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    ho_kei_trab

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    カドモリオメガバパロ書きたくてさ

    カドモリオメガバ現パロらせんのゆくすえ


     街頭の大型モニタからは人類初の火星有人探索船のニュースが流れている。数十年前は月へ行っただけで大騒ぎしていたというのに。人類の科学技術は指数関数的に上昇するのだとぼんやりと考える。だが、どれだけ科学技術が進歩しようが人間というのはどこまで行っても単なる獣の一種にすぎない。DNAという二重螺旋に刻まれた本能というやつに縛られている。

    「どうするかな…」

     口の中で独り言を呟いて早足で駅まで向かう。夜勤バイトの後に朝シフトを入れぶっ通しで十時間以上働いて既に昼が近い。眠たくて仕方がないが朝食を食べ損ねた胃が空腹を訴えていた。

     土曜日の昼前は人出が多い。街へ繰り出す人々とは逆方向、駅までの道を急ぐ。駅前で軽く何か食べたいが今月は厳しい。家まで我慢するかーー貧乏学生らしい葛藤を抱えて足を動かしていたのに、見てしまった。

     潰れてシャッターの降りた店の前、同い年くらいの青年がガラの悪い集団に絡まれていた。さらに悪いことにそのまま引っ張られて裏路地に連れていかれていく。通行人は見て見ぬ振りだ。そして最悪なことに、僕の見間違いでなければ連れていかれた青年の首には首輪。つまりΩだ。

     一気に嫌な予感が駆け抜けて、車道を横切り彼らの後を追った。面倒ごとに進んで首を突っ込みたい訳ではないが、善良なαとして困っているΩは助けるべきだ。それが「持つ者」としての責務だと考えていた。

     男女問わずΩという第二性は非力だ。僕はαといえど、α特有のカリスマ性だとか優秀さというのはない。しかしそんな僕よりも彼らの立場ははるかに弱かった。法律的には同じ権利が保証されているが、か弱く孕みやすい性質を持つΩへのレイプ事件は後を絶たない。神の設計ミスとしか思えない第二性の存在そのものに舌打ちしながら路地を抜けると風俗街に突き当たる。その奥から騒がしい声が聞こえてきて、僕は足を速めた。最悪の想像を頭に思い浮かべながら大きく息を吸い、角を曲がる。

    「おい、」
    「お前ら止めろ。警察呼ぶぞ!」頭の中で準備していた台詞は外に漏れず霧消した。

    「はいキミで最後ー!」

     楽しげな掛け声と共に先ほどのΩの青年が体格の良い男を蹴り飛ばす。強か壁に身体を打ち付けられて、だらりと崩れ落ちていく。その周囲には倒れた男が散らばっていた。
     昼間の風俗街は人通りが皆無で騒ぎに気付くものもいない。夜には派手な明かりが灯るであろう装飾や色褪せた看板は沈黙している。夜の暗闇が隠していた壁のヒビや道端に落ちたゴミも白日に晒され、ただの古くて汚らしい通りにしか見えない。

     その中で唯一の美しいものがこの青年だった。服の埃を払って滲んだ汗をハンカチで拭く仕草は上品で、綺麗な銀髪もあいまってまるでお伽話に出てくる王子様のようだった。

     肥溜めに鶴とはこのことかと、変に納得してしまった。こんな凶暴な鶴は見たことがないが。

     Ωの身体的特徴は厄介だ。三ヶ月に一度のヒートの最中は発情してほとんど動けない上にαやβを惑わせてしまうだけではなく運動をしても筋肉が付きづらいなど同じ人間なのに随分と制約が多いし、だからこそ差別される。
     DNAで定められたハンデなどどこ吹く風といった様子でそのΩの青年は清々しく伸びをした。彼は僕の存在に気付いていたようだ。

    「きみも襲ってみる?」

     その辺に転がっている暴漢達と同類と決めつけられて良い気はしない。だが仕方のないことだろう。Ω一般にとってαもβも脅威でしかない。

    「いや、アンタが無事なら別にいい。警察呼ぶか?」

     彼は襲いも怒りもしない僕に多少驚いたようだった。気の強そうな真っ黒の瞳が大きく開かれる。

    「……先を急ぐからこの程度の制裁で許してあげることにするよ」
    「ならいい。気をつけろよ」

     変わり者のΩとの邂逅は少し興味深かったが、それよりも空腹を満たすのが先だ。そのまま踵を返す。しかし「きみ」と声をかけられて振り返る。

    「助けようとしてくれたお礼に何かご馳走するよ」
    「アンタ急いでたんじゃ」
    「やっぱり大した用じゃないからいいや。それよりも、きみに興味がある」

     綺麗な笑みを向けられて面食らったが、どうにも裏のありそうな笑顔だ。しかも自分は他人に興味を持たれるはずのない平凡な存在だ。

    「……別に僕はただの一般人だが」
    「それは見れば分かるけれど」

     初対面で、しかも恩すら売っていない相手に食事を奢られる謂れはない。しかし空腹は限界に達しているし、もしここで一食分の費用が浮けば諦めていた今月発売のCDが買えるかもしれないとさもしい考えが頭に浮かぶ。
     その瞬間、ぐう、と腹の虫が鳴ってしまい青年は子供のように声を上げて笑った。

