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    itigatsu

    うた腐り那翔文字書きです

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    itigatsu

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    フォロワさんがTwitter上で書いてくれたショウノシンが、スタツア衣装の砂月のマカロンに手を出しているのがとてもかわいかったのでつい出来心で。

    音晴が買って帰ってきた洋菓子。あまり見慣れないそれに、ショウノシンが首を傾げれば、音晴は「マカロン」だと教えてくれた。
    「へぇ……これがマカロン」
    「うん。食堂の購買に入ってたんだ、ちょっと試しに入れてみたんだって」
     一つどうぞと差し出されて、受取ったそれをショウノシンはまじまじと眺めた。
    「そんな不思議そうにしなくても」
    「いやぁ……ガキの時に見たことがあるなぁと思って」
    「ガキって……ショウノシンの子供の頃って、何十年も前の話になるよね?」
    「まぁ……」
     少なくとも音晴が生まれるよりも前の話になるはず。言っても十数年程昔の話、マカロンはそのころにはすでにあったはず。見ていたもおかしくはないと思いつつ、音晴はマカロンを口にしたが、ショウノシンは口にせず、ただぽそりと「山に居た時に」と零す。
    「山ぁ!?」
    「……天狐様のところに居た時かなぁ……これにすっげぇ似た菓子を見た覚えがある」
    「え、でもそれってめっちゃ昔だよね……その頃ってマカロンあったの」
     ショウノシンが天狐のところに居た頃と言えば、音晴は当然見たことはないが、天狐曰く人間でいう所の幼稚園児位の大きさ、だった頃だ。
    「あれがそういう名前だったかはわかんねぇけど……神隠しでこっちに飛んできた人間のところにあって……あ、その人間は元の場所に戻ったらしいんだけど」
     指先で摘まんで眺めたマカロン。ピンク色したそれを眺めて、あの時手を出したのも確かこんな色だったはずだとショウノシンは記憶を手繰り寄せる。
     彼を初めて見かけたのは、天狐の目を盗んで人里へと下りた時だった。こちらの悪戯に怒った人間が、鍬や鎌を手に追いかけてくる、それを巻いて帰った時の達成感と高揚感。そんなものにはまっていた頃。
    「……なんだぁ?」
     ふわりと鼻をくすぐった甘ったるい香り。今日はどんな悪戯をしてやろうか、考えていたところに感じた香りに、ショウノシンは鼻を引くつかせつつきょろりと周囲を見回す。
    「こっちだ」
     人間に気づかれぬよう、屋根の上を軽々と飛んで移動しつつ辿る甘い香り。
     今まで匂った事のない香りに好奇心が刺激される、ワクワクした気持ちに尻尾が揺れる。
    「ここ!」
     匂いの先にあったのは、村の外れも外れ、大外れにひっそりと立つ小さな家。
     こんなところに家があったっけ、とか、どんな人が住んでいるんだうとか、そんな事よりも、この美味そうな香りはなんだろうという興味が勝っている。
     家へと駆け寄り、窓から覗き込んだものの、中の様子はよく見えない。
    「……ぜってぇここにあるんだけどなぁ」
     窓に寄れば一層強く感じた甘い香り。この正体は絶対家の中にある、確信持って窓へと近づけた顔。頬をガラスに引っ付けつつ、中を覗こうと必死になるが、明かりがついていないこともあって室内はやっぱり見えにくい。
    「くそ」
     一度窓から外れて尻尾揺らしつつ考える。諦めて帰る、そんなつまらない選択があるはずない。カリッと噛んだ爪先、ブンと大きく尻尾を揺らし、そうしてショウノシンはパンと手を鳴らすと、印を組む。
     それは天狐に教わったばかりの印。ショウノシンは悪戯っ子だから、あまりこの術は教えたくないんですけど、そう言いつつも、ショウノシンのお願い攻撃に負けた天狐が教えてくれた術。
     まだ慣れない術だが、だけど出来ないわけではない。覚えたばかりのそれは姿を隠す隠形術。術に名前が欲しいのなら、忍者と呼ばれる人たちが似たような事をしていた時にそう言っていたので、それでいいんじゃないですか。なんて天狐は言っていた。
