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    ho_kei_trab

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    ho_kei_trab

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    ヒラヒラなセクシーランジェリー着せられたカのぐカ!

    そうして僕は墓穴を掘ったそうして僕は墓穴を掘った


     ちゅ、ちゅっ、と小さく甘いリップ音が額や頬に降り注ぐ。肩に置かれた手に逆らわず、カドックは男のベッドへ仰向けに倒れ込んだ。
    「カドック、いい?」
    「ん……」

     すり、と指先が唇を撫でる。付き合った当初は自分がボトムな事に多少の不満をおぼえていたが、今ではすっかり立香に与えられる重くて深い快楽の虜になっていた。頷く代わりに自ら彼の首に腕を回す。
    「電気……消せ」
    「はいはい」

     一言目にはそれか、と眉を下げて苦笑する立香の顔が暗闇に沈む。いくら鍛えても筋肉の付かない貧相な身体。腹にはリンボにやられた時の醜い傷跡が残っている。しかも行為中は酷い顔をしている自覚だってあった。
     こんなもの見たって何も嬉しくないだろうに。暗闇に落ちていく部屋の中で少し残念そうな顔の男から目を逸らした。


     お互いを散々貪り合い、気絶するように眠りに落ちた。
     カドックの瞼を開かせたのは微かな水音だ。
    「ああ……くそ、こんな時間か」

     起床予定時刻まで二時間を切っていた。立香がシャワーを浴びている。彼が出て来たら自分もシャワーを浴びて身支度しなくては。
     眠たい目を擦りながら気怠い身体をゆっくりと起こす。あくびをしながら伸びをして、ふとクローゼットの方を見た。
    「……?」

     おおよそ彼の部屋に似つかわしくない──リボンのような物がはみ出ている。プライバシーの侵害だと思いつつもクローゼットの方に歩いていったのは何かの勘が働いたからかもしれない。
    「これ……」

     そのリボンの正体は、ひらひらとした薄い服だった。服ですらない。どう見てもそれはセクシーランジェリーの類だ。青みがかったレースで編まれ、繊細な模様やキラキラしたチェーンで飾り付けられたそれは、女性が身につければさぞ扇情的だろう。
    「アイツ……こんなのが趣味なのか」
     笑い飛ばそうとしたが、上手くいかなかった。一体立香は誰にこれを着せるつもりで持っているのだろうか。
    「いつの、間に……」

     さっきまで転がっていたベッドを振り返る。立香はこの上で、カドック以外の誰かと共寝したのだろうか。このランジェリーを身に纏った女を抱くのだろうか。
     気が付けば新品らしきそれをギリギリと握り締めていた。慌てて力を緩めてカドックはそれを元あった場所に戻してクローゼットを閉めた。
     頭が痛い。心臓も痛い。過呼吸になりかける身体を無理矢理押さえ込んでゆっくりと深呼吸した。
    「……まあ、当然か」

     彼は人間なりサーヴァントなり選びたい放題の立場だ。こんな細くて傷物で、愛想もない自分なんかより相応しい相手はいくらでもいる。浮気されても当然だ。

    『カドック、可愛い。愛してる』

     昨夜、カドックを抱きしめて散々そう言っていたのに。
    全然気付かなかった。立香が浮気する男だったのも、それを上手く隠し通す男だったのも全く見抜けなかった己の見る目のなさを嫌悪する。
    「くそ……」

     夜目の効くカドックは暗闇であってもその時の彼の表情仔細までよく見えていた。本気で愛おしくて仕方がないように細められる青い瞳を見上げるのがカドックは好きだった。
     なのに。立香はあれを他の人間にも与えていたのだ。
     ギリ、と歯を軋ませてカドックは惨めさも悔しさも飲み込んだ。同時に奥の扉が開く。
    「カドック、おはよ。シャワー浴びる?」
    「……ああ」

     立香はカドックが秘密を知ったことなど全く想像していないような能天気さで笑いかけてきた。憎たらしい相手に、どうにかいつもの顔を作ってシャワールームを借りた。
     一度冷たいシャワーを頭から被って、落ち着けと己に言い聞かせる。
     そもそも立香と付き合えるのはこの人理漂白が解決するまでの間、期間限定の話だ。日常を取り戻せば立香は日本に帰るしカドックは魔術師としてこれからも研究を続ける。
     どうせ終わる関係ならば、浮気の一つや二つされた所で影響はない。
    「僕は何も見なかった」
     小さく呟いたそれは水音にかき消された。


