最優陰陽師、ちんちんだけ実装されたってよアルターエゴ・蘆屋道満は暗い壺の中でこの星見台と縁を結んだことを若干後悔していた。壺に封じられているものの、その気になれば外の様子を窺い見ることは容易い。しかし、そんな気も起きないまま道満は壺の中にみちみちと詰まったまま器用にため息を吐いた。
――我が主はご乱心だ。
視てはいないが、おそらく壺の外では藤原香子――紫式部が困り果てたまま佇んでいるし、鬼一法師や玉藻あたりも呼び出されているかもしれない。
彼女の目的は他でもない、安倍晴明の召喚だった。目当てのサーヴァントに縁のあるサーヴァントを召喚時に待機させることで縁を結びやすくする、これを「触媒」というらしい。呪術にもならぬ、ちょっとした験担ぎのようなものだろう。
このカルデアで一番安倍晴明との縁が深いのはこの蘆屋道満であることは疑うべくもない。だが、誰がどう考えても道満は拒絶すると思ったのだろう。道満はカルデアの廊下にて不意打ちで壺に封じられ、召喚部屋に連れてこられた。
壺の中からも外が騒がしいのがよく分かる。一体何をしているのやら。そもそも、安倍晴明はカルデアとの縁を結んでいない。何千回召喚を試みようが来るはずがないのだ。
内心呆れているが、マスターが狂乱のうちにリソースを使い尽くすのは勝手である。道満はそれに付き合うつもりなどなく、壺の中で暇潰しに次の悪巧みを考えることにした。
「――まん」
「ン?」
「道満!」
少しぼんやりとしていたようだ。壺の外から自分の名前を呼ぶ声に、鬼気迫った物を感じ道満はようやく首だけを壺から出した。
「おやおやぁ、いかがいたしましたかな。マイマスター。拙僧は良い触媒になりましたかな?」
結果は分かりきっているものの、わざとらしい笑みを貼り付けてマスターを見上げる。用が済んだらさっさと壺から出して欲しい。
ぺらぺらと空虚な言葉を繰り出してから、はたと周囲の様子がおかしいことに気付いた。鬼一法師はやけに真剣な顔をしているし、紫式部と玉藻は壁際にべったりと張り付いたまま身動きをしない。
「どうしよう道満……なんか変なの召喚しちゃった……」
困り果てたマスターの指さす先には、魔羅。
そう、魔羅、男性器、当世の言葉ではペニスと言うものだ。全長六寸程度だろうか。立派に張った亀頭やでっぷりと大きな玉袋。だが全体的にほっそりとしてしなやかなシルエット。召喚陣の中央に堂々とそそり立つ男の象徴が、よりにもよって女性と性別不明ばかりの召喚部屋の中央に鎮座している。
しかもだ。道満には分かってしまった。
「この色艶……形……! 間違いございませぬ! こやつは晴明!!」
この魔羅は間違いなく憎き宿敵、安倍晴明のものである。慌てて壺を壊し、マスターの端末でその情報を確認する。
「ねえ……道満」
「な、キャスターの一つ星ですと!? いくら魔羅だけとはいえ安倍晴明が一つ星など、何かの間違いでございましょうや!」
安倍晴明だ。この蘆屋道満の宿敵であり、日の本のキャスターとして最も有名で有力な男が、そんな物であって良いはずがない。
道満は魔羅をひょいと抱え上げ、逆の手でマスターの手を引いた。ダヴィンチはどうせいつもの部屋にいるのだろう。
「ささ、マスター、ダヴィンチ殿に調査頂きましょう」
「ええーそれをダヴィンチちゃんに見せるのはちょっと」
「ンンン! あの御仁はそもそもおのこでしょう」
見目が少女とはいえ、元は男なのでこれを彼女に見せることについて道満は全く問題としていなかった。そして、こんな不完全な状態で晴明を召喚したマスターも少々恥ずかしい目に遭ってしまえば良い。
ドタドタと召喚部屋を出て行く道満。
残された女性陣と鬼一法師は黙って顔を見合わせるしかなかった。何故蘆屋道満が安倍晴明の魔羅の形を完全に把握していたのか。それを突っ込むこともできないままに。