ハッピーエンドはまだ先…「下がるんだ、マスター!」
エミヤの焦った声が身体にビリビリ響くのは私とエミヤがぴったり背中を合わせて立っているからだ。私は頑なに首を横に振る。
「やだ」
「マスター!!」
「私もたたかうよ、エミヤ。貴方だけに任せたりしない」
微小特異点にレイシフトしたらみんなばらばらになっていた。
慌てて呼んだのがエミヤだったがパニックになっちゃいけないなと後悔した。
アーチャークラスに不利なランサークラスのエネミー。今日のパーティーにはおじいちゃんがいたのに
「エミヤ時間稼いですぐセイバー呼ぶ」
「承知した、マスター」
「お疲れ様です、先輩。…大丈夫ですか…」
レイシフトから帰還後、私達はおじいちゃんの部屋でほうじ茶を頂いていた。
まるでキャスター並みに部屋を下総のように改造した和風な空間は落ち着く。
「な、…んとかア?!」
容赦なくデコピンされて私は思いっきりのけぞった。
「先輩?!」
慌ててマシュが支えてくれたおかげで床にダイブするのは避けられたが…痛い。
「まったく。マスターお前さん、なんであのアーチャーがピリピリしてたかわかってねぇな?」
そう言われて私はうなだれる。
微小特異的でおじいちゃんを呼んでからエミヤの機嫌が悪い。微妙な空気を読み、おじいちゃんが「茶でも飲んでけ」と誘ってくれたのだ。
「む、村正さんっ…」
「私が的確に指示できなかったから、かなぁ…」
「そんなことありません私たちが到着するまで先輩はしっかり指示を出されていました。それはエミヤ先輩もわかってるはずで
こりゃあまったくわかってねぇな。
盾の娘の励ましも耳に入っていない嬢ちゃんの様子を見れば自然とため息が漏れた。
あの赤いアーチャーはおそらくは儂がマスターに呼ばれたのが面白くなかったに違いねぇ。ほんとになぜここまで嫌われてるかわかんねぇな…儂がなにをした?
気に入りの娘が気に入らない儂を呼び「エネミーお願い。信じてる」と言われるのをみりゃあそりゃ面白くないな。
あの嬢ちゃんはそういうとこはとんと鈍い。
互いに意識してるのにこうもすれ違うとは…ハッピーエンドとやらはまだ遠そうだ。