     魔術師として、マスターとして精神鍛錬は欠かしていなかったが、それはこういう場面でも役に立つ。任務も訓練もカドックはいつも通りにこなしていた。立香とも仲間として過不足なくコミュニケーションを取れている。バイタル上はほぼ問題はない。
     ──大丈夫。僕は、大丈夫だ。

     ほんの少し頭痛薬が増えたり隈が濃くなった程度だ。濃いコーヒーと一緒にサンドイッチを流し込む。味はしないが、これ以上痩せれば持久力が落ちるので無理矢理口に持っていく。
     あちらの方では立香の隣の席を狙うサーヴァント達が熱い攻防戦を繰り広げていた。見慣れた光景だったが今は見ていられなくて、トレーごと自室へ引っ込んだ。

    「う、ひっく……」

     まだ半分ほど残っていたが、もう食べる気力も無くなってベッドに倒れ込んだ。みっともない泣き声を自分でも聞きたくなくて、枕に顔を埋めて嗚咽する。
     立香が浮気するのは意外だったが、別れてくれと言われればいつでも受け入れるつもりでいた。覚悟していた事態が起こっただけだ。なのに、こんなにも胸が痛い。
     彼の裏切りに自分が相当ショックを受けていたのだとカドックはようやく理解しはじめた。こんな状態で彼に抱かれたり愛を囁かれたりするなんて耐えられそうにない。
     いっそ別れてしまった方が精神衛生上ましだと思った。


     結局ほとんど眠れないまま翌日を迎えた。魔術まで使って精神を安定させながらその日もどうにか平常通りの訓練ができていたと思う。その後、立香がそっと耳元に唇を寄せてきた。
    「カドック、今夜空いてる?」
    「……ああ」

     良い機会だ。この男がこのまま素知らぬ顔を貫き通すなら、こちらから三行半を突き付けてやろうと決意した。
     カドックが立香の部屋に入ると彼はいつもと全く同じ調子で出迎えた。
    「ふふ、四日ぶりのカドックだ」

     幸せそうに抱きついてくる様子はまるでよく懐いた大きい犬のようだ。だが、この四日の間に女を連れ込んでいたかもしれない、と考えれば石を飲み込んだように胃の中が重くなった。
    「……最近、元気ないね。大丈夫?」

     誰のせいだ、と思いつつも彼が原因であると認めることはプライドが許さなかった。
    「別に」
     立香はしつこく聞こうとはしなかった。代わりに、いつもに増して無愛想なカドックの顔を覗き込む。
    「食堂でアイス貰って来たんだ。一緒に食べよう」

     己の手のひらに爪を食い込ませる。普段ならこの些細な気遣いが嬉しかったのだが、今はたかだかアイス一個で機嫌を直せと言われているようで腹立たしくてたまらない。
    「……別れてくれ」

     青天の霹靂だと言わんばかりに目を見開かれた。何故そんなことを言われるのか、全く心当たりがないようだ。どれほど鈍いと思われていたのだろう。いや、あの下着を見つけるまでちっとも疑っていないのだから間抜けなのは確かだ。
     それにしても舐められたものだと歯を食い縛る。
    「どうして? カドック、オレのこと嫌いになっちゃった? それとも……他に相手がいるの」

     他に相手がいるくせに立香は付き合いを続けたいようだ。気分に応じて相手を変えたいのか、あくまで本命はカドックだということなのか。
     意味が分からなくて黙りこくるカドックに、立香が焦れたように言葉を継ぐ。
    「ねえ、答えて」

     頬に触ろうとする手を避けて逆にこちらから襟首を掴んだ。
    「それはお前の方だろ!」
     鼻が触れ合う程の距離で一瞬睨みつけてからその胸を突き飛ばす。大した力も込めていなかったが、油断していたのかよろけた拍子に尻餅をついた立香を見下す。
    「僕なんかより女相手の方がよほど楽しいだろうから身を引いてやってるんだ、それくらい分かれ馬鹿」
    「……まさかオレが浮気とかしてるって思ってる?」

