大きくもないし柔らかくもない羽織は分厚いがその中は酷く薄っぺらな体をそっとベッドへと転がせる。肩を軽く押しただけでコロンと柔らかなスプリングへとゲンが背を預けたのは彼がもやし等と揶揄されるからだけではないだろう。
「……千空、ちゃん」
少しだけ高くて柔らかな声が待ちわびるように、誘うように足元から俺を誘う。そうだ、付き合って数ヶ月。早いのか遅いのかも分からない。ゲンならばその答えを知っているのかも知れないがとても聞く気にはならなかったし、例え聞いたとて多分答えは簡単だ。別に他人が言うタイミングなんて関係はないのだから。俺はゲンを抱きたいと思ったし、ゲンの心の準備もできた。そして都合の言いように船では酒盛りが始まって誰も俺たち二人が抜けたところで気には留めなくなっている。そんな最高のタイミングが今日だったというだけで。
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