赤銅 サイボーグに改造されてから初めて見た夕日は、世界を飲み込まんばかりの、赤銅色をしていた。
それがあまりにも隣にいる男の髪に反射し、きらきらとその糸を映えさせているものだから。
「っ?!」
「…あ、すまん」
何故引っ張ったのだろう。奴の性格を表したような重力に逆らう髪を、今度は優しく撫で付ける。そうすればジェットは、撫でづらいだろうとでも思ったのか、俺と視線を合わせるように屈んだ。
「他の奴らに見られてなくて良かったぜ」
「ん?」
「アンタ、急に触り始めるんだもんよ」
気持ちいいのか、目を細め俺の手に擦り寄る。それがまるで大型犬のように思えて、堪らずくつくつと笑いが込み上げた。
俺とジェットの間を、爽やかな風が通り抜ける。マフラーがふわりと揺れ、現実に引き戻された。
「なんでだろうな。夕日を見て、お前の顔を見たら───」
あぁ、そうか。
言葉が途切れたのを不審に感じたのか、ジェットは「…見たら?」と俺の言葉を反芻させる。
日が海に、とろりと溶けるように沈んでゆく。夜縹色の空が、それを覆い隠すように俺達に影を落とした。その最中でも一際目立つ、目の前の赤銅。
「……なんでもない」
「えー!?言えよハインリヒ!」
「ほら、そろそろ見張り交代だろ。帰るぞ」
きゃいきゃいと騒ぐ鼻高な男を横目に踵を返し、コズミ邸への帰路を辿っていく。数秒後、むすくれたように背後から1度抱きつき、すぐさま隣を陣取ってわざわざ俺のペースに合わせてくるジェット。
その顔はデレデレと俺を覗き見ながら笑っており、少しムカついたので横腹にエルボーをくれてやった。
そうすれば途端に涙目になり横腹を大袈裟に押さえ、それでも笑みが剥がれない様子に自然と俺の口角は上がっていく。
BG団の基地から逃れ、これから刺客がわんさかやってくるだろうとナーバスになりながら見張りをしていたはずの時間は、奴の髪色に似た赤銅の夕日によってデートの時間に置き換わってしまった。
またこうして帰れるだろうか。心做しか、俺の足取りは軽かった。