     立香はあくまで冷静だった。カドックだけ感情を振り回されているようで腹立たしい。立ち上がりながら真っ直ぐにカドックを見つめる視線は真摯なもの、に見える。
    「何でそう思ったかは分からないけど、誤解だ。オレの好きな人はカドックだけだよ。信じて」
    「ハッ、随分演技が上手くなったもんだな」

     嘲笑したつもりが、涙が滲んできた。それを見せたくなくてとっさに俯く。
    「嘘はたくさんだ。お前の部屋に……女の下着があることも知ってるんだからな……!」
     立香は息を呑んだ。心当たりがあったのだろう。
     まだ心のどこかで何かの間違いであってほしいと願っていた物が崩れ落ちていく。目が熱くなり、涙の勢いがさらに増して床にポタポタと滴が落ちる。

    「カドック……あの、それは……」
     男はしばらく気まずそうに口籠った。立香はカドックから離れてクローゼットへ行き、しばらくごそごそ探ったかと思えばそれを出してくる。

    「もしかして、これのこと?」
     ちら、とそちらに目をやって無言で頷く。立香は非常に言いにくそうな様子で言葉を続けた。
    「ええと、これ、は……カドックに着てもらえないかなって……準備してたやつで……」
    「は?」

     改めてその下着を見ると、薄いブルーの繊細なレースのベビードールと黒いガーターベルトにストッキング、レースのショーツのセットだった。
     こんなものを自分なんかに着せたいだなんてありえない。下手すぎる言い訳に呆れ果てて涙も引っ込んでしまう。
    「嘘つけ」
    「嘘じゃないよ! 多分サイズもカドックにぴったりだと思うし」

     その言い訳があまりにも必死で、往生際の悪い男を忌々しく睨んだ。
    「ッ、そこまで言うなら着てやろうか!」
    「お願いします!」
    「……」
     間髪入れずにそう答えられて引っ込みがつかなくなってしまった。睨みつけながら彼の手から一式奪い去ってバスルームへ引っ込んで服を脱ぐ。

    「うわ……マジか……」

     ストッキングもガーターベルトもカドックの貧相な脚にフィットしている。黒いレースの下着も尻や腰に合っているし、その尻を隠すようなベビードールの丈も胸元も違和感がない。
     いくらカドックが細いとはいえ女性とは身長も体格も違うので、もしこれが女性物ならばこんなにぴったりにはならないだろう。少なくともカドックのような細い男向けの物なのだということは理解できた。

    「着れた?」
    「あっこら入ってくるな!」

     呆然としていたタイミングで立香がドアを開けた。
     辛うじて局部は隠れているが、ほぼレースでできているその下着はまるで裸のように心許ない。しかもベビードールは前も後ろも大きく開いた形になっているのでショーツは丸見えの状態。足元がスースーして落ち着かず、たまらず内股になって腕で身体を隠す。
     裸よりも恥ずかしい格好をしたカドックを上から下まで眺めた立香は嬉しげに「綺麗だ……」と呟いた。

    「お前頭おかしいんじゃないか」

     それは心の底からの言葉だった。だが彼は少し機嫌を損ねたようだ。唇を尖らせてカドックの手首を掴む。
    「ねえ、分かってくれた? オレがカドックのこと大好きなんだって」
    「わ、分かった、分かったから放せ……」

     じわじわ距離を詰めてくるのが怖くて後退りしたが、追いかけてくる。ついに壁際まで追い詰められてしまい、両手を壁に縫い止められた。顔が近い。
     こんな恥ずかしい格好で立香の部屋に二人きり。カドックは自分が大きな墓穴を掘った事にようやく気付いた。

    「本当に分かってる?」
    「分かってる! 疑って悪かった!」
    「オレこそ、悲しませてごめんね」

     顔中にキスが降ってくるのは良いのだが、ついでに腰や胸も性的な色を帯びた手つきで撫でられて背筋が痺れる。
     膝に力が入らなくなって来た頃合いを見て、横抱きにされてバスルームからベッドの上に連れて行かれた。恋人の匂いでそわそわとしながら立香を上目遣いで見つめる。
    「……このままヤるのか…?」
    「せっかく着てくれてるし……ダメ?」
    「んっ」

