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    rougenji

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    シェアワールド企画『タクティカル祓魔師』の二次創作作品
    アメリカのPECが夜に界異の祓滅に挑む話です。

    文内の造語
    ・PEC…民間祓魔会社。Private Exorcism Companyの略

    タクティカル祓魔師ってなんだよ
    https://w.atwiki.jp/nandayo/pages/1.html

    #タクティカル祓魔師

    夜間作戦人の寝静まった刻、まだ疎に光が点くオフィス街の一角に軽装甲車が止まる。簡易的に対呪装甲を備えるそれからは、4人の人間が降りて来る。
    企業勤めに似つかわしく無い得物を持ち深緑の狩衣ジャケットに身を包む彼等は、サープリス社に所属する祓魔師達だ。

    「それで、此処か?こんな時間に働かせようっていうクソ顧客クライアントのオフィスは。」
    「此処で間違いない。住所を見るには、な。」

    サープリス社は最近出来たばかりの会社で、まだまだ業績の少ないPEC民間祓魔会社だ。それ故に、仕事を選り好みして居られないという事情がある。
    今回の依頼人クライアントは事態の早期解決を望んでいる。翌日の始業時間迄の解決が出来なければ報酬を払わないと言って聞かないのだ。この無茶な要求のため、サープリス社の祓魔師達は界異の時間である夜に出動せざるを得なかった。

    「社長も社長だぜ。態々敵が有利な仕事受ける来るなんてよ。」
    「愚痴はそこ迄にしておきなさいウィリアム。我々には後がないんです。」

    ウィリアムと呼ばれる白人の大柄な男を、中背の褐色肌の男が諌める。彼は小さな機械より宙に投射された光のウィンドウを操作し、ある画像資料を開く。それには太いケーブルのようなもので人間をパロディしたようなものが暗いオフィス内に居る様子が映し出されている。

    「もう確認しているでしょうが、今回出現した界異は此れです。一号級界異ケーブルマン…物質的な肉体を持つ界異で、こうして社内の防犯カメラにもしっかり映っています。」
    「こんな輪っかみてぇな顔でよく獲物を捕捉出来るよなコイツ。しっかし、一号級1体に4人も派遣か。こんなに人数は必要かいマックス?」
    顧客クライアントは早期解決を望んでいる。それに、社長は実戦経験を積ませて置きたいのだろう。新人社員にな。」

    マックスと呼ばれた褐色肌の男より少し背の高い、ベリーショートの金髪の女がウィリアムの後ろから発言すると、3つの視線は4人の中で一番小柄な女に向く。視線を向けられた少女はおたおたとした様子を見せながら、祓串ペグ射出銃を握りしめている。隙だらけで、彼女が現場に不慣れであることを窺わせる。

    「冗談だろ?経験積む前に終わっちまうぜ。」
    「新人、改めて名乗っておけ。顔を合わせてない奴も居るだろう。」
    「は、はいエレン隊長!私、リョウカ・ブレアといいます。よろしくお願いいたします……。」
    中国人チャイニーズとのハーフか?本当に使いものになるのかコイツ?」
    日本人ジャパニーズだ。加護出力はお前より上だぞ、ウィル。」
    「彼は資料に目を通しませんからね。」

    はぁ、と溜息を吐き、マックスは宙に浮かぶ画面を操作して、建物の見取り図を表示させる。4階建ての建物で、今回突入するオフィスのものだ。マックスは先に表示させていた画像と照らし合わせながら、建物の3階に界異が出現した旨の説明をする。同階のサーバールームと書かれた部屋を指し、そこが発生源だろうとマックスは推測してみせる。ウィリアムがそれに茶々を入れ、マックスに再度嗜められる。

    顧客クライアントによると、従業員の1人が界異を発見・通達したと言う。まだ何人かは建物に残っているらしい。出来るだけ急ごう。」

    4人隊のリーダーであるエレンの発言の後、彼等はオフィスに突入する。建物は既に消灯済みで、サープリス社の祓魔師達は暗がりの中を外からの明かりだけを頼りに進む。明かりを点けないのは捕捉される可能性を減らす為でもある。サープリス社には霊体を確認できるような性能の暗視ゴーグルを用意する資金が無いのだ。途中の道を慎重に安全確認し、一先ずの目的である3階に着くと、彼等は2人ずつのチームに分かれる。サーバールームを挟むようにして移動し、界異を挟み撃ちにしようという作戦だ。

