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    もじか

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    もじか

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    会話だけの話です。
    2014年のものです。

    おしゃべりトラベリ(会話)「―絵を、お描きになっていたことがあるんですよね、榎木津さん」
    「どうしてお前が知っているのだ、バカオロカ」
    「いやあ和寅さんか中禅寺さんでしたかねえ。お聞きしまして」
    「はあ、べちゃくちゃと、お前達はおしゃべりをしなくちゃ生きていられないのか」
    「はあ、まあ僕はこれが唯一の取り柄ですから。それで―ここにはその作品はないんですか?もうお描きには」
    「ない」
    「そうですか。いやあ残念ですね、一度くらい拝見したいと」
    「だめ」
    「駄目ですか」
    「お前はだめ」
    「えッ、どうしてですよ」
    「見てどうするのだ」
    「純粋に興味がありまして」
    「純粋ィ?」
    「ええと」
    「お前、まさか売って自分が儲けようなんて思っちゃいないだろうな」
    「ま、まさか、そんな、ありませんよ。僕は純粋に」
    「不純な奴がどの口で言うのだ」
    「そ、そりゃもうすっかりスれた大人ですから子どものような純粋さはありませんが、しかし」
    「嘘を吐くなッ」
    「はッ商売を考えてました!」
    「ほらみろほらみろ、この不純男!」
    「ひいッすみませんッ」

    「お、お名前が随分売れてますから、絵でも売れば高値が付くと思いました次第で―あてッ」
    「なんッて男だろうかな君は。幻滅だッ」
    「す、すみません、しかし」
    「金、金と、困るほど金がないわけじゃあるまい」
    「はあ、しっかり生活出来る程はありますが、しかしないとどこへも行けませんでしょ」
    「お前は便所へ行くにも金がいるのか。どこに払っているのだ。便器か」
    「ドブには捨てませんよ。いえ、例えば旅行でも、楽しもうと思えば、金があるだけ楽しめますから」
    「ふん、下僕が主人の金で贅沢旅行か。大層なものだなあ」
    「あ、いえ、僕個人の旅行でしたらそりゃ自分で払いますよ。そうじゃありません。下僕としての旅行です」
    「―は」
    「社員旅行なんてどうでしょうか」
    「社員?」
    「ここ、一応会社ではありますよね。しかしこの事務所の三人ではまだどこへも行ったことはありません。ですから少し遠くへ…」
    「―ふ、ふふふ」
    「あの」
    「くふふ」
    「な、なんです?」
    「僕と、 お前達が、旅行?―あはははは」
    「そ、そんなにおかしいですか」
    「おかしい。おかしいだろう?ふふふ」
    「おかしい、ですか」
    「僕と、カマと、ゴキブリが、どこへ行くというのだ。台所か?それならほらそこにあるじゃないか。金はいいよ。それくらいは免除してあげるから存分に行きたまえ」
    「そ、そんな、台所まで一体何歩の旅行になるんですよ。そうではありません、観光です」
    「下僕と?ふふふ」
    「げ、下僕の何がいけないんですよ。関口さんだって下僕じゃありませんか。聞きましたよ、学生時代の旅行話」
    「馬鹿。和寅とお前と二人合わせても、猿の足元にも及ばない」
    「何の基準なんですよそれは」
    「面白さに決まってるだろう」
    「それじゃあ、関口さんもお呼びして」
    「猿カマゴキブリで鬼退治でもするの?」
    「もう、どうしてそうなるんですよう。わかりました、それじゃ中禅寺さんもお誘いしましょう。保護者として」
    「誰の保護者だ」
    「まとめ役と」
    「おい、僕はあいつの下につく気はないぞ」
    「上下では…。それなら中禅寺さんにはスケジュール管理をしていただいて。ほら、中禅寺さんも何度も旅行していたとおっしゃってましたし、案外お好きなんじゃあ」
    「馬鹿だなあ。あいつが来るはずないだろう。役立たずが三人いるのだ。世話役が二人じゃ数が合わない」
    「はあ、そうですね。大変です」
    「お前は役立たずだぞ」
    「ははは―どうあっても、旅行は却下で?」
    「ううん」
    「ただ一度だけでも」

