Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    おたぬ

    @wtnk_twst

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍁 ❄ 🍰 🍪
    POIPOI 122

    おたぬ

    ☆quiet follow

    吸血鬼🍁×生贄❄♀

    森の奥深くにある古城には吸血鬼が住んでいるという。それは処女の血を好み、人を攫い、喰らう。命を脅かす化け物。運悪くその森の傍に位置した街の住人はたちまちそれに友人、家族、恋人を殺されることとなり、やがて疲弊した人々は我が身可愛さに吸血鬼へ言ってしまった。

    贄を捧げます。貴方様の好む美しい娘の贄を。ですからどうか。どうかこの街は見逃してください。

    殺されたくない。その一心での命乞いである。
    こうして交わされた吸血鬼との契約により、この街では20年に一度、見目麗しい処女の娘を吸血鬼のいる森へと捧げるようになった。

    そして数百年の時が過ぎ、もう何人目かも数えられなくなった贄として青柳冬弥は選ばれた。自分が見目麗しいと冬弥自身思ってはいなかったが、たしかに恋をしたことはなく、誰とも肉体関係を持ったこともない。厄介払いをするにあたって街を守るための贄というのは、なるほどお家としても世間体が良いのだろう、と納得していた。

    冬弥が生まれた青柳の家は代々優秀な音楽家を排出する貴族。そこに生まれていながら、当主たる父が満足するレベルの演奏ができない冬弥は、間もなく落ちこぼれの烙印を押されてしまった。手を抜いたことはない。できうる限りの努力はしてきたつもりだった。けれど、認めてはもらえなかった。その結末が、これである。

    青柳の屋敷から街の男たちに引き摺られるようにして森の前まで連れて来られると、そこには見送りという名の見物客と祭服に身を包んだ初老の男性がいた。

    「すまない、こんな役目を負わせてしまって」

    司祭の声にも、周りで見ている人々からも悲しみも憐れみも感じられない。これが、こんなことでしか街の役に立てない青柳冬弥の命の価値なのだと、自身について彼女は再認識する。それならば、父の判断は正しかったのだろう。

    「いいえ、司祭様。こんな私でも最後に皆様のお役に立てて、嬉しいです」

    ぺこりと頭を下げ、特に未練もなく、それでは行ってまいります、と冬弥は吸血鬼の住む居城を目指して1人、夜の森へと足を踏み入れた。吸血鬼にその体と命を捧げるために。

    それで青柳冬弥の生は終わるはずだった。



    カーテンが閉められ、月明かりすら届かない古城の一室。天蓋の付いた寝台に体を寝かせ、少女は自身に覆い被さってくる男に握られた両の手の指を、男のそれに絡めた。男の青朽葉と少女の銀灰色が交わる。フッと淡く笑んだ男は少女の桜色の唇を軽く啄んだ。

    「冬弥」

    ちゅっ、ちゅっ、と幾度かの口付けの後、吐息がかかるほどの距離で再び交わした視線の熱はそのままに、蜂蜜よりも甘く蕩けた声で名を呼ばれて胸が高鳴りそうになる。あぁ、これではまるで恋人のようだと、冬弥は満足そうに離れていく男の端正な顔をぼんやりと眺めた。

    (そんなこと、あり得はしないのに)

    自身の立場と望まれた終わりを彼女は正しく理解し、今の自分の思考が間違いであることも、また同様に理解している。だから、役目を果たさなければならない。こうして思考に待ったをかけられているうちに、早く。

    「……彰人」

    催促するべく出した己の声は先ほどの男と同じように甘ったるくて吐き気がした。勘違いするな。間違うな。そんなことのためにここにいるのではない。そう自分に言い聞かせる。

    彰人はまた少女の唇を啄んでから、その白く滑らかな首筋に顔を近づけて、つぷり、と歯を立てた。

    「……んっ」

    皮を突き破り、体内から溢れ出る血潮を男は喉を鳴らして味わう。首筋から血が抜けていき、スーッと文字通り血の気が引いていくのに、彼の牙が触れているところから体が熱くなるような、相反し同時にある訳のない感覚が冬弥の中で同居していた。叫びたくもあり、秘めていたくもある。胸を酷くざわつかせるものだ。内側で暴れ回るそれを押さえ込み、彼女は湧き上がる熱を吐息にして吐き出した。