    「リョウカは私と来い。ウィリアムとマックスは3時の方向から行ってくれ、私達は9時の方向から進む。」
    「あ、はい!分かりました。」
    「新人、あまり隊長リーダーの脚を引っ張るなよ?」
    「貴方も、ワタシの脚を引っ張らないでくださいね。ウィリアム。」
    「心配しなくてもお前のケツの穴は俺がしっかり守ってやるぜ。」

    ウィリアムはグレートソードのような大型の黒不浄をわざとらしく手で叩く。「下品ですよ。」と言いながら、マックスは小型の機械を懐に仕舞い拳銃型の祓串ペグ射出銃に持ち替える。新人のリョウカにとって、それは隊長のエレンが持つクロスボウ型の加護矢射出装置と比べるととても心許無く映る。

    「不安そうですね。此れでも、日本の祓魔師達が扱っている炸薬を使わない其れよりは幾分か強力な威力をしています。」
    米国アメリカはパワー至上主義だからな!遠慮ってもんがねぇぜ。」
    「世間話は此処までだ。界異を捕捉しても突っ走らないこと。見つけたら此方に連絡を入れろ。作戦開始だ。」


    一筋の月明かりだけで照らされる廊下を、2人の祓魔師は隊列を組んで進む。これでも、影になっている部分もマックスが事前に用意してくれていた即席の集光術式のお陰で幾分か認識出来ている。隊長であるエレンは慣れた動きで先行し、その後をぎこちない動きで足音を消し切れていないリョウカが続く。そんな動きだからか、途中で床に配置された配線カバーに躓いて転びそうになる。

    「固くなりすぎだな。やはり初めての実戦は緊張するか。」
    「す、すみません……。はい、ちょっとだけ……いえ、本当はかなり怖いです……。」
    「隊の奴等はどうだ。馴染めそうか。」
    「えーっと、…正直分からないです。」
    「ハハ、素直だな。あれでも悪い奴等は無いんだ、許してやってくれ。」

    少し間を置いて、エレンが脚を止める。続いて、リョウカも止まる。リョウカは不安そうに周囲を警戒するが、エレンが口を開くと其方に意識を持っていく。

    「リョウカはどうしてアメリカでPECに入ろうと思ったんだ?正直、日本の境対に入った方がよっぽど好待遇だぞ。」
    「え?えーっとそれは……。」「…私、母方の実家が神社なんです。でも、お姉ちゃんと比べるとあんまり才能が無くて……。それで、父の仕事について来る形でアメリカに来たんです。逃げ出すように。…でも、結局出来る仕事が無くて……やっと拾って貰えたのがこの会社だったんです。」
    「なるほど、な。」「…私は何度か、君の訓練の様子を見ている。筋は悪く無いと思うぞ。」
    「え、ほ、本当です…か?」
    「嘘を言ってどうする。思うにリョウカ、君は自分を過小評価しすぎだ。もっと自信を持って良い。私が保証する。」

    エレンは微笑んでみせる。困惑した様子のリョウカだったが、少し後のエレンの先に進む指示で慌てて隊列を整える。安全確認をこなしながら、2人はサーバールームの方へと近付いていく。
    途中、事務室の扉が開いている事に2人は気付く。302と番号が振られたその部屋からは、少々異臭が漏れ出ていた。ドアノブを見る限り、内側から鍵が掛けられる造りになっている。恐る恐る扉を開放し、エレン続いてリョウカが中に入り確認する。

    「っっ…!」

    空調設備に括りつけるようにして、回線で首を吊られた死体がぶら下がっていた。死体は2人分あり、その何方もが足元に異臭の正体である水溜まりを作っていた。
    リョウカはこの光景に我慢できず嘔吐してしまう。エレンはその間に周囲を警戒しつつ、ケーブルに穢れが残ってないことを確認する。

