この教室は大変退屈だ。
カーテンで遮られた日差しから漏れ出す陽気は私とは対象的にあっけらかんとしている。黒板の文字が笑い出す。
『またあくびをしているよ。そんなんで今学期は大丈夫なのかい?』
うるさいなあ、ここが嫌いなんだ。
『これとは話は別さ。キミの進路はどうなんだ』
『彼女に何を言ったって無駄だよ』
今度は机の脚が溜め息を置く。酸素が散った。
『この教室には彼女の嫌いなものしかないんだ』
よく分かっていらっしゃる木製家具ですこと。
『まあね。キミ以外に触れてくれる人間がいないんだ。他を知る術がない』
そりゃあ私、嫌われてるもの。
嫌いなものが嫌ってくるなんて清々するわ。
『だから退屈なんだろうに』
黒板の文字は増えたり消えたりと忙しないクセに減らず口。
「鈴屋」
「あ、はい!」
「何机に突っ伏してるんだ。今日板書した3つの公式を言ってみろ」
「…………」
こういう時に限って無機質な知り合いはただの飾りになる。
私は鈴屋 与留。
この学校の教室という広い世界を嫌う幸せ者だ。