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    k_hizashino

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    k_hizashino

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    般若さに続き。落ちどころが般若+さにくらいになりそうなので次回から表記を改めます。

    かたわら そう考えてまず思い浮かぶのは店の裏手の駐車場に止まっている黒い旧車だ。私は詳しくはないが、大般若さんいわくポルシェのカレラというらしい。
     店には荷物を運ぶ用のハイエースがもう一台停めてある。それと並んでいるからなのか、カレラは酷く小さく見える。
     今のところ大般若さんがその車に乗るところを見たことはないが、想像してみてもなんとなくちぐはぐな気がする。あの小さな車から大般若さんの長い脚がにゅっと飛び出てくるんだろうかとか、ハンドルの下のところに膝をぶつけないんだろうかとか、天井に頭が付くんじゃないだろうかとか、そんなことを考える。
     大般若さんは店の昼休みにたびたびカレラを洗車している。丁寧に扱っているがどことなく古ぼけたそれには口説き文句を言っているところを見たことはない。
     もしかしたら私がいないときに「今日の色艶も素晴らしいよ」とか「あんたは俺の最高の相棒だよ」などと言っているのかもしれないが。
    (でもなんとなくあの車を口説いている大般若さんを想像できないんだよな)
     それはなぜだろうと考えてみるけれど、これと言った答えはでてこない。
    「おおい、ちょっといいかい」
     そんなことを考えながら棚の整理をしていると大般若さんから声がかかる。どうやら裏口にいるらしい。
    「はい、どうしましたか」
    「ちょっとこれを運ぶのを手伝ってくれるかい」
    「また大きなものを仕入れてきましたね。店のどこに置きますか?」
    「入り口横のトーテムポールを軒先に出して、その周りのこまごましたのを机の上に乗せよう」
    「わかりました」
    「じゃ、まずトーテムポールを運ぶのからだな」
     大般若さんと私は息を合わせてトーテムポールを運ぶ。これはやけにハイカラでいかにも海外で商売をしているといった男性が持ってきたものだ。その人も大般若さんの遠縁の人らしく、「ハッハァ!」という笑い声が特徴的な人だった。例にもれず体格がよく、存在感の大きな御仁だったことを覚えている。
     トーテムポールには手のような金具がついていて、そこに帽子やコートを掛けられるようになっている。しかも顔はいかにも民俗的ではなく、どことなく可愛らしさや親しみやすさを感じるつくりになっている。確かにこれなら民家にあってもそこまで違和感はない……いや、あるかもしれないが、物好きな人は買っていくかもしれない。
    「あのトーテムポールも引き取り先が見つかりそうだよ」
    「えっ、そうなんですか」
    「ああ。なんでも児童施設で飾りたいんだと。子どもたちのバッグやら道具やらを掛けるものが欲しかったらしい」
     確かに金具をもう少し増やせば掛けられるところも増えるだろう。重量もそれなりにあるからある程度の重さには耐えられるはずだ。
    「奇妙な縁もあるものですね」
    「そうさなぁ。まあうちの親戚筋はそういうものを見つけるのが得意なところがあるからな」
    「あの派手な叔父様もですか?」
    「ああ、そうだ。あと今度そう呼んでやってくれ。きっと喜ぶぞ」
    「叔父様……?」
    「若い子に叔父様と呼ばれるのがぐっとくるんだと」
     俺にはわからん感性だがなと言ってトーテムポールを外に運び出し、空いたスペースにテーブルを運び込む。どことなくロココ調を感じさせるもので、天板はおそらく石製だろう。
    「ちなみにこれも親戚の方からですか?」
    「いいや、これはS区の家からだな。昔集めていたアンティークやらヴィンテージやらの家具を手放しているらしい。終い支度というやつなんだと」
    「そうですか」
    「しばらくそことは縁がありそうだ。ああ、テーブルの上に小物を並べ終わったら写真の整理を頼めるかい。その家で撮影した写真を物品ごとにフォルダ分けしてほしい」
    「わかりました。小物はどういう風に置きますか?」
    「そうだな。木彫りの彫刻の小さいものは窓に近いほうに置いて、大きいものは奥側で。あとはあんたの好きにしてくれればいい。あんたのセンスは悪くない」
    「そう言っていただけれるのはありがたいです」
    「俺としてもあんたが働いてくれて嬉しいよ」
     大般若さんはまた裏口から外へ出るといくつかの物品を室内に運び込んでくる。それを尻目に作業を続け、写真の整理をしていると「珈琲は好きかい」という声がかかった。
    「はい。好きです」
    「じゃあちょっと待ってな」
     古びた家屋だからてっきりコーヒーミルでも使うのかと思いきや、大手メーカーのコーヒーメーカーがそこにあった。大般若さんは珈琲豆を計って入れるとすぐにごとごとと音がして、珈琲のいい香りがあたりに漂う。
    「そら、少し休憩がてら」
    「ありがとうございます」
     いわば上司にこんなことをさせてもいいのだろうかと思いつつもごちそうになる。これも大般若さんの不思議なところなのだが、どれだけ同じ設定をし、大般若さんの入れ方を真似ても大般若さんのいれる珈琲の美味しさには及ばない。何度かチャレンジしたもののうまくいかないので、珈琲をいれるのは大般若さんに任せてしまっている。
    「今日はK店のリッチブレンドだよ」
     大般若さんは深煎りの苦みの強めのものが好きらしく、買ってくる豆はだいたいそういうものだ。私自身同じような好みをしているのでこういうところで味覚が合うのはありがたいことだと思って頂戴する。正直なところ酸味の強い珈琲は得意ではない。
     一通り写真をフォルダ分けし、大般若さんにそのことを伝えると「それじゃあ今日はもう帰って大丈夫だよ」と告げられた。
    「明日はお休みしますが大丈夫ですか?」
    「ああ。明日は特に何もないからな。まあもし店のものをゆっくり見たいならくるといい」
    「はは、お客さん視点で見てみるのも楽しそうですね」
    「そうだろう? とびきりのものをそろえてあるからな」
    「それじゃまた明日」
    「ああ、気を付けて帰りなよ」
     大般若さんに一礼をすると店を出た。寒風が頬を撫で、慌ててマフラーをした。
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