    「一足遅かったな……。リョウカ、大丈夫か。」
    「はい……すみません……。」
    「この先、このような現場は何度も見る事になる。厳しいことを言うようだが、続けるつもりなら、今の内に慣れておけ。」

    リョウカは青くなりながら、部屋の中を確認する。照明はどれも破れており、足元に無数のガラス片が落ちている。そんな様子の天井と引き替えに、殆どのデスクは不自然なほど荒れていない。1人は抵抗する間も無く吊られたのだろう。もう1人は部屋の扉を開けるところまで逃げたが、間も無く吊られてしまったのかもしれない。状況整理のため、なんとか頭を回転させようとリョウカが苦戦している時、通信が入る。

    『隊長、標的ターゲットを発見しました。』

    耳に装備された骨伝導式通信装置から声が聞こえた。マックスの声だ。エレンは慣れたように現状の確認を行う。

    「位置は。」
    『サーバールームの近くの休憩室…いえ、スペースですね。煙草休憩用のスペースです。』
    「了解した。私達も向かう。標的ターゲットの様子はどうだ。」
    『まだこっちに気付いてねぇ。野郎、さっきからじーっとしてるぜ。』
    「先走るなよ。万が一がある。4人で確実に仕留めるんだ。」
    『分ァってるよ……。…なっ、いつの間に!』
    「どうした?何があった。」
    『野郎のぶっといケーブルが背後から現れやがった!気付かないフリしてやがったのか!?』
    「落ち着けウィリアム!マックス、状況はどうなっている?」
    『誤算です……。ケーブルマンは1体じゃない、もう1体居る!2体目はダクトに潜んでいます。』
    『ぐっ!このッ、不愉快なもん巻きつけようとすんじゃねぇ!』
    『いや、違う……。我々は勘違いしていた……。何故気付けなかった?この階には元から──』
    『マックス!マックス!嘘だろ、形代共の首が一斉に弾けやがった!どんな威力で吊ってやが──グぁ』
    「ウィリアム!マックス!応答しろ!ウィリアム!マックス!…くそ。」

    締め付ける音と、ガタンッと大きな音がすると共に、ウィリアムとマックスの応答が無くなった。エレンは室内の壁をドンと叩く。生者達の発する焦燥の空気は事務室の死体の異臭と混ざっていく。

    「リョウカ、非常事態だ。行けるか。」
    「は、はい……!」
    「よし、急行するぞ。」

    マックスの言っていた地点に着くと、そこには薄らと輪郭が見える人影があった。しかし、それは人というには一回りも二回りも大きく、そして痩せ細っていた。集中して見ると、身体は幾つもの太いケーブルが巻き付き絡み合って出来ていた。あれは、それによって人の形をしているに過ぎないのだ。この界異は見るからには緩慢な動きをしているようにしか思えない。脚を構成するケーブルは動く際にそれを引き摺っているようにも見えた。足元には倒れた灰皿スタンドの中身が溢れ出ているのが分かる。ケーブルだけで出来た怪物は仄かに発光する自動販売機を見るように立っている。炭酸飲料を求めているという風ではないのは祓魔師で無くとも判断が付くだろう。

    「2人との連絡が取れない以上、私達で対処するしかない。私が引き付けるから、リョウカは背後から奴に祓串ペグを撃ち込め。奴の動きが鈍くなったら、加護矢コイツでトドメを刺す。」
    「そ、そんな…危険です……!通信では2体居るって……。」
    「奴等ケーブルマンは、紐に憑く界異だ。祓滅さえして仕舞えば、あのケーブルは異常性のない元の紐に戻る。確かに2体は流石に骨が折れるだろうが、ウィリアムとマックスが助かる確率を少しでも上げるなら、やらなければならない。やらなければならないんだ。」
    「…了解しました。出来る限り…やってみます……!」
    「よし。私達の命運はお前の動きに掛かっている。2度目の合図を出したら奴を撃て。」

