.「ああ、かわいいね。わたしにも抱かせていただけませんか?」
彼女が北の魔女だと知っている街人は、一瞬迷うように私を見た。しかし賢者の魔法使いであれば信頼に足ると判断したのか、どうぞと赤ちゃんを差し出す。小さくてミルクのにおいがする。ふにゃふにゃと泣きそうな声をあげたその子を、アリスさんは慣れたようにあやしはじめた。
「よしよし、良い子だね。かわいい子、あなたの人生が光に満ちて、温かくて、優しいものでありますように。すべてに愛され、幸せでありますように。北の魔女アリスの祈りを授けましょう」
歌うような、優しい呪文だった。本物を見たことはないけれど、例えるのならダイヤモンドダストのような光が降り注ぐ。すっかりご機嫌になった赤ちゃんはその光を追うように手を動かし笑っている。お母さんもほっとした様子で、「ありがとうございます」と両手を合わせた。
「ありがとう。1日1日を大切に、尊い毎日のすべてを大切に、その子を見守ってあげてね」
「はい。アリス様、きっとアリス様のように素晴らしい女性になるよう」
「わたしみたいなんて。その子はその子らしく、その子の人生を歩むんだよ。では、またね」
その場を去った後のアリスさんはとてもご機嫌で、スキップなんかしそうな足取りで、見ている私まで嬉しくなった。