     この趣味はともかく、勝手に勘違いした挙句暴言を吐いたり突き飛ばしたりした自覚はあるので強く出られない。これを受け入れることで詫びになるならと頷いた。
    「……仕方ないな」
    「ありがと」

     よく見せて、と言われて渋々隠していた腕をベッドに置く。ベッドに座り込んだカドックと指を絡めて立香が目を細める。
    「似合ってる。お姫様みたい」
    「……僕は女じゃない」
    「わかってるよ」

     華やかなベビードールを着ても痩せぎすの身体も骨で尖った肩もほとんど誤魔化せない。羞恥で顔どころか首筋まで真っ赤になったカドックを眺めて立香はごくりと喉を鳴らした。こんな馬鹿みたいな格好に欲情しているのは明らかで、それが空恐ろしくて子供のような罵倒語しか出てこない。

    「変態、変態、ヘンタイ……っ!」
    「綺麗なんだけどなぁ」

     がばりと抱きしめながら押し倒されて、カドックは男の体重に押し潰されるようにベッドに沈んだ。

    「おいっ、電気……」
    「消したら見えないじゃん」

     暗くしてしまうとわざわざこれを着せてする意味がない。ぐうの音も出ずにカドックは唇を噛み締めた。こんな格好でもなんとか傷は隠れているから、裸よりはマシだと諦めて目を閉じる。

    「ん、っ」

     ショーツの隙間から立香の指が入ってくる。あくまで脱がさずにことを進めるつもりらしい。
     ローションのヌルつく感触だけで、散々抱かれていた肉体はその主導権を立香へ明け渡そうとしてしまう。

    「あ、はぁっ……! ふ、っん……♥」

     粘度の高い水音が己の股の間でぐちぐちと鳴っている。慣れた身体は男の指をすんなりと受け入れ、柔らかく締め付け始める。
     それに伴って、辛うじてショーツにしまい込んでいたペニスも頭を出してしまう。こんな格好で脚を開かされ──男として完全に屈服させられているのに胸がドキドキと高鳴っていく。
    「も、入れていい……?」

     息を切らしながらどうにか頷くと、ひたりと熱が当てられた。これから、意識が飛んで狂うほど気持ちよくさせられてしまうのだという期待感、そして初めて明るい中抱かれる緊張で軽く息を呑む。
     身体が逃げを打ったのは無意識だった。だが力強い手で脚を掴まれてしまう。
    「逃がさない」
     その一言に込められた強い執着を感じ取ってしまったカドックの背中にじっとりとした冷や汗が浮かび始めた。きっと別れるなんて言い出したからだ。不安にさせてしまったのはカドックのせいなので、今日はできるだけ彼の要望を叶えようと覚悟を決める。
     ぐちゅ、と熱い肉が蕩けた穴に触れた。期待とほんの少しの恐怖と共に息を整えている最中にもかかわらず腰がぶつかる。

    「ひあぁっ!?♥♥♥」

     ずぐっ♥といきなり奥まで突き上げられて甘く甲高い悲鳴を上げた。いつもはカドックを気遣ってか、ゆっくりとしか挿入されないのに。驚いたせいで強く締め付けてしまい、男の息が止まる。

    「……痛くは、無さそうだね」

     一瞬カドックの顔色を伺ったがすぐ苦しんでいないのを確認して薄く笑う。明るいとこういうことも筒抜けになってしまうのだ。恥ずかしくて目を逸らしたが、もう一度穿たれれば勝手に喉が反ってしまう。

    「あ、あ、ぁっ♥♥♥」
    「可愛いよ、カドック」

     鎖骨の辺りにキスされて先ほどとは打って変わって甘やかすように内側を開いていく。
     薄い腹へ意味深な手が重なり、下腹を撫でた。それだけなのに過敏な肉体が背筋をしならせ、内側を貪欲に引き絞る。自分ではコントロールが効かないゾクゾクとした、怖気なのか恍惚なのか分からないものに内面を支配されかけた時──

