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    吉良の作業ログ

    尻叩き用。
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    吉良の作業ログ

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    ストーカーネタの導入。少しグロいかもしれない。

    ##FT

    サバイバーズ・ギルト

     人体がひしゃげる音を聞いたことがある。息をするのがやっとな程の苦痛を味わいながら、原型のない足を引きずって地を這い回ったことがある。
     燃える故郷の光景を今も覚えている。傍で真っ赤に身を染め上げた兄弟の体温の生温かさも、瓦礫から飛び出る手の薬指にはまった指輪が見慣れた母のものであったことも、眼前でうつ伏せに転がる父の身体に深々と突き刺さる鉄柱も、まるで昨日のことであるかのように。
     長い長い歳月を経てもなお、こびり付いたままの記憶が風化することはない。毎夜見る夢がそれを許さなかったのだ。真っ白なはずの故郷は赤く色付き、整えられていたはずの街並みは無惨にも崩れ去り、深く積もった雪がもたらす静謐にまどろんでいたはずの人々は皆、厄災によってその息を永遠に止めてしまった。なんの因果か一人息を続けていた自分だけが瓦礫の海で溺れていたのを、救援に来た軍の先遣隊が引き上げてしまったのが運の尽きだったのだと、今でも思っている。
     潰れた右足が元に戻ることはなく、けれどそれだけで済んでしまった自分は、かれこれ二十年弱もの間、ほとんど死んだように生きてきた。家系図の端っこにいるかも怪しいような遠縁の心優しい老夫婦に引き取られ、数年前にその二人が病で臥せるまで、それなりに恵まれた生活を送ってきた。しかし、いかに老夫婦が優しかろうとも心の傷が消えることはなく、夜になれば怪物がやってきた。その度に引き攣る喉からはおよそ人のものとは思えぬ金切声が洩れ、ごく小さなそれに誰が気付くわけもなく、一人布団の中で縮こまりながら夜を明かした。慢性的な睡眠不足に精神衰弱、挙句に潰れた右足という満身創痍ぶりでは、当然働きに出られるわけもなく、老夫婦の貯蓄に寄生しながら生きていた。そんなとても社会生活を営めるような精神状況になかった自分に根気強く寄り添い、温かい眼差しで見守ってくれた彼らは昨年、病の進行によってこの世を去った。
     それからの生活は、文字通りの地獄だった。死んでしまわなかったのは、あの日生き残ってしまった自分が、自分の望むときに死んで良いわけがないと信じていたからだった。だから今日までずっと、遺産に縋りながら生きている。老夫婦の家で暮らし続けることには耐えられず、持ち出せるものをすべて持ち出して、安いアパートに居を構えた。たった六畳半の部屋は伽藍堂で、改めて自分に何もないことを知って自嘲した。
     そんな生活が一変したのは、街がやけに活気付いたある日のことだ。国中の魔導士ギルドが競い合う大会の開催に沸く人々を、暗い部屋から眺めていた。それが終わった頃にポストに投函された雑誌──当然購読などしていないので、間違えられたものか、無料で頒布されていたのかのどちらかだろう──のとあるページに、思わず釘付けになった。
     先の大会の出場者を特集したその雑誌には、出場者それぞれの詳細なプロフィールが綴られていた。そこに、故郷の文字を見たのだ。優勝したギルドについて特に詳しく記されており、そのギルドに所属するという青年、ともすれば少年は、自分と故郷を同じくするだけでなく、その顛末もまたよく似通っていた。イスバンを由来とする時点で言わずもがなではあった。ほかにもイスバンを出身とする出場者はいたようで、妙な親近感を覚えると同時に、背筋が凍るような思いがした。
     活躍する彼らと比べて、己のなんと惨めなことか。吐き気がして、その日はすぐに床に就いた──間もなく跳ね起きたことは言うまでもない──。翌朝、充血した目を見開きながら再度目にしたそのページは、昨日見たものよりも眩しく映った。なぜこんなにも違うのか。そんな疑問が湧いて出ると同時に、そのギルドがどうやら自分の住まう街にあることを知った。何もかもを失ってから初めて、自ら外に出ようと思った。ただ一目、見てみたかったのだ。自分と同じ境遇のその人が、どうやって生きているのかを。
     違うのは、五体満足であるかないかくらいのものだ。身体の性も人生の道程もたしかに異なるが、それでもあの日を生き残った時点での大きな差など、せいぜいがそれくらいだったはずだろう。たったその差で、人生というものはこうも変わるのか。もしそうでないのなら、なぜ自分はこんなにも惨めなのか。あるいは、なぜその人はあんなにも誇らしいのか。
     確認をしたかった。それが彼と自分との決定的な違いの正体のことなのか、実際は同じようなものなんじゃないかという僅かな希望のことなのかはわからない。強いて言えば、日向で生きることへの罪悪感のことだろうか、と思いもしたが、結局は何もかもわからないまま玄関をくぐった。歩けば十数分で着くような場所にある、それが件の魔道士が属するギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』だった。
     結論から言ってしまえば、私はひどく惨めだったのだと思う。



