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    おたぬ

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    おたぬ

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    体からハートが出ちゃう❄の話

    舞い散る愛情彰人がセカイを待ち合わせ場所として指定したのは、これと言った深い事情があるわけではなく、思いつきだった。ただ、人の多い場所でボーッと待たせるよりかは、好きなコーヒーでも飲みつつミク達と談笑でもして待っていてくれた方が、こちらとしては精神的にありがたい、とか、そんなところだ。

    約束した時間の少し前にセカイへと降り立った彼は、ここで、と、事前にはっきりとは決めていなかったものの、カフェで待っているだろうと当たりをつけ、ドアベルを鳴らしながら店内へ足を踏み入れる。けれど、そこにいたのはMEIKOとミクだけで、彰人の求めていた彼の姿はない。

    「冬弥ならいつも歌ってる空き地だと思うよ」

    薄い笑いを浮かべたミクは、彰人が疑問を口にするよりも先に、そう言った。その後に付け加えられた「早く行ってあげて」が、少しだけ気にはなったが、ともかく冬弥を待たせることは避けたい彼は礼を言うとすぐに店を後にする。

    いつも歌っている空き地、と言えば、思い当たる場所はひとつだけで、迷うことも、悩むこともなく、彰人は軽い足取りでそこに向かった。そうして、後は直進した先にある角を曲がれば冬弥の待つ空き地だというところまで来たところで、それは彰人の視界に現れた。

    それは、薄桃色をしていた。だいたい彰人の目線の少し下あたりをふわふわと少しばかり上下に揺れながら、中空を滑るように、それは漂っている。

    「…………はー……と?」

    と、一般的に呼称される形をした、それ。セカイとは、そもそも自然の摂理だとか、常識だとか、そんなもので言い表せるようなものではないが、それにしたって、意味がわからない。ふわふわと宙を漂うひとつのハート型の何かは、酷くゆっくりとした速度で彰人が曲がろうと思っていた角から現れ、そのまま直進して、彼の方へと真っ直ぐに近づいてくる。思わず身構えてしまいそうになるが、しかし、どうしてか逃げたり、殴って追い返したりといった気持ちは起きずに、手が届く範囲にまで来たそれを、彰人は何となく、そっと手で受け止めてみた。すると、薄桃色のハートはぷるぷると震えだし、赤みを増して、やがて、ポンッ、と音を立てて破裂したかと思えば、中から小さなハートが数個飛び出してくる。どうやら、触れると増える仕組みらしい。ますます意味がわからないが、新たに生まれたハートは彰人の周囲を漂い、まるで寄り添うように、ぴとっ、とくっついてきた。

    不思議と小動物に懐かれたような、そんな気持ちになって、ふ、と笑いが零れる。彰人は自身の体に引っつくそれらを特に振り払うでもなく好きにさせたまま、目的地である空き地へ再び足を向けた。だが、カフェを出てからそう時間もかけずたどり着いた見慣れたその場所に、探していた恋人の姿は見当たらない。

    「……冬弥……?」

    ミクが嘘を言っている様子はなく、何より待ち合わせをしているにも関わらず、冬弥が理由も連絡もないまま移動を繰り返すというのも考えにくい。けれど、パッと見渡しても、愛しい青はどこにもなかった。もしかして体調が優れなくなって家に戻ったのだろうか。そう言えばミクも「早く行ってあげて」と言っていた。あれはそういう意味だったのかもしれない。一度こちらから連絡を入れようか、と彰人が思考を巡らせていると、彼の耳に聞き慣れた声が届く。たった一音、「あっ」と。それは、焦りを含んだものだった。それと同時、今も彰人の周囲に浮かび、体に引っついたりしているハートと同じものが、空き地に積まれた木箱の影から、ふわりふわりと現れる。そして、それらもまた、他のハート達と同様に彰人のもとへと迷いなく滑空してきた。

    「冬弥、そこにいんのか?」

    この薄桃色が何なのかは知らないが、それはともかくとして、木箱の影から聞こえてきたのは間違いなく恋人の声だった。無数のハートを引き連れて、彰人は木箱に歩み寄る。

    「……あ、彰人……?」
    「どうしたんだ、そんなとこで。どっか調子でも悪いのか?」
    「いや、そうではないんだが……」

    冬弥が言い淀む間に2人の距離は彰人によって瞬く間に詰められ、ひょい、と彼は冬弥の隠れる木箱と建物の間を覗き込む。冬弥は長い足を折り畳み、体育座りの体勢でそこにいた。その腕の中にはここに来るまで目にした謎のハート達が抱えられ、それらは細腕から逃れようと、モゾモゾと身じろいでいるように見える。

    「そのハート……」

    お前のとこにも来てたのか、とそう思った彰人が呟くと、ビクン、と肩を跳ねさせた冬弥は恥ずかしそうに頬を染めて、ポツリと言う。

    「俺の、愛……らしい……」
    「…………は?」

    咄嗟に彼の言葉が理解できずに聞き返す彰人に、冬弥はギュッとハートを抱き締めて、再び、けれどより詳細に語る。

    「このハートは、俺の……彰人への愛……らしい……」

    ミクが、そう言っていた。

    なるほど、あの笑いと「早く行ってあげて」はそういうことか。
    すべてを理解した彰人は変わらず寄り添ってくる可愛いハート達を撫でてから、その発生源を彼が抱く愛諸共、腕に閉じ込めることにした。

    しかし困った。彰人は心の内で天を仰ぐ。これはデートどころではなくなってしまった、と。

    「あ、彰人!……彰人……抱き締めてくれるのは嬉しいが、今そんなことをされたら、辺りがハートだらけに……!」

    などと、慌てながらもハートを生み出し続ける恋人の唇を自身のそれで塞ぎながら、彼は脳内で今日の予定の立て直しを始める。なにせ、やらなければならないことができてしまった。

    (あー……ゴム、足んねぇかも)

    だが、それを実行するには、記憶している避妊具の残量が少々心もとないかもしれない。事後処理のできる浴室がある部屋は、この近くにあっただろうか。


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