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    odaka222

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    (小説)極髭一の短いの。一期くん極になって更に闇が深まるのたまらなく愛おしいですね。不安定な心を吐露してくれるのは、ある意味心を許してくれ始めてるからかなぁとも思ってます。不器用な甘え方の一期くんと、ふわふわに見せかけてめちゃくちゃ考えているのであろう兄者、最高だと思いますマル。あと、兄者一期くんの外套掴む癖とかあったら可愛い。極前のあのでかでかとした紋が無意識に気に入らなくてあの部分掴んでるの。

    戦場に力強くはためくマントを後ろから眺める。その姿はまばたきをも忘れそうなほど美しい。
    『でも、』
     髭切は音を立てず息を吐き、ゆっくりと目を閉じた。再び開くと、同じ光景に向かって手を伸ばす。
    「そろそろ戻ろうか。一期一振」
     美しいと思った長いマントを無遠慮に掴み、いつもの調子で引っ張った。以前の彼ならここで、驚いて小言をこぼすか、呆れたように苦笑してくれるかなのだが。
     僅かな沈黙の後、薄く貼り付けたような微笑みがこちらを振り向く。出会った頃の、よそよそしい感じ。
    「申し訳ない。待たせてしまいましたな」
    「ううん。久々の遠征だもの、疲れたのなら少し休んでいこうか」
     布を持っていた手を軽くあしらわれ、彼は一歩下がった。
    「いえ、戻りましょう。無駄に遅くなっては主に余計な心配をさせてしまいますし、弟にも示しがつきませんから」
     踵をかえした際にふわりと翻ったマントを、反射的に再び掴む。
    「!」
     今度は少しばかり丸めた目がこちらを振り向き、その様子に思わず笑い声がもれた。
    「何か」
     些か不機嫌そうな声色に、すぐにごめんと謝って首を傾ける。
    「やっぱり、もうちょっとゆっくりしていこうよ。ほら見て、空が綺麗な色してる」
     空いている方の手で上を指さすと、一期の目線もつられてそちらを向いた。陽がそろそろ沈んでいこうかという、黄色と空色の色彩を描いた空。暫く見つめていると隣で小さく感嘆の声が聞こえた。
    「……そうですね、綺麗です。赤ではない夕焼けもいいものだ」
    「僕たちの色みたいだよね」
     こちらの言葉に、一期は白い手袋を顎に当て僅かに俯く。
    「些か強引すぎでは?」
    「何事も、そうだと思っていればそうなっていくものだよ、きっとね」
    「思い込みですか……確かに私には必要なものかもしれないな」
     独り言のように呟かれた言葉には少しの呆れと自虐と拒絶、それでも縋るような弱さも感じられ、一期一振という刀の本心に触れているようで胸の奥が騒ぐ。愉しいと。
    「いいこともわるいことも全部自分の気の持ちようさ。僕は、この空が僕たちのように見えて嬉しいと思った。君にもそう思ってもらえたらとも。それから、もっと陽が沈めば今度はこのマントみたいな夜がくる。君の色だと思えば、暗闇も案外悪くないかなって」
     未だに掴んでいた布を持ち上げ、軽く口づける仕草をする。さっと目元を朱に染めた彼が今度こそ顔を背けて歩き始めた。
    「ありゃ、照れてる? 怒ってる?」
     追いかけて顔を覗き込もうとしてもそっぽを向かれてしまう。どうやらどちらとものようだ。
    「っ髭切殿は」
    「うん」
    「相変わらずだ」
    「うん?」
    「なのに私は……いや、申し訳ありません。忘れて下さい」
    「ええ、最後まで聞かせてよ。でないと今度は服でないところにさっきのをするかも」
     軽口を叩いてみるが、一期の反応は暗い。少し離れた所に待たせてある馬が呑気に草を食べているのを、羨ましく思っていると一期が脚を止めた。
    「どんな顔をすればいいか、分からないんです。貴方に。どんな風に笑っていたか、どんな風に答えていたか」
     彼の握りしめた拳が震えている。
    「修行に出て解ったのです。再刃された自分がいかにからっぽな存在だったのと。過去を思い出すどころか新しい記憶までも不安になる。旅立つ前が遠い昔のようで、皆が受け入れてくれていた一期一振がどうであったか、私は前のように笑えているか、考えれば考えるほど間違っている気がしてならない」
     随分溜め込んでいたのか、目の前の彼は鬱々とした言葉が止まらない。
    「貴方に好いてもらった私はもういないのかもしれない、そうなれば、遅からず貴方に愛想を尽かされてしまう、それが、怖くて、私は」
     ついに両手で顔を覆った一期を、こんな姿も絵になるなぁと思ってただただ眺めた。しかし、いつまでも泣かせておくのは伴侶として失格だろう。同じくらいの背丈でも、小さく感じる彼を頭から抱き締めた。それから丸くていい匂いのする髪を撫でると、一期が身体を強ばらせる。
    「嫌いになんかならないよ。感情表現が不器用なのは前からじゃない。むしろ、こうやって不安をちゃんと教えてくれるようになったこと、僕としては嬉しいよ。あえて言えば弱音は僕の前だけにしておいてほしいけど。まぁ君は君だよ、一期一振」
     出来る限り優しく耳元に語りかけると、僅かに息を詰まらせた音がして、震えていた彼の手がこちらの服を握りしめた。
    「でも……面倒くさいでしょう……私」
    「面倒じゃない君こそ誰だって感じだけどねぇ」
    「貴方が私に優しいのは、八幡大菩薩のなにかしらの言葉があるからですか」
    「あはは、こればかりは自分の意思でありたいね。もしかして、八幡大菩薩にまで嫉妬してるの?」
     返事の代わりに、彼が顔を上げ唇が合わさる。すぐに離れようとしたそれを追いかけて、もう一度軽く重ねた。
    「そっちからしといて逃げないでよ」
    「別に逃げてません……馬の様子が気になったんです」
     下手くそな誤魔化しで背けた耳が、首が、赤く染まっている。夕焼けよりも綺麗だ。目を細めて彼の横に並んで手を繋ぐ。
    「帰ったらさっきの続きがしたいなぁ」
     お互い修行や任務が重なって、最後に床を伴にしたのは随分前。
    「僕だってこれでも結構我慢してるんだよ」
     指をゆっくり絡め視線を渡せば、真っ赤な頬が確かに頷いた。ご褒美の確約に任務の日れもどこへやら。上機嫌で腕を振れば、一期が恥ずかしそうに咳払いをしてから小さく呟く。
    「……ありがとうございます」
    「どういたしまして。僕の方こそ、好きでいてくれてありがとう」
     握り返してくる力が愛おしい。やっぱり変わらないなぁと口元だけで笑って空を見た。いつか彼の心も晴れるだろうか。けれどまだ、脆いトコロに触れさせてもらえる今を手放したくないとも思ってしまう。
     めんどうくさいのは、お互い様だよ、一期一振。
     手綱を取ると馬は待ちくたびれたとばかりに首を振った。


     了
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