すれ違いは突然に(ブーメル・クワンガーの夢小説)「ビートブートちゃぁぁぁあんん!聞いてよぉ〜!!」
「うわっ!?」
後ろから飛び掛かられた大きなカブトムシ型レプリロイドはそのまま床に倒れてしまった。
それほど痛くはなかったが後ろを見やると
案の定背中の上にその声の主である者が抱きついていた。
「いてて。どうしたんだよ〜。」
「あのね!クワンガーさんったら酷いんだよ!」
この人が泣きながら飛びついてくる時は大抵彼氏である兄についてだ。
とりあえず、事情を聞く為に体を起こして互いに向き合った。
「また兄貴に泣かされたのか。」
「だって。。。こないだの休日、一緒にお出掛けしよう!って誘ったら「予定が入っているので、無理です。」って断られたの。仕方ないかーって1人で街をブラブラしてたら、クワンガーさんがいて見知らぬ女の人と仲良さげに並んで歩いてたんだよ!後日問い詰めたら「貴女には関係のないことです。」ってバッサリ切られて。。」
「えっ!?あの兄貴が!?」
他人に滅多に興味を示さない兄が彼女ができたことでも天地がひっくり返るのではと衝撃を受けたくらいなのに、他の女にうつつを抜かすことがあるのだろうか?流石に驚きを隠せない。
「捨゛でだ〜〜〜っ!!!」
綺麗な瞳から次々と溢れる涙。彼女も相当ショックを受けているようだ。
ハンカチなど持っていないのでとりあえず指でその涙を掬った。
「お、落ち着けって!まだそうと決まったわけじゃないって!何か理由があるかもしれないし。」
こんなことを言ってもなんの慰めにもならないのはわかっているが、とりあえずこれ以上泣いてしまうと倒れてしまうのではないかと心配になった。
宥めるように優しく抱きしめて背中と頭をポンポンと撫でてみた。
「…グスッビートブートちゃん…。」
「あの兄貴がアンタをほっといて他に行くようなこと…。」
「…でも、飽きられちゃったのかも。私より綺麗な人や可愛い人は星の数ほどいるし、そもそもクワンガーさんみたいなカッコいい方は私なんかよりも…」
「ほぅ。貴女よりも素敵な方が似合うからという理由で他の男に抱きついてもいいのですか…。」
突然の声に2人で顔を見合わせた。声の主の方へ顔を見やると、その張本人が立っていた。
「あ、兄貴!?」
「クワンガーさん…!!」
「いくらビートブートであっても私以外の男に抱きついているのは少々いただけませんね…。
他の方でしたら有無を言わさず斬首しているところでしたが。」
いつもの落ち着いた声で淡々と話しているが
嫉妬混じりの視線に思わずビートブートは背筋がヒヤリとした。
「ち、違うっ!誤解だって兄貴!」
とりあえず、彼女から離れようと試みたが
腕にしっかりと抱きついていて中々離してくれない。
「どこの誰と抱き合っていようがクワンガーさんには関係ないことですっ!」
彼女のこの一言で兄のあるはずのない血管がブチっと千切れたような音がした。
場の空気が張り詰めていくのがわかった。
「貴女の恋人である私が関係のないことですか…
堂々と浮気をしているということで宜しいですね?」
「それはこっちのセリフです!!本当は私のことなんてどうでもいいんでしょ!」
バチバチと対立している2人にビートブートはただ見ていることだけしかできなかった。この間に入る勇気はとてもじゃないがない。
だが、その空気も兄の一言で変わった。
「私がいつ貴女のことをどうでもいいと?」
彼女はことの顛末を話した。その話を聞いて兄は顎に右手を添えて溜息を吐いた。
「…それで貴女は私が浮気をしたと思ったわけですね。」
「他の女の子と並んで歩くなんて浮気以外のなにものでもありませんよ!」
呆れ顔の兄を見て彼女は余計に腹を立てていた。
ビートブートはなんとなく察した。あ、これ彼女が何か勘違いをしている…。と
「あぁ。あの日は道を訊かれたので案内していただけですよ。」
「嘘です!そのあと雑貨屋さんとかお店に入って行ったじゃないですか!」
「それはコレのことですか?」
そういうと兄はリボンのついた小さな箱を取り出し、彼女に手渡した。
きょとんっとしている彼女に「開けてみてください。」と一言。気になったので自分も箱の中身を覗いてみる。
そこには緑の澄みきった石があしらわれたネックレスが入っていた。
「こ、これは…??」
「貴女が以前、私の瞳の色が好きだと言っていたのでその色に似たアクセサリーをプレゼントしたくて買ったんです。ですが装飾品には疎いので女性ならわかると思って少し手伝ってもらっていただけですよ。」
「…!」
驚きのあまり彼女はそのネックレスを見つめたまま固まっていた。
「で、でもあの時どうして私には関係ないって…」
「渡すプレゼントをわざわざ種明かしするようなことすると思いますか?こんな形で渡すつもりはなかったのですが、まぁ。いいでしょう。」
少し照れ臭そうに言う兄を見てビートブートは
(こんな表情するようになったんだなぁ。)と少し感動していた。彼女は彼女で不安が解けて今にもまた泣き出しそうな顔をしている。
本当にこの人は泣き虫だ。
「じゃあ、私のこと捨てるのは勘違いだったんですね。」
「端から私はそんなこと一言も言った覚えがないです。まぁ、今回は少し言葉選びが適切ではなかったようですし。私も」
「クワンガーさん…!!」
彼女は兄に駆け寄り抱きついた。その衝撃に怯むことなく兄はそっと壊物を扱うかのように抱きしめ返した。
「ごめんなさい。私一人で勝手に…」
「いえ。それはもう結構です。それよりも
先程ビートブートに抱きついていた件について少し話し合いをしましょうか?」
「っ??」
「私は勘違いではないですよね?私の前で見せつけるように弟に抱きついていたのですから。」
「そ、それはクワンガーさんの件があったからで」
「それはそれ。これはこれです。貴女が一体誰のものなのか 分からせないといけないようですし」
「それはあの!わ、私が愛しているのはクワンガーさんだけで!!ビートブートちゃんとのハグは友情のハグみたいな感じで…!!」
こうなってしまっては彼女に勝機はない。
頭のいい兄だ。ここまで展開を読んでいたのだろう。
「そうですか。でも私は傷ついてしまったのですが。」
「ご、ごめんなさい。その、何かお詫びを…」
その言葉を聞いて兄はピクっと触覚を動かした。
「お詫びですか。。そうですねぇ。」
「えっちょっ!?く、クワンガーさん!?」
素早く彼女を姫抱きにし、スタスタと兄の部屋の方へ歩き出した。状況が理解できてない彼女は困惑気味だ。
「ビートブート。今日は早退します。隊長にもそうお伝えください。後のことは頼みましたよ。」
「わかった。頑張ってな!」
頑張れを誰に向けて言ったのかは言うまでもないが。
「クワンガーさん!??!?」
彼女の叫び声を聞きながら俺は隊長のところへ向かった。