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    itigatsu

    うた腐り那翔文字書きです

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    itigatsu

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    七夕にアップしたかったのに全く間に合わなかった

    #那翔
    naXiang
    #うた腐リ

    短冊に願いをシャラシャラと聞こえる心地よい音。風に揺らされ、紙が触れあい、笹が触れ合い、軽やかな音色を奏でる。時折、チリンと高い音が聞こえるのは、笹の合間に飾られた風鈴の音色。夏特有の心地よい音、翔はハァと大きく息を吐くとトンネルになるように飾られた笹にニッと口角釣り上げて、楽し気な表情でその中を歩み始める。
    「すっげぇ」
     頭上でシャラリと音を立てる短冊。チリンと音色を奏でる風鈴。
     たまたま目にした七夕祭りのポスター、待ち合わせの時間までは少しあるしと足を向けて正解だったと翔は彩られた光景に瞳を眇める。
     少しばかり不満があるとすれば、「立ち止まらないでください」と終始流れ続けている無粋な機械音声。
     音声が流れていても足を止め、風鈴の音色に耳を傾ける者は多い。
     それくらいなら可愛いものだが、短冊に書かれた言葉を読み取ろうとする者もいる。
     短冊に書かれているのは様々な願い事、人の願いを盗み見るなど野暮としか言いようがない。それを少しでも防ぐための音声、無粋と思いはするが、流れ続けるのも仕方のない事だろう。
    「……願い事ばっかだよなぁ」
     足を止めずとも読める短冊はいくつもある。無粋と思いつつも、だけどついつい目を向けてしまう文字。足を止めずとも読めたいくつかは、全て願い事。
     笹のトンネルを抜けた後、翔は小さく息を吐き、そうして周囲を見回すと置かれた無地の短冊に気づいて小走りに駆け寄った。
    「っと、100円か」
     短冊は無造作に置かれているとは言っても無料ではない。1枚100円、そう書かれた紙に気づいて財布を取り出したが、中には小銭が入っていない。
    「あー……しまった、小銭がない……」
     もっというなら財布の中にカードはあれど金はない。ここ最近は電子決済ばかり使っていたせいで財布の中の事を気にかけていなかった。
     流石にこういう場で電子決済は使えない。諦めるしかないかと離れようとすれば、ポンと肩を叩かれた
    「翔ちゃん、みーつけた」
    「那月。どうした?待ち合わせはこっちじゃねーぞ、迷子か?」
     翔が聞けば、那月はパチクリと瞳を瞬かせた後クスリと笑みをこぼす
    「待ち合わせ場所には行ったんですけど少し早くに着いちゃって。ここのポスターを見かけたから、時間潰しに来てみたんです」
    「なんだお前もか」
     同じ理由で同じ場所に足を向ける。その偶然にくすぐったさ覚えていれば、少しその場を開けて欲しいと子供に声をかけられた
    「ごめんな」
    短冊の置かれた机の前を占領してしまっていた事に気づいて、那月の袖を引いて離れようとすれば、那月は短冊の存在に今気付いたらしく、わぁと声を上げ少し場をあけつつも、子供が短冊を手にして何かを書き込み、笹のトンネルにそれを吊るしに行くのを眺め、ウキウキした様子で短冊に手を伸ばした。
    「あ、お金いるんだ」
    「そー、俺小銭なくてさ」
    カバンから取り出したピヨちゃんのフェイスポーチ。翔の言葉に那月がチラと視線を向ければ、翔が笑みを浮かべて手を差し出していた。
    その様に軽く肩をすくめて、ポーチから200円取り出した那月は一枚翔へと差し出した
    「サンキュー!後で返すな」
    受け取ったそれを小箱に入れて、改めて眺めた短冊の束。青、赤、黄、白、紫、どれにしようか少し悩んでいれば、那月が黄色を手にする。
    「好きな色で選んだ?」
    上から一枚取ったわけではなく、明らか狙って取ったそれ。翔が聞けば、那月はペンを取りつつ、あぁと小さく笑う
    「短冊の色には意味があるんです。黄色は人との繋がりを大切に思う気持ち……だからね」
    迷いをみせる事なく動くペン先
    少し丸みのある文字で、書かれたのは「翔ちゃんとずっと一緒に居れますように」
    「翔ちゃんは書かないの?早くしないと、誰か来ちゃいますよ」
    「短冊の色かぁ……」
    「紫とかどうですか?学業とか色んな芸事の向上って意味があったはずです」
    「んー……あ、そうか。そうだな」
    取ろうとすれば、すみませんと声が聞こえて別の手が先に短冊を取っていく。一番上の短冊を持っていった手。きっと色の意味は知らないのだろう。だけど、普通はそうだよな。なんて思いつつ、紫を引っ張りだして、少し場所を変えてペンを握る
    「翔ちゃんはお星様にはお願いを託さないのに、織姫様にはお願いを託すんですね」
    「それなんだけどさ」
    ペンの尻を軽く揺らして、翔はチラと空に視線を向ける。
    「七夕の願いってのは、願いっていうより決意って意味が強いって聞いたことあるんだよ」
    「決意……」
    「おう。こうなるように頑張ります、見ていてください、手助けしてください。ってそういう意味だって聞いたんだよ……」
    「あぁ、確かに。七夕のお願いは、織姫様に決意を告げるものとも言われてますね」
    そうなの?と驚く事もなく、本当に?と調べる事もなく、自らも知っていたという返答に流石だなと感心を覚えてしまう。
    「だから、俺が書くならこうだ!」
    澱みなく走らせたペン先。書かれた文字に那月はフッと笑みを浮かべる
    「翔ちゃんらしいね」
    「だろ」
    ニヒッと笑って満足げに眺めた短冊に書かれた想いは「もっと上に行く」
    「現状に満足してないでもっとめざさねぇとな」
    「そうなって欲しいと願うのではなく、そうしたいという決意表明……ね、翔ちゃん。織姫様やお星様にはお願いしなくても、月にはお願いありませんか?」
    「へ?」
    どういう意味だと視線を向ければニコニコと那月は笑みを浮かべている
    「あー……月……」
    「はい」
    「んじゃあ、那、月にお願いしようかな。短冊が出来るだけ空に近い位置につけられますように」
    「その願い叶えてしんぜましょー」
    短冊差し出して、受け取って、二人は楽しげに笑いをこぼしあう。
    シャラリと風に揺れて音色を立てる新たな2枚の短冊。
    二人はしばらくの間それを眺めると、そろそろ移動しようかと、どちらからともなく相手の袖を引いた。
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    Lemon