    「んー……わかんねぇけど、でも大丈夫だろ」
     自分では自分の姿がちゃんと隠れているかわからない。だけど、天狐が教えてくれた術だし、彼の前で何度かやった時はちゃんと隠れることが出来ていると褒めてもらえた。だからきっと大丈夫と、フンと鼻息荒く向かったのは玄関。
     扉は容易く開き、ショウノシンは中をそっと覗きこみ、クンと鼻を鳴らす。
    「ある」
     ぺろりと舐めた唇、そっと家の中に入り、フンフンと鼻を引くつかせつつ向かう匂いの元。
    「絶対美味い奴だ……なんだろなぁ」
     香りが心を浮つかせる。甘い甘い香り。天狐が時々買ってきてくれるイナリ寿司や、八咫烏が持ってきてくれる菓子とも違う香。とびっきり誘惑的な甘いにおい。
    「あった!」
     それは台所の端の机の上に置かれていた。ショウノシンの背丈よりも高い机、だけど背伸びすればなんとか机上は確認できた。皿の上に置かれたそれ、水色、オレンジ、ピンクに黄色。カラフルなそれは見たことのないもの。だけど、香りが美味だと教えてくる。
    「目???付喪神?」
     よく見ればその甘い香りたちには目があった。ついでに細い手足も。伸ばそうとした手を一度止めて、ショウノシンはまじまじとそれを眺める。
     もしも付喪神の類なら、許可なく口にするわけにはいかない。こんにちは、挨拶するも返事はない。やっぱりただの美味しそうな何かなのだろうか、つま先立ちして少し眺めて、そうして恐る恐る伸ばした手。摘まんでみても何も反応はない。
    「付喪神じゃないのか」
     つんつんと指先でつついてみるが反応はない
    「……あ、これ偽物だ」
     目玉も細い手足もよく見れば偽物。なんだとショウノシンは肩を竦めて、そうして再度手にしたピンクのそれを眺め、フンフンと鼻を鳴らした。
    「美味そう」
     思わず零れた言葉。それほどまでに香りは食欲をそそった。
    「いただきます」
     食前食後の挨拶はきちんとね、教えてくれたのは天狐だ。ショウノシンは手にしたそれをハグリと口にする。ほろりと口の中で蕩ける感じ、ぶわりと口の中に広がる甘さ。
    「んっぅ、うまぁ……」
     初めて感じた旨味。パフリパフリと尻尾が揺れる。ぺろりと一つ食べきって、すぐにもう一つと手を伸ばせば、はぁと聞こえた吐息。びくりと尻尾振るわせて振り向いたショウノシンはそこにあった姿に目を見張る。
    「……何かが入りこんだと思ったら、子狐か」
    「て、天狐様!」
    「はぁ?」
    「なんでここに!?あ、もしかしてここって天狐様の内緒のお家……あ、秘密基地!?」
     天狐の秘密に気づけた事に驚きと喜び覚えつつ、ショウノシンは駆け寄ったが、だけど傍に来て思わず尻尾を膨らませ、後ずさる。
    「違う……なんだお前、誰だ」
     天狐がいつも見にしている和装とは違うことにまず違和感を覚えるべきだった。服ではなく顔だけを見ていたが故の失態。彼が身にまとっている服はいつもとは全く違う、ショウノシンも視たことのな変わった服。
    「誰だ、お前!天狐様に何をした!」
     天狐に似ているのに、だけど天狐とは違う衣服。そして雰囲気。
     別人。天狐の姿をした別人。
     威嚇に膨れる尻尾、ショウノシンが目を吊り上げ声を荒げれば、彼は少しばかり不快そうに眉を顰め、そうして強めの舌打ちをした。
    「勝手に人の家に入って、何勝手な事抜かしてやがる」
    「うっせぇ!天狐様の顔して、天狐様じゃねぇだろ、お前誰だ!天狐様に何をした!」
    「……知るか……つぅか、お前こそ俺の菓子に何勝手に手出してんだよ」
    「お前の菓子?」
    「食っただろうが」
     顎でしゃくった先には甘い香りを漂わせる食い物たち。自分が食ったのは彼のものだったと気づくも、ショウノシンは威嚇をとかない。あれが彼のものだったとしても、彼が天狐に似た姿をしている以上、彼が天狐に何かをしたことは間違いないのだから。
    「お前の菓子とかどうでもいい……お前は、俺の天狐様に何をした!返せ、俺の天狐様を!」
