図書館にて 古今東西の名著を集めたここカルデア図書館は、多少なりとも文化教養を修めた人間にとって垂涎の的だろう。あのプトレマイオスをも唸らせた叡智の森の中で一人の青年が本を漁っていた。
花畑で花冠を編む少女のように、楽しげに無心に本を選んでいく。本来数学の徒である彼だがその興味は多岐に渡り、その腕の中にあるのは哲学書や小説、経済学など一見すると脈絡ない。この知識達で彼はどのような花冠(謎)を編むのか。それは彼自身にすら預かり知らぬ所だった。
整った横顔にしばし見惚れていると、視線に気付かれたのかこちらを振り向いてから、あからさまに目を逸らされた。
その怯える小動物のような──本人は絶対に認めないが──様子のなんと愛らしいことか!
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