     悪戯にベビードールを捲られ、正気に引き戻された。慌てて布を引っ張って傷を隠す。男が首を傾げる。きっと、その理由くらい分かっているだろうに。
    「……傷見られるの嫌?」
    「こんなの、萎えるだろ……」

     リンボと名乗る異星の神の使徒に貫かれた呪い。どうにか命を取り留めたものの、その痕跡はカドックの中に深く刻まれている。そして、その見目はお世辞にも良いとは言えない。ケロイド状のぼこついた皮膚は通常の傷跡よりも黒ずんでおり、呪いの主の実力を主張していた。

    「そんなことないよ。……カドックが嫌なら無理強いはしないけど」

     やや鼻白んだように唇を尖らせたが、立香はそれ以上は何も言わずにぱちゅ、とまた強く奥を穿った。

    「うぁっ♥♥♥」

     身体がふわりと宙に浮くような錯覚。奥をぐりぐりと太い物で穿たれれば頭の中まで掻き混ぜられていく。男のモノをしっかりと咥えた秘部は柔軟に伸びてぴったりと立香を包み込んで離さない。
     この服装も相まって、まるで本当に女になったようだ。

    「っ♥っ♥♥♥……んっ♥」

     情けない顔を見せたくないと歯を食いしばっていたが、表情が保てない。
     閉じられない口の端からとろりと唾液が溢れて、走る犬のように舌が出る。目尻からは涙が溢れ、瞳が上がっていく。

    「っ、ぁ……!」
     見下ろされているのを自覚して、腕を上げて顔を隠した。
    「何で隠すの」
    「んぁっ、やめっ……!」
     不機嫌な声が飛び、左右の手が藤丸のそれと絡まされる。両手共にベッドに押し付けられてどうしようもなくて顔を逸らすが、一際強く突き上げられてまた悲鳴を上げる。

    「こんな、……いやだっ、」
     左右に頭を振って彼の視線から逃れようとしても容赦なく攻め立てられて訳がわからなくなる。ついにぐすぐすと泣き出しながら喉の奥から本音が溢れていく。
    「おまえに、嫌われる……っ!」
     結局、全てこれに帰結する。
     傷を見せたくないのも、最中の顔を見せたくないのも、立香に嫌われる確率を少しでも下げたいという姑息な心理の裏返しだった。
     快楽によらない涙がぼろぼろと溢れてシーツにシミを作る。まるで時間が止まったかのように立香が固まった。

    「、そんなわけないだろ……!」

     歯軋りの音と共に、息ができないほど強く抱きしめられる。目の縁に溜まった涙を男の指が拭い、やけに真剣な顔で目を合わせられた。

    「オレは……どんなカドックだって愛おしいよ」
     胸焼けがするほど甘ったるい言葉。普段は「小っ恥ずかしい」と憎まれ口を叩いてはねつけるのだが、心全て丸裸にされた今はドキドキと胸が沸騰するほどに嬉しくなってしまう。
    「カドックの全部、オレにちょうだい?」
     こくん、と子供のように頷けば薄らと細まる青空。

    「愛してるよ」
     耳の中に直接吹き込まれるように囁かれれば脳内に毒が回ったかのようにそれだけで達してしまう。きゅんきゅんと締め付ける肉筒が男の欲を刺激してしまったのか、腰を鷲掴みにされて、激しい抜き差しが襲いかかってくる。いっそ乱暴な動作だったが、蕩けきったカドックの肉体では喜びしか得られない。

    「カドック、こうされるの好きだもんね」
    「すき、すきぃっ♥♥♥きもちぃ♥♥♥」

     ぱんっ、ぱちゅ、ぐちゅっ。
     素面では耳を塞ぎたくなるほど淫らな水音も、今は二人の興奮を彩る一つの宝石に過ぎない。
     立香に全て明け渡し、全身で男の身体に縋り付く。