     グレイがロキを呼んでほしいと言うので、ひとつ返事に頷いてポーチに手をかければ、鍵を振りかざすまでもなく現れた男に、もう何度目かもわからないため息を吐いた。私服姿でいつの間にか背後に立っていた彼は、今やもうすっかり見慣れた嫌に爽やかな笑みを浮かべていて、呆れとも諦めともつかない感情が湧き起こるのに再びのため息が喉を通り抜ける。しかし、呼んだ当人がどこか安心したように彼の名を呟くので、そういえば彼らは自分の預かり知らぬところで良き友人同士であったことを思い出した。
     ロキが目配せついでにウインクをするのをしっしと振り払って、その身体をグレイの方へと押しやった。主人が個人としての自由行動を許してくれると、訊くまでもなく確信している様子のロキは、追い遣られるままにルーシィから視線を外した。むしろ、その様子をグレイの方が気遣わしげに見遣るので、「いいのいいの、グレイはロキを呼んだんでしょ」と言えば、存外あっさりと彼は納得し、ロキを連れてギルドから出ていった。
     その背を見送ってカウンターへと向き直れば、にこやかに微笑むミラジェーンと目が合った。一連の流れを見守っていたらしい彼女が拭いていたグラスを置くと、目だけで周囲を見回しながら小さく手招きをするので、ルーシィは身を乗り出してミラジェーンに顔を近付けた。
    「ジュビアがね、最近グレイの様子がおかしいって言うの。何か知らない?」
     その問いに目を見張りつつ、ルーシィは首を横に振った。そも、グレイのことでジュビアが知らず、自分が知っていることなど無に等しいだろうと言えば、彼女はクスクスと笑って首肯した。
     しかし、ことグレイに関するジュビアの観察眼があてを外すとも考えにくい。おかしい、というのが具体的に何を意味するのかはわからないが、彼女が周囲に洩らすほどであれば余程のことなのかもしれなかった。ジュビアは基本的にグレイのこととなれば一直線で、言い換えれば暴走しがちなのだが、どうにも慎重に行動しているようである。それだけに、楽観できるような事態であるとは到底考えられないのだ。
    「ロキを呼んだのって、何か関係あるのかしら?」
     ぽつりと呟いたルーシィの背後から、びしゃびしゃと音がした。驚いて振り向けば、そこには話題の人物である本人が、おどろおどろしい表情でルーシィを覗き込んでいる。石のように固まってしまったルーシィをよそに、ミラジェーンが「あら、ジュビア」と声を掛けた。
     ジュビアは「こんにちは」とだけ返すや否や、素早い動きでルーシィの両肩を捕らえた。硬直から強制的に復帰させられたルーシィが、眼前の女へと恐々と視線を向ける。鬼気迫る様子の彼女はずいと顔を近付けると、ガクガクと掴んだ肩を揺さぶりながら問い詰めにかかった。
    「グレイ様はなんて……?」
    「ちょ、ジュビア、待って、ロキを呼んでほしいって、それだけしかっ」
     前後に振られながらもルーシィがそう答えると、ジュビアは途端に手を離して顔を覆った。あまりの様子のおかしさに、散々な扱いをされたルーシィすらも心配げに覗き込む。しかしその憂慮とは裏腹に、跳ね上がるように面(おもて)を上げた彼女が発したのは、いっそ気が抜けてしまうほどに普段通りの狂乱だった。
    「ジュビア悔しい……! グレイ様の非常事態に、頼ってももらえないなんて!」
     少女漫画よろしくどこからか取り出したハンカチーフを噛み締める彼女に、ルーシィは脱力して苦笑う。仕事の手を止めずに話を聞いていたミラジェーンが、よよよとすすり泣くジュビアに「グレイの非常事態って、どういうことなの?」と問い掛けた。すると、瞬間泣き止んだジュビアが、しばしの間口をまごつかせるので、ルーシィとミラジェーンは揃って首を傾げる。よほど言いづらいことなのかと勘ぐったところで、意を決したのかジュビアが口を切った。
    「実はその、……ここ最近、なんだか疲れているようで」
    「最近忙しいから……ってわけじゃないの?」
     こくり、とジュビアは頷いた。大魔闘演舞での活躍以降、妖精の尻尾には数多の依頼が殺到していて、誰も彼もがてんてこ舞いの忙しさを極めていた。グレイを始めとする出場者たちへの指名依頼などはとりわけ後を絶たず、であれば彼が疲れているというのも納得のいく話ではある。しかし、ほかでもない彼女が違うのと言うのだから、ことはそう安直な経緯ではないというのもまた事実であろう。
     ルーシィは頭を悩ませた。いかにチームメイトといえど、私生活を知っているわけではなく、本人から何かを伝えられたわけでもない。すると当然、原因に心当たりなどがあるわけもなく、脳みそがエラーを吐くのは時間の問題であった。先も言った通り、ジュビアがわからないのだから考えるだけ無駄なのだろう。そう結論したルーシィは、実に建設的な案を提案した。
    「じゃあ、ロキが戻ったら話を聞いてみるわ」
    「何かわかったらすぐに! ジュビアに教えてください!」
     ほとんど食い気味に叫んだジュビアに気圧されながら、ルーシィは仕掛け人形のように何度も頷いた。グレイがあえて人を選んで相談したのだから、ましてやその相手が義理堅いロキであれば尚のこと仔細を教えてもらえそうにはなかったが、深入りされたくない問題なのであれば、そうとわかるだけでもジュビアの乱心は鎮まるだろう。彼女はグレイのためにならないことをしない。ものの分別ができるからこそ、執拗に付き纏う彼女をグレイは邪険にしないのだ。心配だけは問題が真に解決するまで続くだろうが、手をこまねいてばかりの現状よりもよほど良いというものである。
     そう話が落ち着くと、ジュビアはようやっとカウンターの席に着いて昼食を注文した。もう昼も終わろうかという頃合いだが、どうやら心配事にかかりきりになって忘れていたらしい。一途な彼女らしい話だと、思わずルーシィは微笑んだ。
     事態が進展を迎えるのは、その日の晩のことであった。昼と同様、知らぬ間にゲートを潜ってきたロキ、もといレオが、神妙な顔付きで一週間の休暇を求めてきたのである。当然、事情を訊くルーシィに彼は顔を困らせると、後日必ず説明することだけを約束した。それが精一杯の譲歩なのだと悟ったルーシィは、心中でジュビアに謝罪すると、レオの申請を受領した。表情を綻ばせた彼を目にしたルーシィは、どうしても割り切れなかった本音をぽろりと洩らしてしまう。
    「大丈夫なの?」
    「大丈夫にするさ。でも、もし困ったことになったら、頼ってもいいかい?」
     そう問い返すレオに、ルーシィは当然だと胸を張って答えた。嬉しげに笑う彼を、ルーシィは信頼している。そんな彼が大丈夫だと言うのならば、彼女に残された選択肢などは決まっていた。ずるい返しをするものだと小突けば、自覚がないらしい彼はきょとりと目を見張って疑問がる。その様子にカラカラと笑うルーシィを見て、レオはさらに首を傾げたが、彼女はその疑問を解消してやることもなく風呂場へと引っ込んでしまった。彼女が風呂を終えた頃には、淹れた覚えのない温かい紅茶が机上に鎮座しているばかりで、彼は姿を消していた。
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    吉良の作業ログ