    「―僕は好きにするからお前達は邪魔をしない。来いと言えば来る、来るなと言えばこない。聞けないようなら捨てていく」
    「い、いいんですかッ」
    「うるさいなあ」
    「す、すみません。も、勿論、日付や日程は全て榎木津さんのお好きなさってください。宿もご希望がありましたらどうぞ教えてください」
    「だからやかましいよ」
    「和寅さん、ちょっと和寅さんてば」
    「―き、聞こえたよう」
    「和寅さん、どうです僕はやりましたよ。ほら隠れてないで」
    「ほっ本当にお許しが出たのかい」
    「でました。でましたんですよ。ほうら言いましたでしょ。とばっちりも飛んでません」
    「はあ、いつお叱りが飛んでくるか戦々恐々だったよう」
    「だから避難していたんでしょうに」
    「こそこそするなゴキブリどもめ」
    「い、いやあ、先生、本当に大丈夫なんですかい」
    「しつこいと止める」
    「和寅さん黙っててください」
    「珈琲」
    「和寅さん珈琲いれてください」
    「は、はいはいただ今」
    「けけけ、かわいいもんですな。ありゃ浮き足立ってますよ」
    「お前、バカオロカ、さっきからニヤニヤと気持ちが悪いぞ」
    「いやあ、何やら偉業を成し遂げたような心持ちで」
    「嫌だなあ、気味が悪いな。お前は置いていこうかしら」
    「そ、そんな殺生なァ」
    「―だいたい、毎日顔を合わせて寝泊まりしているのだ。旅行へ行ったところで何が特別楽しい。いつもどうりじゃないか」
    「それでしたら榎木津さんは楽しくなかったんですか?」
    「何が」
    「毎日のように遊びに来て、勝手に寝泊まりしていたとお聞きしましたが」
    「―益山」
    「へ?―は、はい」
    「お前、他に何を聞いた。何を知ったのだ」
    「い、いいえ。他には特に…」
    「不純だッ」
    「はッアルバムを―きゃあ!」
    「他にはッ」
    「ひい―」

    * * *

    「―ということですが、中禅寺さんもいかがです?ご一緒に」
    「嫌だなあ」
    「そんな嫌そうな顔までしなくとも」
    「嫌そうじゃあない、嫌なのだ。僕一人で四人の世話をするのかい?冗談じゃないよ。疲れ死ぬ」
    「そんなあ、問題児は一人だけですよう」
    「こんな計画を立てる君も十分問題児だと思うがね」
    「そうですかね」
    「言ってなかったかなあ」
    「はあ、何をです」
    「僕らの学生旅行は大体ね、その問題児が立案していたのだ」
    「は」
    「全く、似なくて良いところばかり君は似てきたようで、僕は頭が痛いよ」
    「そ、そうですかね」
    「照れる話じゃないだろう。ところで、どこへ行くのだったかな」
    「ああ、いえ、ついさっき許しを勝ち取りましたから、まだ何も決まっちゃおりません。榎木津さんがひとまず京極に訊いてこいッと」
    「ふうん。アレはどこへでも行くから君と和寅君で決めた方がいい。―そうだ、何なら僕は行きたい所があるんだがね」
    「え?行きます?一緒に」
    「君らがそこでもいいならね」
    「それじゃご一緒しましょう。いっそのこと奥方も」
    「いや、今回は出ないからなあ。アレ一人じゃつまらんだろうし、かといってアレに預けるのはなあ」
    「何が出ないんです?」
    「こっちの話だよ。まあ一日程、僕の都合で良いなら考えてくれたまえ」
    「はあ、わかりました」

    * * *

    「ということですが、どうします?」
    「そうしろ」
    「はあ…」
    「そうしなくちゃ駄目」
    「私は構わないよ」
    「はあ、僕も榎木津さんがそうおっしゃるならそうしますが、榎木津さん、中禅寺さんのご予定知っているんですか?」
    「下僕として行くと言ったろう」
    「ええ」
    「僕の言うとおりにしなさい」
    「はあ…。あ、それはそうと、榎木津さん」
    「なあに」
    「あのう、絵画は―」
    「しつこい」
    「なんでもございません。―しかし、旅費は」
    「和寅」
    「ま、程度によりますが、足りないということはないでしょうな」
    「はあ、それじゃ、いっぱい使ってしまえば…」
    「不純男を置いていけば何も問題はないな」
    「そ、そんなあ」
    「とにかく益山、君は本馬鹿の話をしっかり聞くように」
    「はあ」

    * * *

    「―丁寧に、」
    「傷つけないよう慎重に。でも速く、」
    「いいかい、しっかり運んでくれたまえ」

    「―ええ!」
    「ほら益田君、喋ってると落とすじゃないか」
    「ど、どうして、どうして旅行へ来てまで本を運ばにゃならんのです、中禅寺さん。―榎木津さあん」
    「こいつには下僕を貸すと言ってあるもの」
    「いやあすまないね、助かったよ益田君、和寅君」
    「それなら事前に教えてくださいよう。ねえ和寅さん」
    「私は一向に構いませんぜ」
    「ちょっと、裏切るんすか」
    「馬鹿者。旅行気分をぶち壊さないでやったのだ。文句より礼を言えこのオロカモノ!」
    「そ、そりゃ、ここへ来るまではまるで修学旅行の気分でしたから、ありがとうございますがね、ねえ関口さあん」
    「僕は二度目だ」
    「え、もう、ちょっと…。ね、ねえ和寅さん。和寅さんあんなに楽しみにしてたんすから、やっぱりこんなのは」
    「私は先生とご一緒できるならなんでもいいさ」
    「ええ!」
    「カマはゴキブリ以下だなあ」
    「そ、そんなあ」
    「ほら、おしゃべりしてないでさっさと働けッこの下僕見習い!」
    「ひいん!」
    「―それじゃあ、僕は千鶴さんと雪ちゃんをエスコートしなくちゃいけないから、しっかり働きたまえ下僕諸君」
    「あッそんなずるい―」
    「ずるい?ずるいのはお前だヒキョウダズル男。だめだめ、お前の考えていることを許すはずがないだろう。でも僕はいいの」
    「駄目ですよ」
    「むッなんだよ京極、お前は黙って本でも読んでいろ」
    「榎さん、あんた何を言ってるんですか。あんたも手伝う約束でしょう」
    「だから僕は―あ」
    「そろそろ―」