    DONE🎏お誕生日おめでとうございます。
    現パロ鯉月の小説。全年齢。

    初めて現パロを書きました。
    いとはじイベント参加記念の小説です。
    どうしても12月23日の早いうちにアップしたかった(🎏ちゃんの誕生日を当日に思いっきり祝いたい)のでイベント前ですがアップします。
    お誕生日おめでとう!!!
    あなたの恋人がSEX以外に考えているたくさんのこと。鯉登音之進さんと月島基さんとが恋人としてお付き合いを始めたのは、夏の終わりのことでした。
    一回りほどある年齢の差、鹿児島と新潟という出身地の違い、暮らしている地域も異なり、バイトをせずに親の仕送りで生活を送っている大学生と、配送業のドライバーで生活を立てている社会人の間に、出会う接点など一つもなさそうなものですが、鯉登さんは月島さんをどこかで見初めたらしく、朝一番の飲食店への配送を終え、トラックを戻して営業所から出てきた月島さんに向かって、こう言い放ちました。


    「好きだ、月島。私と付き合ってほしい。」


    初対面の人間に何を言ってるんだ、と、月島さんの口は呆れたように少し開きました。目の前に立つ青年は、すらりと背が高く、浅黒い肌が健康的で、つややかな黒髪が夏の高い空のてっぺんに昇ったお日様からの日差しを受けて輝いています。その豊かな黒髪がさらりと流れる前髪の下にはびっくりするくらいに美しく整った小さな顔があり、ただ立っているだけでーーたとえ排ガスで煤けた営業所の壁や運動靴とカートのタイヤの跡だらけの地面が背景であってもーーまるで美術館に飾られる一枚の絵のような気品に満ちておりました。姿形が美しいのはもちろん、意志の強そうな瞳が人目を惹きつけ、特徴的な眉毛ですら魅力に変えてしまう青年でした。
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