Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    おたぬ

    @wtnk_twst

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍁 ❄ 🍰 🍪
    POIPOI 122

    おたぬ

    ☆quiet follow

    肝試しに行く🍁❄

    彰人は悩んでいた。伝説を越えるという夢はまだまだ遠いが、それでも一歩ずつ近付けている実感はあり、学校生活も、まぁまぁテストを除けば順風満帆である。しかし、東雲彰人は悩んでいた。

    姉は姿を見せないが、両親と食卓を囲んでの夕飯。ご飯茶碗から白米を掬いあげ、パクリと口に放り込んで咀嚼しつつ、彰人は考える。脳裏に思い浮かべるのは、愛してやまないツートンの彼。交際して数ヶ月。元々付き合う前からセットだの単品でいることはまずないだの、好き勝手言われるくらいに行動を共にしていたからか、特別な関係になっても2人の間にあまり変化は見られていなかった。

    それが、彰人の悩みの種。

    別に今の状態が嫌なわけではないし、冬弥から愛を感じないわけでも、ましてや彰人の愛が冷めたりはしていない。たまたま指先が触れ合って頬を染める恋人には、何度も胸をときめかされてきた。けれど、彰人は健全な男子高校生である。もっと、と願ってしまうのは仕方がないことだった。

    箸で豚のしょうが焼きの1枚を挟んでひと口齧り、また白米を掻き込んでもぐもぐと口を動かす。

    どうしたら、もっと冬弥といい雰囲気になれるだろうか。

    少し暗く、静かな場所ならばと行った水族館は魚の生態に冬弥の興味が向いてしまって、そういう意味では失敗だったし、遊園地は冬弥が楽しめるものが限られてくるため論外として、映画も互いの好みの問題が出てきてしまう。そもそも物語性のあるものは冬弥は集中して観たいタイプだろうから、いい雰囲気になるのは難しいだろう。

    (……どうすっかなぁ……)

    ご飯茶碗をテーブルに置き、代わりに手に取った味噌汁をズズズ……と啜っていると、適当に付けて流していたテレビから女性の悲鳴が聞こえてきて、彰人は何となくそちらに目を向ける。画面上で暗がりの中、最近放送開始したドラマが話題となってよく見るようになった若手女優が、男性芸人に抱き着いてキャーキャーと騒いでいた。何が起きてるんだと彰人は疑問に思ったが、どうやら彼女等はその界隈では有名らしい心霊スポットに来ており、若手女優は誰かに肩を触られた、と。そういうことのようだ。

    味噌汁の入ったお椀に口を付けたまま静止し、テレビを凝視していた彰人はコトリとそれをテーブルに戻して口の中の味噌汁を飲み込むと、これだ、と口角を上げる。

    学生という身分のため夜に行くのは難しいが、それでも心霊スポットには暗い場所はいくらでもある。なんなら暗くなくともいい。とにかく怖さがスパイスとしてあれば、自然と2人の距離は縮まるというもの。もしも冬弥があの若手女優のように怖がってくれれば、もしかしたら、万が一くらいの可能性で、冬弥から抱き着いてきてくれるかもしれない。

    そうと決まれば善は急げ。残った夕飯を胃の中に流し込み、部屋に戻った彰人はすぐさま携帯で近場の心霊スポットの検索を始めるのであった。



    「それで彰人、ここがその心霊スポット……なのか?」
    「あぁ、そうらしい」

    キョロキョロと辺りを見回し、首を傾げる冬弥に彰人は満足気に頷いて見せる。2人の目の前にはもう使われていない苔むしたトンネル。周囲には人の気配はなく、聞こえてくるのは時おり遠くの方で鳴いている鳥の声のみである。

    探せば案外こういうものは近くにあるもので、公共交通機関を利用して少しばかり歩けば山の中に放棄された、如何にもな雰囲気のここにたどり着くことができた。心霊スポット特有の付属されるエピソードとしては、酷い事故か何かで死んだ親子がトンネル内でさ迷っている……とか、そういうありきたりなものである。因みにこれを道中で聞いた冬弥は「可哀想だな」と、少ししゅんとしていた。

    「このトンネルに入るとその親子が出てくるとか、車で来ると車がいきなり動かなくなって、車体に手形が付いたり、帰り道で事故にあったりするとかで、今は人が寄り付かなくなったって話なんだが……」

    人が寄り付かないとは言われていても、心霊スポットとしてインターネットに出回っているからか、草の生い茂っている地面は所々踏み締められて禿げており、それなりに歩きやすくなっている。怖いもの見たさや彰人と同じような下心を持って訪れたのであろう人々が歩いてできた道を進み、トンネルの入口に近づく彰人の後ろをちょこちょこと静かに着いてきていた冬弥は彰人の言葉に「そうなのか?」と返して、不思議そうに口を開いた。

    「とても、人で賑わっているようだが……」
    「………………は?」

    冬弥の一言で周囲の空気が一瞬にして変わり、ピタリと彰人の足が凍り付いたように止まる。いや、凍り付いたように、ではない。正しく凍り付いた。それも足だけではなく、顔や手、体の至るところまで、その尽くが固まった。唯一、心臓だけがドクドクと早鐘を打って喧しかったが、それに文句を言う余裕は残念ながら今の彰人にはない。

    ギギギ……と油の足りないブリキ仕掛けのようにぎこちない動きで振り向いて、恋人に視線を向ける。彼は自身の発言の意味を理解していないのか、それとも理解できないほどはっきりと彰人には見えない何かを視界に映しているのか、「どうしたんだ、彰人」と小首を傾げていた。

    「と、冬弥……お前的にここって人で賑わってんのか……?」

    決してここには彰人と冬弥、その2人しかいないはずだとは告げずに、彰人は冬弥に問いかける。冬弥はニコリと彰人にしか見分けが付かない微笑みを浮かべ、何でもないことのように言った。

    「何を言ってるんだ彰人、人なら先ほどからずっといるだろう?今だって、彰人の後ろに……」

    何もいないはずの彰人の背後。つまりはトンネルの入口を示して、冬弥は何者かに会釈をした。それに一気に血の気が引いていくのを感じた彰人は即座に冬弥の細く綺麗な手を掴むとそのまま抱き上げ、まさに脱兎のごとく、来た道を全速力で駆け抜けた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍💕💴💘☺🙏🙏👏☺👏🙏🏃
    Let's send reactions!
    Replies from the creator