ハッピーバースディそれが何匹目だったのかはわからない。
ドクンと体の中で何かが脈打ったのがわかった、耳元で誰かが啜り泣いたような気がした。
それが自分達の「父」という存在の別れの意味を込めた悲しみの音色だとは知りもしない。
肩甲骨付近に走り抜けた痛み.内側から外へと突き破るかの激痛。
立っていられずシュルスは膝をつき、一度何かに別れを告げるかのように空を仰いだかと思うと、襲いかかってきた激痛を抱きしめるかのように自らの体を抱きしめ、顔を地面へと向けた。
「シュルス!」
フェルネは駆け寄ろうとしたが、それを遮るように影から悪魔が姿を見せる。
「お前……」
「全ての時間が混じり合った……」
にぃと笑い差し出したのは砂時計。砂は落ちることなく上に止まっている
「っ!」
その目を砂時計から引き離したのはシュルスの咆哮だった。悲鳴混じりの絶叫。
その背にあったはずの白い翼はとうの昔に切り取っていて、その傷跡から新たに黒い翼が生まれだしている。
ひどい絶叫あげる姿にフェルネは不安を感じるが、だけどその声が徐々に笑いに変わっているのに気づき、鮮血に染まりつつも愉悦を顔に浮かべ出したシュルスにおぞましさすら覚え後ずされば、その背にとんと何かが触れてきた。
「お前の友だろ?見てやらねばな」
いつの間にか背後に回り込んでいた悪魔が、肩を掴み動けぬようにして、すいと視線の先に砂時計を見せてきた。
「ほら動くぞ」
止まっていた砂が、さらりと落ち始める
「ハッピーバースデー……新しいオモチャくん。天使でも悪魔でもない、どちらにもなれて、どちらにもなれない。誰をも愛せて、誰にも愛されない、最高の時間の始まりだ」
ユルユルと落ち始めた砂時計。悪魔は笑ってそれをフェルネの視線から外すと、新たな砂時計を見せてきた.砂が上で止まっている砂時計。
いや、よく見ればその砂は
「お前の分もあるんだよ。いつ堕ちてくるんだ?」
囁くように告げられた言葉。
フェルネは息を呑む。
砂は僅かに下に落ちていた