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    itigatsu

    うた腐り那翔文字書きです

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    itigatsu

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    大好きな人のお誕生日を一番にお祝いしたい人たちのお話し

    一番 眠さをこらえてじっと眺めるスマートフォン。
     文面はもうできている、後はチケットの一般発売よろしくジャストの時間に送信ボタンを押すだけ。
    「今年こそ……今年こそ……」
     ソファーの上でぶつぶつ呟くその様は一種異様だが、止める者は誰もいない。
     腕時計の秒針とスマフォの画面、瞳を行き来させて、頭の中で始めるカウントダウン
    「5……4……3……2……」
     秒針が最後の動きを見せる、と同時に鳴り響いたチャイムの音
    「ぅおわ!」
     予期せぬ音に驚きに肩が跳ね、スマフォが手から逃げてしまう。
    「あぁぁぁ!うっそだろぉ!」
     落としてしまったスマートフォン。
     送信ボタンは押せていない。
     翔は頭を抱えて天井を見上げたが、チャイムの音色がまだ響いていることに気づいて、床に落としたスマフォを拾い上げ、モニターへと足を向けた。
    「んだよ、うっせぇな!」
     こんな時間の来訪者。苛立ち覚えつつモニターを確認すれば、苛立ちはあっという間に吹き飛んで翔は慌てて玄関へと向かった。
    「薫、お前こんな時間に何」
    「翔ちゃん!お誕生日おめでとう!」
    「ぅおお、あ、ありがと。って、えぇ?」
     扉を開けた瞬間、鳴り響いたクラッカーの音。翔が面喰っていれば、双子の弟の薫が満面の笑みを見せてきた。
    「メールやLINEじゃ一番は無理だと思ったけど、直接のおめでとうは僕が一番だよね」
    「あ、え、おう……って、那月も一緒かよ」
     薫の後ろに居る姿、控えめに手を振ってくるその様子に翔が首を傾げれば、薫が今はこっちとばかりに手を握ってきた。
    「翔ちゃん、僕らは同じ日に生まれているんだよ?」
    「え?あぁ、そうだ。わりぃわりぃ、誕生日おめでとう薫」
    「ありがとう!あぁ良かった、今年は一番に会ってお祝いできたし、お祝いしてもらえた」
    「一番って……お前、まさかそのためにこんな時間に」
    とは言え、自分も先ほどまで一番を狙っていた。
    似たもの兄弟かと苦笑い浮かべれば、薫は軽く肩をすくめてくる。
    「夜勤を少しだけ抜けてきちゃった。だからすぐ戻らなくちゃ」
    「戻らなくちゃって、せっかくだし茶くらい」
    「僕だってそうしたいけど……でも、ダメなんだよねぇ。怒られちゃう。翔ちゃん、体に気を付けてよ。いくら丈夫になったっていっても」
    「あぁ、わかったわかった。ちゃんと気を付けるから……てか、近所迷惑になっちまうから、やっぱ中に入って」
     こんな時間にクラッカーの時点で結構な迷惑になっていただろう。今更ながらにそれに気づいて、翔は室内に招き入れようとするが、薫は名残惜しそうにしつつも首を振る。
    「じゃぁ、四ノ宮さん。二番手どうぞー」
    「はーい」
    「二番手、って。おいマジで帰るのかよ」
    「うん、じゃぁまた。電話するね」
     パタパタと小走りに去っていく薫の後ろ姿。おめでとう。その一言の為だけに、こんな時間にわざわざ家まで来たのかと、少しばかり呆気に取られつつも、喜び感じていれば、那月の薫くんの大好きには敵わないなぁと小さな笑い声が聞こえた。
    「お前、何してんの?」
    「薫君にじゃんけんで負けちゃったんです」
    「え?」
    「翔ちゃんに一番におめでとうを伝えるの。薫君と相談をして、最終的にじゃんけんで」
    「お前ら、俺の知らないところで何してんだよ」
    「だって大好きな人を一番にお祝いしたいのは当然の事じゃないですか。今年は薫君に負けちゃったけど、来年は負けません。翔ちゃん、お誕生日おめでとう」
    「ったく……サンキュー。あぁ、でも俺も一番にお前にお祝い伝えたかったんだよなぁ。めっちゃスマフォ握って待ってたのに」
    「メールなら今年は音也君が一番でしたよ」
    「マジで!?」
    慌ててスマフォを出して確認すれば、翔のところに届いた一番最初のおめでとうメールはレンからだった。
    別におめでとうの言葉に早い遅いはない。一番じゃなくたって、覚えてくれていて、または思い出してくれて、おめでとうと言葉をくれる.それだけでも充分。順番は関係ない
    「俺レンだ」
    「あ、レン君は二番目でした」
    「んー、あ、音也二番目だ。微妙な時間差か、あいつら一括送信しないあたり律儀だよ」
    とは言いつつ、わかりつつ、何故かメンバー間では時刻が変わると同時に自分が一番にお祝いしたいとばかりに一斉にメールが送られてくる。
    翔が必死にスマフォを眺めていたのは、誰よりも早くお祝いメールを送るためだった。
    ははっと笑って、ずらっと並ぶメールを眺め、翔は軽く肩を竦める。
    「俺送り損ねてんだよなぁ……今から送っても最後か。まぁいいや、送るぞー」
    本当は那月に一番に送りたかったお祝いの言葉。
    同じ日に生まれて、同じ楽器を嗜んで、同じ学園、同じ寮で共に過ごし続けた、奇跡的な関係の親友。
    チャイムの音がなければなーなんて思いつつ、だけどその音色の先にあった光景は嬉しさの光景で、不満を覚えるなんてお門違いで。
    翔が下書きから呼び出したメールを送信しようとすれば、那月がその指を止めるように声を上げた。
    「翔ちゃん。僕、直接のおめでとうはまだ誰からも貰ってませんよ?」
    「うん?」
    「お父さん達からもまだ電話ないから、直接のおめでとうはまだ誰からも貰ってません」
    「え、でも薫は……」
    「薫くんの一番最初のおめでとうは翔ちゃんのものだから。僕には後でメールをくれるそうです」
    ニコニコと笑みを浮かべる那月に、翔は少しだけ瞳を瞬かせて、そうして小さく笑う。
    「んじゃ、一番もーらい。那月、誕生日おめでとう」
    「わぁい。ね、翔ちゃん。新しい年齢の僕らで、お茶をしませんか?今年初めてのお茶を」
    「明日っていうか、今日仕事あるんだけどなぁ」
    「ダメ?お茶一杯分だけ、二人で今日をお祝いしませんか?」
    夜は事務所に呼ばれているから、きっとささやかながら誕生日の祝いをしてくれるのだろう。
    那月の背中に見える一泊分の荷物が入りそうなリュック。翔は小さく笑う
    「泊まっていく気か?」
    「収録スタジオここの近くなんですよねぇ……」
    「ったく。宿代代わりに、めっちゃ美味い茶煎れて、俺様を祝えよ」
    「はーい。任せて翔ちゃん王子」
    「んで、俺もお前に俺様特製ブレンドを作って祝ってやる」
    元気な返事に、いい加減近所迷惑になるなと、騒々しいバースデーの始まりに苦笑こぼしつつ、翔は那月を部屋へと招き入れた。
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