    「りつかぁ♥♥♥すき、だいすき……♥♥♥」

     深いキスの後腰を持ち上げられ、さらに奥深くに潜り込んでくる。ソコは、だめだ。快楽が強すぎて怖いとぶんぶん首を振るが立香は容赦ない。

    「だめ、おかしくなるぅっ!♥♥♥」
    「そうなったら……ずーっと一緒だね」

     脳細胞がパチパチと弾ける。視界が点滅する。喰われる寸前の小動物のように、幸福感が身体中に広がった。
    「おッ♥♥♥っー♥♥────♥♥♥♥♥♥」

     喘ぎ声すら出せず、内側でどこにも行けない快楽がぐるぐると渦を巻いて心すら侵食する。
     はー♥はー♥と余韻に浸るカドックの目の前にゴムを外した立香のペニスが差し出される。淫液と精液がだらだらと滴るそれをぼんやりと見つめていると、濃い立香の匂いが漂ってきて、また腹の中が疼いてくる。
     カドックは従順な態度でそこへ頬擦りし、垂れていく粘液を舐め取った。舌先が痺れるような苦味と共に欲望がびくりと震えるのが無性に嬉しくて目を細める。

    「はむ、ん……♥♥♥」

     決して美味い物ではないのに一生懸命に啜って奉仕した。口の中で震え、大きく育っていくその欲を喉奥まで頬張り、えづきながらも貪る。

    「……♥」

    「カドック、……こっち、見て」
     舐める口は止めず、上目遣いで立香を見上げると欲情も露わな顔とかちあった。
     カドックの顔、身体、仕草に興奮してこんな顔をしているのだ。それを理解するとゾクゾクと背筋を熱い物が上がっていく。
    もっと欲情されたい。もっと愛されたい。
     その気持ちに逆らわず腰を揺らして挑発する。小さな呻きと共に口の中の雄が震え熱い物が流し込まれた。

    「かはッ♥……りつかのせーし……こいぃ♥♥♥」

     軽く咽せつつも残滓までしっかりと掃除しながら濃厚なそれを味わう。咀嚼して唾液と混ぜても一度には飲み込めない程に濃い。
    食道も胃の中もしっかり犯されてうっとりとしつつ、自らベビードールの裾を上げて恋人を誘った。

    「オレがどれだけカドックのこと好きなのか……分からせてあげるね」

     しわくちゃに乱れたシーツに再び押し倒されて、捕食者の顔をした男が宣言する。
    ──ああ、これから僕はめちゃくちゃにされる。
     ほんのひとつまみの恐怖と、圧倒的な歓びが身体を覆い尽くす。カドックはゆっくりと全身の力を抜き、喰われる瞬間を心待ちにした。




    「あは……♥はへ……♥♥♥」
    「はぁ、はぁっ……っ」
     手加減もなく、まさに抱き潰されたと言っても過言ではない。何度イかされたかも覚えていない程にめちゃくちゃにされて、ベビードールも色々な体液で汚された挙句にほとんど脱がされている。
     乱れに乱れたベッドの中、カドックは半分気絶しながらも幸せそうに淫らな笑みを浮かべ、ひくひくと身体を震わせながら余韻に浸っていた。
     立香はそんな恋人を満足げにしばらく眺めた後、簡単にその身体を拭ってころりと横に寝転がる。

    「カドック……もう別れるなんて言わないでね」
     自分の早とちりで立香をどれだけ不安にさせてしまったのだろう。カドックはかける言葉をしばらく考えて、結局は平凡なものに落ち着く。
    「ごめんな」
     頭を撫でるとまるでよく懐いた大型犬のように目を細める。尻尾があったら千切れんばかりに振っているのだろうな、と思うほどに。しばらく撫でられるがままにされていた立香だったが、しばらくすると無駄に凛々しい顔でこう言い出した。

    「じゃあ……今度はメイド服でお願いします!」
    「はぁっ!? お前良い加減に」
    「ダメ? カドックも楽しんでたでしょ」
     ちゅ、ちゅ、と頬や額に口付けられたり胸に触れられたり。ありきたりな、もっと言えば安っぽいピロートーク。人並みの羞恥心を持ち合わせているカドックが、頼まれて易々と頷くべき内容ではない。
     なのに簡単にカドックは蕩けてしまい。

    「……んっ、ぁっ、ふぅ…っ♥しかたない、な……♥」

     ──そうして僕は、また墓穴を掘った。
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