the far shore 春、夏、秋、冬。
うんざりするほど多様な姿を見せるこのヴァイガルドには、四季があった。ついこの間までしとしとと降り続いていた雨はすっかり忘れ去られ、眩しく照りつける太陽が空の真上でうるさく主張していた。
もしもこの移り変わりを、ヴィータの短い人生に重ねるとしたら、きっとこの夏は生命力に溢れた、あのくらいの年頃を云うのだろうと、少し先の水しぶきを見ながらカイムはぼんやりとそう思った。
「おお、我が君…まったく、日差しにも負けぬほど、眩しくおられますな……」
いつもの飾りの多いセリフもこのむっとした熱気の最中では、蜃気楼のように霞むよう。しかしこれでも、まだ涼しくなったほうだ。木々、山々に囲まれたここは、王都の先の北、避暑地としても人気のある湖水だった。
湖にせり出した桟橋に適当に腰掛けながら、カイムは体に浮いた汗の粒を払った。本当に暑いのだ。照っている太陽が反射する湖は思っていたよりもずっと温く、陽がまだ昇り切らなかった午前中はともかく、正午にもなれば……こうして辟易して出てきたという訳だった。
人肌にも近い温度のその水は、快適さよりも気持ち悪さをカイムの五体にもたらした。透き通った水は動く度に濁り、長い水草が足にまとわりついたときなどは、怖気が走ったものだった。ただでさえ、窮屈に感じるこのヴィータの肉をさらに押しつぶすような水の圧力は、不快でしかなかった。
水着である腰履きだけを纏った肌が、木々を通り抜けてきた風ですこし冷やされる。王都やアジトではあまり感じることの無い、濡れたようなにおいの混ざった風はカイムの体を置いていき、湖面に波を立てる。ふと、その風の行き先に目を向けた。
視界に広がる波を見る。その先の岸辺を見る。その少し手前、褐色の肌をすべる汗を見る。
「なんだよ、カイム…もうバテたのか?」
みどり色をたたえた湖から上がり、荒い石の混ざる砂浜に足跡をスタンプしながらこちらへやってくるのは、刺青を惜しげも無く晒した姿のソロモンだった。