていると、なんだか椿はこちらのほうが辛くなってきてしまった。とはいえ怪我だけはさせたくない、というのもまた譲れないものなのである。だって、怪我をしたら、そしたらまた、
    「……ふふ、仕方ないなぁ」
     ……思考が再び止む。条件反射のように飛び出た言葉に呆れる自分が、「意思の弱いやつめ」とでも言ったような気がする。
    「じゃあ、おいで」
     それでも構わず手招きすれば、留美は椿の前に収まるようにして。
    「何……、っ、!?」
     刹那、言葉こそなくとも椿の指示する通りに留美はカップに手を添えて、もう片方の手で爪楊枝を摘めばその上からひと回り大きな手が自分を覆ってきた。
     骨ばった、でも少しばかりすらりとした細さが目立っているような、それでも紛れもなく格好良い、男性の手。彼の手は留美の手に覆い被さったまま、留美と一緒にくるくると輪をえがく。するとあっという間に動物らしい輪郭が出来て、さんかくの耳が生まれて、引いた線がひげになって──。
    「ほらできたよ、ねこさん」
    「え、あ、ほ、ほんとだ……」
    「初めてにしては上出来じゃない? 留美のねこちゃん」
    「う、うん……いや、椿がつくったようなものだけど……」
    「そんなことないよ、留美がつくったんだよ、これは。……や、ここは共同作業っていっとく?」
    「……なんかそれはちょっと恥ずかしい……けど、そっか。えへへ。椿は優しいね?」
    「留美ほどじゃないよ」
    「ふふ、まさかぁ」
     ありがとう、と椿が言えば、留美からもありがとう、と返ってくる。


     頭の中の俺は、なんて言うだろうか。
     なんとでも好きに吐かしておけばいい。いつかその嘲笑を失くすときがくるまで、俺は留美とこれからもいろんなことをするからな。それが俺たちの、愛なんだから。




     そんな強気な思いを抱くのもぶつける先も自分であるが、もうもはや、そんなことは怖くもなんともなかった。
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