    MAIKINGストーカーネタの導入。少しグロいかもしれない。サバイバーズ・ギルト

     人体がひしゃげる音を聞いたことがある。息をするのがやっとな程の苦痛を味わいながら、原型のない足を引きずって地を這い回ったことがある。
     燃える故郷の光景を今も覚えている。傍で真っ赤に身を染め上げた兄弟の体温の生温かさも、瓦礫から飛び出る手の薬指にはまった指輪が見慣れた母のものであったことも、眼前でうつ伏せに転がる父の身体に深々と突き刺さる鉄柱も、まるで昨日のことであるかのように。
     長い長い歳月を経てもなお、こびり付いたままの記憶が風化することはない。毎夜見る夢がそれを許さなかったのだ。真っ白なはずの故郷は赤く色付き、整えられていたはずの街並みは無惨にも崩れ去り、深く積もった雪がもたらす静謐にまどろんでいたはずの人々は皆、厄災によってその息を永遠に止めてしまった。なんの因果か一人息を続けていた自分だけが瓦礫の海で溺れていたのを、救援に来た軍の先遣隊が引き上げてしまったのが運の尽きだったのだと、今でも思っている。
     潰れた右足が元に戻ることはなく、けれどそれだけで済んでしまった自分は、かれこれ二十年弱もの間、ほとんど死んだように生きてきた。家系図の端っこにいるか 4932