    リョウカはこくこくと頷く。少し間を置いてからエレンは1度目の合図を出し、界異に向けて駆け出す。遅れて電線の怪物はそれを捕捉し動く。祓串ペグの機能を持った補助の短刀で標的を斬り付けにかかり、間も無く鍔迫り合いのような形になる。

    硬い。宿す怨恨が強いのか、今まで遭遇した個体よりも物質的な強度がある。エレンはそう分析していた。次の動きに出られる前に、無機的な怪物の手を弾いて間合いを取る。ケーブルマンの性質上、身体に触れたままの状態は危険である。バチバチッ。音を立て先端から火花を飛ばす界異の腕が、身体に電気を走らせていることを伝える。幸いなのは、常に電気を纏っていないことだ。もしそうだったとすれば、刃がぶつかるその瞬間にエレンは電撃による歓迎を受けていただろう。

    エレンが引き付けている内に、リョウカは壁を伝い、途中で少し躓きながらも界異の背後に回り込む。周囲を警戒し、2体目の襲撃がないことを確かめると、合図に向け祓串射出銃で目の前の界異に照準を合わせる。あっさりと背中を取ったリョウカだったが、同時に違和感を感じていた。「この界異、何処に目が付いているんだ……?」「いや、それよりも…、私は何に躓いた?」等、頭に浮かんでは消えていく。重要な役回りから来た不安感だとして、リョウカは目の前の状況に集中し直す。
    ケーブルマンは自身から幾つかの輪を作り宙に浮かべ、いつでも目の前のエレンの首に引っ掛けられるように構え、それをエレンに向けて伸ばす。

    「今だ!」エレンの2度目の合図が出される。同時、3回の炸裂音がフロア内に響く。長細い身体目掛けて、3つの祓串ペグは正確に突き刺さろうとする。

    刹那、界異を構成するケーブルは解けて展開され、祓串ペグの通り道を作り出す。弾はそのまま壁に突き刺さる。リョウカの不安は杞憂などではなかったのだ。

    「なにっ…見えていた、のか…!?」

    作戦の失敗をエレンが認識している最中、もう一つの不安がリョウカの頭に再度過ぎる。そして、怪物の足元に目を凝らす。引き摺っていたケーブルの先が地面を伝い彼方此方の壁に張り巡らされている。何故気付けなかった?マックスの最後の言葉がリョウカの脳内に響く。

    「作戦失敗だ、一時撤──!」

    天井から、4本のケーブルが垂れ下がる。先端から電撃が発生し、エレンに容赦無く流れ込んでいく。穢装出力を考えれば、エレンには大したダメージにはならない…が、完璧な抵抗レジストが出来ているわけではない。

    「ッッくっ……!」

    エレンは身体に走る痺れで一瞬の身動きを封じられてしまう。其処を界異は見逃さない。瞬く間に首に電線を括り付け、天井に吊し上げる。
    急速に持ち上げられ、エレンの首はグキリと大きな音を立てる。幾つか展開されていた形代紙の首が少しずつのラグを開けて黒ずんでいく。

    「あっ……ああ……ああああ……。」

    リョウカの口から狼狽えた声が出る。自身よりも上の実力である3人の先輩の敗北に、頭が真っ白になっていく。
    リョウカは来た通路の反対方向に走る。絶望的状況によって身体が本能的に敵前逃亡を図る。

    「そんな、そんな……。一号級なのに…、先輩達が皆……!」

    廊下を疾走する途中、何かにぶつかり、反動でリョウカはその場にへたり込んでしまう。顔を上げて目に飛び込んで来たのは、見知った顔の2つの躯だ。だらりと力無くぶら下げられていて、足元には首の千切れた形代紙が散らかっている。

    「ああああっ……!うぁああ……っ!!」

    我慢の許容量が限界を超え、叫びを上げようとしたのと同時、リョウカはキュッと首が絞まり後ろ側に強く引っ張られるのを感じた。
    一瞬だけ許された思考の中、リョウカは自分が先輩達と同じようになることを察した。首の激痛と共に、視界と思考は闇に呑まれて行くのだった。
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