    「………悪い、痛むか?」

    リップ音をさせて離れた彰人がそう問いかける。少女の首筋から顔を上げた彼を見れば、心底から心配しているような表情をしており、その存在からは想像できないそれに冬弥は思わず笑ってしまう。

    「おい冬弥、何笑ってんだよ」

    こっちは本気で心配してんだぞ。
    そう言ってむくれている姿は、本当に人と変わらない。いや、むしろ彼女の知っている人間たちの誰よりも彼はずっと表情豊かで、また愛情深かった。

    「いや、すまない。痛みはないから、構わず続けてくれ」

    彰人が噛みやすいよう首を傾けるが、彼はかぶりを振って寝台から降りてしまった。

    「………今日はもういい」

    それだけを告げて、彰人は寝室の扉へと足を向ける。あっ、と冬弥は咄嗟に遠ざかる彼に手を伸ばすが、それは虚しく空を切った。

    今日も役目を果たせぬまま、役立たずのまま、彰人がどこかに行ってしまう。父から与えられた課題をこなしても認めてもらえず、街から役割を与えられてもそれを真っ当することも未だできていないまま、今日が終わってしまう。

    (そんな私に、価値はあるのか……?)

    そのような命が生まれたことに意味はあるのか。ある、とは言えないだろう。何ひとつ成せていないのだから。嫌だ、と少女は歯を噛み締める。無意味で無価値なままは嫌だ、と。だからこそ、せめて彼に殺されることで自らの命の価値を定義したい。

    「……あき、と……」

    寝台から立ち上がり、部屋を出て行こうとしている彰人の背中を追おうとする。しかし、血を抜かれた直後の体は上手く動いてはくれず、地に足を付けた途端べシャリと床へ倒れ込んでしまった。

    「…………ぁ、う……」
    「冬弥!?」

    へたり込む冬弥のもとに慌てた様子で彰人は駆け寄り、大丈夫か、と彼女の前に膝を折って心配そうに伺ってくる。それが、冬弥には不思議でならなかった。

    どうして彼はこんな顔をするのだろう。冬弥は贄だ。彰人に、吸血鬼に食われるためにここにいる。そんな女をどうして彼は心配そうに見つめてくる。父も、兄も、そんな目を冬弥へ向けることなど終ぞなかったというのに。どうして。

    疑問ばかりが冬弥の脳内を埋め尽くす。

    「冬弥、血吸った後なんだからいきなり動いたら危ないだろ」

    吸血鬼は少女を軽々と抱き上げて、寝台の上へと座らせる。それからどこか怪我はしていないか、痛くはないか、と言葉を重ね、冬弥の体を改めていった。

    どうして、そんなことを気にする。
    怪我をしていたから、痛みを感じていたから、なんだというのか。そんなことはどうだっていいだろう。

    あぁ、そんなことよりも。

    数多の人々に死を望まれた少女はその期待に応えるため、吸血鬼の袖口をクイっと控え目に引いて懇願するように言った。

    「早く、私を食べて……彰人」






    *別に読まなくてもいい設定*

    冬弥
    普通の人間の女の子。音楽一家な貴族の家に生まれ、一般水準ではとてもピアノとバイオリンの才能に恵まれるものの父親には認めて貰えず、厄介払いとして吸血鬼への生贄にされる。

    父親の期待に応えられなかった、失望されたことがトラウマになってしまっているため、贄としての役目を果たすことに躍起になった結果殺されたがりになった。
    彰人がこれから死ぬはずの自分に優しくしてくる理由が理解できない。

    扱いは悪かったが、一応貴族であり音楽の知識しか与えられていないため生活能力は皆無。

    彰人
    誰も住んでいない城があったから大喜びで住み着いたら、定期的に生贄が捧げられている事故物件だった可哀想な吸血鬼。吸血鬼だが別に人は食べないし、太陽もある程度なら大丈夫だし、血は飲まなくても生きていける。むしろ毎日朝早くに市場に行って食材を買い、城で自分で調理して食べている生活能力高めの主夫系吸血鬼である。

    とある夜に歌が聞こえてきて様子を見に行った先で冬弥に一目惚れをしたものの、それから毎日のように「私を食べて」と迫られるようになり、自分の理性と戦う羽目になった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏😭👏❤😭💘😭😭🙏🙏💘🍌🍼💞💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator