「りちゃ」
葛城柚羽の保育園の送り迎えを頼まれた鳥取は保育園に彼女を迎えに行き、ともに帰っていた。柚羽は微熱がある。歩くのも大変そうなので抱えた。
抱っこ状態だ。まだ何とか持てる。成長していけば無理だが。
とりちゃんを略してりちゃだ。
「家に付いたらゆっくり休もう」
曾祖母も祖父母も父母もいない。先祖が大体鳥取を助けると約束したこの家は今も約束を守ってくれている。
「りー」
鳥取は抱えている柚羽が自分を呼び続けることが気になって振り返る。
ぐしゃりとした、くろい、犬がいた。
この世のものではない。
「鳥取。柚羽を抱えていろ」
「島根」
「まちゃ」
島根が小刀を黒い犬に投擲すると突きささり消える。
犬の形をした何かはもういない。
しまちゃんを略してまちゃだ。
「県の話し合いに来たら」
「銃刀法違反」
「神力で作ったものだ」
話していると鳥取が抱えている柚羽がこほこほと咳をした。
「寝かせないと」
「いぬ、いない?」
「祓ったから心配はいらないぞ。後始末を頼む」
はい、とうさぎが現れる。
「うさちゃ」
「後でもふろうか」
「まずは休ませるぞ」
『それ』は祓われる。送り迎えでたまにあることだった。