    「はぁ、意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ……勝手に人の家に入って、勝手に人のもの食って、挙句わけわかんねぇいちゃもんつけて……てめぇ、狐の丸焼きにしてメニューに載せてやろうか」
    「め、メニュー?」
    「……お前、子供みたいな姿をしているが、狐だろ……妖狐。どんな味がするんだろうな」
    「っ」
     睨まれてゾワリと感じた恐怖心、思わず後ずさりすれば、彼は追いかけるように歩み寄ってきた。
    「……お前、誰だ……天狐様をどうした」
    「どうもしてねぇよ」
    「お前は」
    「ショウノシン」
     聞こえた声、そちらに視線を向けようとすればそれよりも先に強い風が部屋の中に吹き込んできた。
    「っ!」
    「あっちに行く気かいおチビちゃん」
    「ぅわ!」
     抱き上げられる感覚、あまりの突風に閉じていた瞼を開けば八咫烏の顔がすぐそばに見えた。
    「おい、チビ!勝手に人の家に上がって、勝手に菓子を食って、感想も言わないつもりか!」
     耳に届いた声、突発的に思わず返した言葉は「美味かった!」
     抱き上げた八咫烏が驚いたような表情を浮かべ、とっさに言葉を返したショウノシンすらも驚きを浮かべる。
    「それ以上の会話はダメだ、帰るよおチビ」
    「え、あ、でもあいつって、うわ!」
     再びブワリと吹き込んできた風。ショウノシンが目を瞑ると同時、体が何かに引っ張られるような感触を覚え、促されて目を開いた時には天狐が心配げに顔を覗き込んできていた。
    「っ!お前!」
    「おチビ、彼は天狐本人だよ」
    「え!?」
    「お帰りなさいショウノシン。八咫烏が居なければ、あちらに行っていたかもしれませんよ」
     八咫烏の腕の中からショウノシンを抱き上げ、天狐は困惑を見せるその目を覗き込む。
    「神隠し……あの辺りはそれが多く起きる場所なんだ。彼は気づいていなかったようだけど、戻る気配を見せていた。おチビがあれ以上あそこに居れば、巻き込まれてどこかわからぬ場所にいっていただろうね」
    「え、じゃぁあいつって」
    「天狐に似ているだけの別人だろうね」
    「僕?」
    「天狐様にめっちゃ似てたんです!だから、俺、てっきり天狐様が誰かに体乗っ取られたとかそういうのかと」
    「おチビ……天狐はそんな弱い存在じゃないよ」
    「心配してくれたのは嬉しいですね。ありがとうございます」
     天狐の言葉に、ショウノシンはフンフンと尻尾を振る。「だけど」天狐はそう続けて、軽くショウノシンの頬をひねる。
    「貴方は好奇心を少し抑える術を覚えるべきですね……その好奇心は時に身を滅ぼします。今日は八咫烏が違和感に気づいて様子を見に行ってくれたから、事なきを得たけれど、気づいていなければ僕の元からも離れ、遠く知らぬ場所に行く羽目になっていたかもしれませんよ」
     ひねっていた頬から手を放し、今度はゆるりと撫でて、そうして小さく吐息をこぼす。
    「心配……させないでくださいね」
    「天狐様」
     不安げな表情、ショウノシンはその表情に少し驚きを覚えつつ、だけど、そんな表情はさせたくないと、天狐の言葉に頷き。その胸に頬を擦りよせた。

    「……え、でも、ショウノシン。悪戯で俺の家に捕まったんだよね」
    「まぁ、ガキだったからなぁ」
     聞かされた昔話、幼いころのショウノシンに出会った男は多分神隠しで飛ばされた現代を生きる誰からだろう。話の感じからして彼はすぐにこちらに戻ってきているらしい。
     そんな事よりも、ショウノシンだ。天狐との約束はどうしたのだと、音晴が思わず苦笑をこぼせば、ショウノシンは苦笑いを浮かべる。
    「……だからさ、もう不安にさせたくねぇよな……ガキの頃の俺は天狐様の傍に居なかったけど、今の俺は」
    「傍に居るって?」
     音晴の言葉にショウノシンは無言で耳元を赤らめつつ尻尾を揺らめかせる。
    「わっかりやす」
     笑って、音晴は天狐と一緒に食べてくればと残りのマカロンを差し出した。
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