    「名乗るのが遅れたネ。僕はジェームズ・モリアーティ」
    「カドック。カドック・ゼムルプスだ」
    「きみは……βではないよね。αで合ってる?」
    「ああ」

     近くに行きつけのカフェレストランがあると言われて連れていかれる。その道すがら少し話をした。この世の中、βが圧倒的に多い。分かりやすいαではない僕は極力βと見えるように振る舞っていたが、やはりΩには分かるらしい。

    「好きなものを食べると良い。ここのオムレツは絶品だよ。アボカドが食べられるのならコブサラダもお勧め。あ、サンドイッチならチキンがいいよ」

     モリアーティはどこか金持ちの家のお坊ちゃんなのかもしれない。連れてこられたのは元三つ星レストランのシェフがやっているというカフェレストランで、メニュー表に書かれた値段も僕が普段行くような店よりゼロが一つ多い。
     ちょうど昼時なので、彼もしっかり食べるらしい。値段を気にした様子もなく次々と注文していく。
     目の前の青年は首輪さえしていなければαと言われても通じそうだ。頭の先から爪先まで自信に満ちて、言葉の節々からは高い知性を感じる。知人の優秀なα達を思い出してこちらが気後れしそうだ。

    「……うま」
    「だろう?」

     運ばれて来たオムレツを取り分けて、一口。滑らかでまろやかな半熟卵が舌の上でとろけた。高いだけあるのだと納得してしまう。こんな美味い食事、いつぶりに食べただろう。
     モリアーティは自分が作ったわけではないというのに自慢げに胸を反らした。「好きなだけ食べるといい」と他の物も取り分けられて遠慮なくそれも口にした。まるで悪い魔女に

    「ねえ、きみの連絡先、教えてよ」
    「は? 嫌だが」

     猫のように笑うモリアーティは、それだけ見れば神が丹精込めて造った彫刻のように美しい。しかし、僕の勘が絶対碌でもない奴だと告げている。だから即断った。

    「そんな……悲しいなぁ…悲しすぎて僕このままお金も払わずに店を出てしまいそう……」
    「おい」

     わざとらしい嘘泣きと共に告げられた言葉に顔が引き攣る。
     多分最初からコイツは僕が金に困っていることと連絡先の交換を断ると見込んだ上でこの高そうな店に連れて来たのだ。
     その観察力、先読み力に感嘆するというよりは性格の悪さと足元を見られている不愉快さが先にくる。

    「っ、分かった! 分かったよ!」

     まるで追い込まれる草食動物になった気分でメッセージアプリのIDを教えたら「電話番号もネ」とすかさず言われた。容易に変えらない電話番号まで握られてしまえば簡単には逃げられない。いよいよ何か犯罪行為にでも加担させる気ではないかと身構える僕を楽しげに眺めてモリアーティはレモネードを一口飲んだ。

    「僕のフェロモンに反応しないαは初めてだ」

     彼は生まれついて他のΩよりもフェロモン量が多い体質らしい。フェロモン抑制剤を飲んでても分泌が止まらないため、それにあてられたαやβがフラフラついてくるのが日常茶飯事。さっきみたいに襲われることも多いらしい。

    「僕は一応αだが、特に優秀でもない。Ωのフェロモンへの感受性も低いから今も特に問題ないんだろう」

     高校入学時に検査されるまで、自分自身も周囲も僕がβであると確信していた。それくらい平凡な存在なのだ。αだけ集められた特進クラスでは酷く肩身が狭かった。

    「きみはαであることを誇らないのだね」
    「第二性なんてβが一番だろ」

     フェロモン感受性が低いとはいえゼロではない。街ですれ違っただけのΩに対して突然欲情して暴力的行為をしかねない、己のα性というものに嫌悪しか持っていなかった。
     αで得をしたことなんて、無駄にある体力くらいだろう。おかげで連日十時間を超える立ち仕事をしていても睡眠時間が短くても大学の勉強には支障がない。

    「フフ、違いない」

     モリアーティは僕の意見が気に入ったようで愉快そうに笑った。かなり強引に連絡先を把握されて愉快ではなかったが、確かにαだとかΩだとか関係なく彼とは気が合うかもしれない、と思ったのだ。
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