halo 額の中央を綺麗に撃ち抜かれ、行く手を塞いでいた大男が糸の切れた人形のように倒れる。
銃声さえも聞こえないほどの遠距離から。しかも、僅かな狂いさえないヘッドショット。こんな芸当ができる人物など一人しか知らない。援護のためどこかで潜んでいるはずのその人は、今もスコープ越しにこちらを見ているのだろう。早鐘を打つ心臓を宥めすかし、せめて動作で感謝の意を伝えようとしたところで同行者に肩を掴まれ制止される。
「居場所が割れるとロックに危険が及ぶ」
短い言葉。だが、自分が軽率な行動をしたのだと気付かせるにはじゅうぶんだ。一瞬で腹の底が冷える。謝罪と感謝の言葉を述べると、肩を掴んでいた手が軽く背中を叩く。
「気にするな。俺も以前似たようなことをして叱られた」
その際の出来事を思い出したのか、白髪の青年は少し苦虫を噛み潰したような顔をした。……ような気がする。
自分達からすれば、東洋人の表情の変化はあまりにも些細なものだ。極東から来たという彼もその例に漏れず、感情の機微が少し読み取りづらい。それでも、入社当時よりは多少分かるようになってきているのだが。
それにしても、と床に転がる男を視界の片隅に収める。
「なんというか、……天使に守られでもしているようですね」
たとえ姿は見えなくても、絶えずこちらを見ていて困難の際には守ってくれる。この場所にはいない彼の存在はそういうものに少し似ていると、そう何気なく言葉に出して言えば目の前の青年は言葉もなくこちらを見つめている。
それはどんな感情からくる表情なのだろう。何かおかしなことを言ってしまったのだろうか。なにせ、この探偵社に集う社員達は自分の知っていた常識の範疇からは少しだけ逸脱している。
「いや、……そうか。そうだな」
白髪の彼は楽しそうに小さく喉を鳴らす。きっと、今は機嫌がいいのだろう。さすがにそれは分かる。
「帰ったら感謝の言葉と一緒に本人に言ってやれ。きっと面白い顔が見られる」
この会社ならそんな類いの褒め言葉など聞き飽きている気はするが、……そういうものだろうか。
半信半疑で頷けば、青年はまた小さく喉を鳴らして笑った。