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    おたぬ

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    おたぬ

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    DK1🍁×音楽教師❄

    未来で、必ず世の学生達が冬休みを満喫する、とある日の夜。高校で音楽教師を勤める冬弥はその日の予定を無事すませたものの夕飯を作る気にはなれなかったため、コンビニで弁当を買い、車のドアを開けた。

    「あれ、と……青柳先生?」
    「…………東雲?」

    買ってきた物を後部座席に置いてから運転席に乗り込もうとした彼を呼び止めたのは、よく見知ったオレンジ色の髪とひと房だけ色の違う前髪が特徴的な、教え子でもある男子生徒の東雲彰人だった。彼は今コンビニへと来たのか、コートをしっかりと着込み、ポケットに手を突っ込んだ状態で立っていた。

    「どうしたんだ、こんな時間に」

    まだ補導されるような時刻ではないが、それにしたって学生が夜に出歩くのは感心しない。開いた運転席のドアを閉めて、車体に寄りかかり、冬弥は話を聞く体勢を取る。投げられた問いに何かを思い出したらしい彰人はため息を吐き出してから、口を開いた。

    「バイトが長引いて、気がつけばこの時間だったんですよ……本当はもっと早くに帰れるはずだったんですけど、直前で変な客が来て……それで」

    接客の時はかなり猫の皮を被って人と接しているからか、表情筋や気力をかなり持っていかれたのだろう。心做しか声にも表情にも元気がない。

    (これはかなり疲れているな……)

    それがひと目でわかってしまう。そして、それを放って帰宅できるほど、冬弥にとって彼は小さな存在ではなかった。

    「東雲、何か奢ってやろうか?」
    「……は?」
    「何かコンビニに買いに来たんだろう?」

    突然の申し出に垂れた目をパチクリとさせ、驚く彰人をそのままに冬弥はもう一度自動ドアへ足を向ける。背後から「待てって!別に金ならあるから!」と砕けた口調で慌てる声が聞こえてきた。

    「気にしなくていい、アルバイトを頑張った東雲に、先生からのご褒美だ」



    自分には飲み慣れた缶コーヒーを、彰人には甘いカフェラテを購入し、車を走らせること数分。2人はあまり人気のない場所まで来ていた。そのままコンビニの駐車場にいてもよかったが、長居しては店に迷惑になってしまう上、何よりあそこは学生がよく利用する。2人には、それは少々困ることだった。

    助手席に座った彰人が、手にしたカフェラテで喉を潤す。それを冬弥は運転席から何となくぼんやりと眺め、ふと、彼の喉仏が大きく上下するのが目に止まった。自分の半分ほどしか生きていない、まだまだ子供の彼。けれど、たしかに男なのだと、不意にそう確信させられて、トクリと鼓動が早まった。

    「……っ、し、東雲……それ、美味しいか?」
    「ん、あぁ……まぁ……美味い、けど……」

    カフェラテから口を離した彰人は、自身の鼓動に耐えられなくなった冬弥が捻り出した質問に答えつつも、その瞳をスッ……と細める。そうして、口角をニヤリと持ち上げた。

    「東雲、じゃないだろ……冬弥」

    楽しそうに、彼は言う。世間や、常識に決して許されない感情を互いに抱いた2人が交わした密約。周囲の目から隠れるためのそれは、しかし誰にも見られぬ2人きりの時は不要なもの。だからこそ、冬弥もコンビニを出て、人気のない所まで車を走らせたのだ。それは、言葉で言わなくとも、彰人もよく理解していた。

    「……ぅ……ぁ、彰人……」

    鍵をかけた音楽準備室ではなく、人の来ない旧校舎でもない車の中でそう呼ぶのは慣れておらず、冬弥はぎこちなく恋人の名を口にする。一度加速を始めた心臓が、さらに速度を増して体温までが上がり始めた。人の目から逃れ、耳を澄まさなければ取りこぼしてしまいそうな声量でこれなのだから、いつか彰人が教え子ではなくなり、陽の光の下、堂々とその名を口にできるようになったら、自分はどうなってしまうのだろう。それまでこの関係が続くのかは、まだわからないが。

    (……いや、そもそも、彰人はいつまで俺のようなおじさんを好きでいてくれるのだろう)