    「兄さん」
    「ああ、大丈夫だったようだ」
    「―あ、敦子さん。それに」
    「どうも遅くなりまして」
    「―鳥ちゃんかあ」
    「ち、ちょっと、どういう」
    「お久しぶりです、益田さん。私達取材で近場まで来ていたんですよ」
    「あ、お久しぶりで…えッ、それじゃ何です、鳥口君と、ふ、二人きりで―」
    「違う違う。他とは今だけ別行動。時間があるからお手伝いに来たんだよ」
    「ああ、そうか。驚いた…」
    「なんだ、それじゃあ女性達三人でということかい、京極堂」
    「早まるなよ関口君。さあこれで揃ったね」
    「揃ったって―」

    *

    「―じゃあ行ってきます」
    「頼んだよ、鳥口君」

    「―どうしてですよう!」
    「どうしてって、益田君。これが一番理想的じゃないか」
    「い、いや、力仕事なら圧倒的に僕より鳥口君ですよ。それに僕は元警官ですよ。警察です。警察ってな安全の象徴で―」
    「今は探偵助手じゃないか」
    「そうですけどォ」
    「ほら、君の上司は黙って働いているんだから」
    「ありゃ気落ちしてるんですよ」
    「じゃあ君も倣うんだね」
    「横暴だあ」

    *

    「…あの男は人遣い荒いくせにケチだなあ益山」
    「…そうですよねえ」
    「…アレは嫉妬しているのだあ」
    「…あらまァ」
    「―あんた達少し黙ってくださいませんかね。全くろくでもない師弟だな」
    「むっ黙らなくちゃならないのはお前の方だ馬鹿本屋。なんでもかんでもこの馬鹿カマに吹き込んで」
    「訊かれたから答えたまでです。そう言うなら自身の下僕の躾くらいしっかりしてくださいよ。主人を問題児と言う僕がありますか」
    「あ―」
    「なんだトゥッ」
    「あいた!ち、中禅寺さあんそれ言っちゃ―ひゃあ」

    *

    「―邪魔なら雪絵達と行かせれば良かっただろう」
    「君も酷い男だな関口君。あんな面倒な男を雪さんに押し付けたら可哀想だろう」

    「…ほら益山、ああ言ってあれは自分の細君が可愛いのだ」
    「…ほう、やっぱり夫婦ですな。夫婦善哉。なんだ妬けちゃうなあ」
    「―無駄口は済みましたかねえ」
    「―」

    「全く、京極も一緒になって騒いでいれば世話ないな。結局働いているのは和寅だけじゃないか」
    「いいんですよう、関口先生。私は一向に。こんな機会、なかなかありませんからな」
    「しかしこれじゃあ、いつもの通り、喋っているだけだ―」

    * * *

    「―いッやあ、」
    「これまた斬新な色使い。モダンな雰囲気。僕ァモダンなものに目がありませんからな、実に心惹かれます、」
    「アッ、こりゃあ印象派というやつですかな。僕ァこれが一等好きですなあ、」
    「はれま、こりゃこりゃまた目を見張るような構図、」
    「あ、裸婦―」

    「―終わりッ」
    「えッ、いやだってまだ裸―半分も見てませんよう」
    「うるさいバカオロカ!おしまいと言ったらおしまいだッ」
    「どうしてですよう、お売りになるとおっしゃったじゃありませんか。鬱憤晴らしに遊び倒してすっからかんなんですからア」
    「―依頼」
    「へ」
    「依頼とやらを受けてやる」
    「―そ、そりゃ、いいことで、僕もお手伝いしますが、しかし」
    「第一こんなものを売ったところで二束三文にしかならない」
    「そんなことはありません。それに有名分、ずっと高くなると―」
    「ナシだッ」
    「わ、わかりましたよ、それなら僕には見せてください。売りませんから」
    「お前、裸婦が見たいだけだろう」
    「ひッ―人聞きの悪いこと言わんでくださいよ、別に僕ァ…」
    「さっきッからお前の目はこれしか見てないじゃないか」
    「そ、そりゃ僕だって、お、男ですから…」
    「不純だあッ」
    「殺生なあ」

    「―どこへ行っても、変わらないものは変わらないなあ。旅行明けだとありありとわかる―、ところで君も遊んだのかい和寅」
    「いや、はや、野暮なことをお訊きにならんでくださいよう。しかし関口先生、随分さっぱりされたご様子で。新作でも?」
    「いや何、そうは言っても刺激にはなるものさ」
    「そうですなあ」







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