    吉良の作業ログ

    PROGRESS後編の最初を核心突かない程度に。ケツ叩きです。シオンの花の咲く丘で【後編】

    「一応確認するが、おまえたちはギルドメンバーとして来たのではなく、グレイの友人として話を聞きにきたんだな?」
     早天の寒風が頬を吹き付けるなか、ぶっきらぼうに投げ掛けられたそのリオンの問いに、ナツは矢庭に首肯した。思考を挟む余地もない様子のそれに思わず眉根を寄せたリオンだったが、どこか納得を含む諦めた表情を浮かべると、ナツの隣に立つエルザに視線を向ける。ナツの返答を保証するように一度ばかり頷いてみせた彼女を認めると、リオンは再度口を開いた。
    「……なら、オレがこれから教えるのは詳しい話を知ってる知人の情報で、教えてやるのはヤツの腐れ縁の誼としてだ」
    「わかっている。面倒をかけてすまない」
    「なんだよ、意味わかんねぇな」
     そう言いながらリオンはギルドから続く街路を歩き出し、エルザたちは言われるまでもなくその後に続いた。委細承知といった体で謝辞を述べるエルザに対し、リオンの確認の意図を把握でいないナツが首を傾げる。その後ろで話が読めずにいるルーシィやハッピーもまた、ナツと似たような困惑の表情でリオンの背中を見つめていた。
    「知人というのはあの村の長のことだ 3788

    吉良の作業ログ

    MAIKING風邪ネタでナツグレの冒頭。グレイが風邪をこじらせる話。ざっくり時間軸。39.7℃

     起床と同時に確認した時計の短針が左上を指し示していたので、グレイはおやと目を見張った。次いで己の身を襲った悪寒に思わず身震いすると、何事かを理解するよりも早く起こしたはずの上体が後ろへと傾いていく。かろうじて機能した腹筋が衝撃を軽減するも、頭部が枕に押し付けられた途端小さく呻き、強く目を瞑った。
     こめかみを押さえれば、指先には浮いた血管から常らしからぬ脈動が伝わる。拍動に合わせて痛む頭に手を当てながらゆっくりと起き上がると、カーテンの隙間から差し込んだ陽の光に視界が眩んだ。ベッドから抜け出し、足先がカーペットに着いたところに再び沸き起こった凍える感覚で、ようやく自らの身に起こるの異常に理解が及ぶ。茹った頭ではまともな思考が働かず、ずいぶんと遅れた把握であった。
     ベッドサイドに備え付けられた棚の引き出しをひどく緩慢な動作で開くと、ろくに中身に目も向けることもなく手を突っ込んで何かを探す。程なくして引き抜かれた手には体温計が一本握られていた。小さな画面の隣のあるボタンを一度押し込むと、襟首を引っ張って脇に差し入れる。二の腕を押さえ付けながら検温が終わるのを待つ間、グレイ 3536

    recommended works

    p33UczD0G2lwReE

    MEMOドラスレ5人が永遠の眠りについた話(死では無い)。
    設定が色々なところに飛んでいるため(?)深追いはせずに…
    永遠の眠り(ドラスレ5人)ナツ・ドラグニル
    どこかの世界の果てに存在する、炎に纏われた屋敷の最奥に眠っている。ピンク髪の少々幼げな顔が特徴的な青年。傍らにはもう何色か判断できないマフラーが置いてある。いつから眠っているのかは不明だが確実に400年間はたっていると推定される。また、眠ることで魔法の影響により彼の存在を知るものは居なくなった(忘れた)。寝具は焼け焦げた箇所が沢山あるボロボロの布切れが集まってできており、寝具の周りには永遠に消えることの無い黒い炎が燃え盛っている。目を覚ます条件は、彼の事を誰か思い出すことである。

    ガジル・レッドフォックス
    鉱石で覆われた深い谷底で眠っている。黒い長髪で身体の至る所にある鉄製のネジが特徴的な青年。彼同様いつから眠っているのかは不明だが、どのくらい眠っているのかの推測をたてることはできなかった。眠ることで魔法の影響により、誰も彼の居場所を突き止めることが出来なくなった。寝具は表面が凸凹した巨大な鉱石で出来ている。深い谷底に居るが周りの鉱石によって寝具諸共囲まれており、光は僅かにしか入らない。目を覚ます条件は、本当に愛する者の口付けである。
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