    未来のこととなると、どうしてもそんなことを考える。

    彼の愛を疑っているわけではない。そうではないけれど、彰人はまだ若く、2人の間にある埋めようのない年齢の差は酷く大きいのだ。柔らかく、可愛らしい同年代の女の子に目移りしてもおかしくはない。それが、冬弥は怖かった。

    「なぁ、冬弥」
    「ん?なんだ……?」
    「お前、また変なこと考えてるだろ」

    突然、咎めるような、鋭い瞳に射抜かれる。男らしい眉は吊り上がり、唇は不機嫌そうにムッとへの字を描いていた。

    彰人はとても優しい。だが、時おりこうして途端に機嫌が急降下することがある。それは、大抵冬弥が2人の将来について思考を巡らせている時。どうやら、冬弥にとっては考えるべき重要な問題でも、彰人にとっては「変なこと」であるらしい。

    これにどう答えるべきか。冬弥は必死に思案するが、考えていない、と言おうとも、勘がよく、また人をしっかり見ている彰人に嘘は通じない。かと言って、彰人の愛を疑っているようなことは言えないし、言いたくはなかった。

    (彰人は、こんな俺を心から愛してくれている)

    それはわかっているのだ。それなのに、どうしても不安になってしまう。校内で耳にする女子達の雑談。恋愛の話になると、いつも話題に上がるのは年下の恋人の名前で、その度に怖くて、怖くて堪らなくなった。彼女達は彰人と歳も近く、様々な事柄を共有もできれば、長く一緒にいられる。それに比べて、冬弥が彰人と顔を合わせることができるのは音楽の授業とお昼休みに、放課後だけ。それだって、周囲に関係が知られないように注意しなければならない。いずれ、こんな逢瀬は面倒だと、固くて無表情な男よりも柔らかくて可愛い女がいいと、彰人の気が変わってしまうのではないか、と。自分の中で彰人への愛が膨らめば膨らむだけ、不安になってしまうのだ。

    車内の空気が肩に重くのしかかり、冬弥は手の中の缶コーヒーに視線を落とす。愛されているのに、それは理解できているのに、彰人を信頼しきれない自分が嫌だった。はぁ、と、隣から大きなため息が聞こえてきて、冬弥は肩をビクリとさせて、身を縮こませる。だが――

    「まだ、渡すつもりじゃなかったんだが……」

    彼は少々不本意そうに零しながら、カフェラテをホルダーに置き、鞄の中に手を突っ込むと、ゴソゴソと中を漁る。

    「冬弥、左手出してくれ」
    「…………左手?こうか?」

    いきなりどうしたのだろう、と、小首を傾げ、缶コーヒーをカフェラテの隣に収めて求められた左手を差し出す。それを同じく左手で下から支えた彰人は、鞄から取り出した何かを冬弥の左薬指に嵌め込んだ。それは、冬の気温でひんやりとした、金属製のリング。それを左の薬指に贈る意味がわからないほど、冬弥は幼くはない。ひゅっ、と思わず息を飲んだ。

    「……ぇ、ぁ……彰人……っ、これ……は……」

    バクバクと、心臓が破裂しそうなほど大きく脈を打つ。信じられない思いで恋人を見れば、彼は月明かりのみが頼りである薄暗い車内でも、はっきりとわかるくらいに頬を赤らめていた。

    「……本当は雰囲気とか……もっと色々準備して渡そうと思ってたんだが、冬弥が不安そうにしてたから……」

    月光を受けて輝くシルバーをするりと撫でて、彰人は「これがあれば少しは安心できんだろ?」と優しく微笑んだ。

    「つっても、学生のバイト代で買える安モンだから、本物はオレが大人になったら……必ず渡しに行く」

    だから、それまで待っててくれ。
    そう、迷いのない金色が真っ直ぐに語る。

    体が熱い。瞳の奥も、喉も、熱くて、彼が愛おしくて、苦しくて、すべてが溶けて、溢れてしまいそうだった。伝えたい言葉や気持ちが脳内を駆け巡り、それらが合わさって、冬弥の口から出たのはたったひと言。

    銀色からついに溶け出てしまった想いが頬を濡らすのを右手で拭い、冬弥は詰まりながらも口を開く。

    「……待って……ずっと、待ってる……」

    その言葉に心の底から嬉しそうに笑った彰人が、そっと腕を広げるので、その中に冬弥は飛び込んだ。もう、迷いも、不安も、彼の中にはなかった。

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