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    NoaNino

    短いの書いたり書き途中の置き場。溜まったら支部に移動して消えたりします。
    @NoaNino

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    NoaNino

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    夢と現実の教師if五夏。弱々しめ

    殺したければ殺せ、それには意味がある

    雑踏に消えていく背中に向けた指は、何も放てない。足は地に張り付いたように動かない。

    息が苦しい。酸素が足りない。どうやって呼吸をしたらいいのか思い出せない。

    いくな、説明しろ、もっと、ちゃんと
    俺、ぼく、分かんねえよ、

    傑、すぐる、待てって、なぁ、おい

    なんで、なんでだよ

    口の中に微かに残っていた酸素すら使い尽くした。息ができない。頭に酸素が行かなくなる。
    人の波の中にさっきまで見えてた傑が見えない。

    世界が暗くなる。音が聞こえなくなる。

    どうしてああなったんだっけ、
    呪術師として忙しい学生時代だったけど、青春っぽいことも結構沢山して、腹がよじれるくらい何度も笑って、喧嘩して、仲直りして、遊びに行って…

    あんなに楽しかったはずなのに、あんなに近くにいたのに、どうしてああなったか思い出せない。



    「悟ー?そろそろ起きなー」

    静かで真っ暗になった世界で自分を呼ぶ声がする。



    ベッドの中にまだいる恋人にキッチンから声をかける。
    秋も近いというのに夏の暑さがまだ残る最近は、悟の寝覚めが良くない。寝つきは良いのに、夢見が酷く悪いらしい。
    昨日はのろのろと時間をかけて布団から這い出てきた。一昨日は私の名前を呼んで体中ベタベタ触ってきた。しばらく触って落ち着いたが、視線は何を捉えているか分からず、挙動はおかしかった。

    今年もまたそういう季節だ。残暑がまだ残る秋の始まりと、世の中で華やかに盛り上がる師走の頃、悟は体調を崩す。
    秋の不調は10代の終わりごろから。冬の不調は20代半ばを過ぎたころから。

    理由はわからない。

    「悟ー?起きたのか?朝ごはん冷めるよ」

    寝室の気配は動かない。
    ばさりと掛け布団を蹴りあげるような音がしたから目は覚めたかと思ったが、二度寝でもしただろうか。

    「悟?また寝てるの?」

    キッチンから数歩、寝室を覗き込めば、悟はベッドの起き上がっていた。
    こちらを見ているようで何も見ていない目は、置いていかれて迷子になって、泣くのを耐える子供みたいに見えた。

    なんだ起きてるじゃないか。どうした?また悪い夢でも見たか?深刻な表情で青ざめた悟を刺激しないように、いつものように、いつもの年と同じように、できるだけいつも通りを装ってベッドに近づき、腰を下ろす。


    「手冷たいな、ココアでも入れようか。」
    「いい…、ちょっと、頭まだ回ってないだけだから、ちょっと……したら、起きるから…」
    「そう」

    掛け布団をぐしゃぐしゃに握りしめた手に手を重ねれば、ひんやりと冷たく、少し震えが伝わってきた。

    「すぐる、…ちょっとここにいて、どっか行かないで」
    「いるよ。朝ごはんは後で温め直そう。今日フレンチトーストにした」

    冷えた手を温めるように、すりすりと手の甲を擦ってやる。それから両手で包み込み、血の巡りが良くなるように何度か握ってもやった。摩擦で少しだけ皮膚が熱を持つ。
    悟の表情は相変わらず暗く、固いままだ。

    「今日の午後、1年の引率任務だっけ?具合悪いなら代わろうか?」
    「…大丈夫、おれ、…僕の…仕事だし」
    「でも顔色悪いよ、生徒にも心配かけてしまうだろう?」
    「…やだ、ぼくが…、おれ、すぐ…、どこにも行くな、行かないで…、ここにいて、おれ、いくから……」
    支離滅裂。子供みたいに駄々をこね、悟の手が私の服の裾を掴む。
    自分が行く、私には代わって欲しくない、傍にいて、どこにも行って欲しくないと言って聞かない。
    普段は他の追随を許さない自他ともに認める最強は、私の前ではこんなに弱い。

    こんな悟を送り出すわけにはいかない。悟のためで、引率される生徒のためで、私のためでもある。

    「……悟、じゃあ誰かに代わってもらおうか。伊地知に誰かいないか聞いてみるから、ちょっと待って。」

    ゆっくり子供に言い聞かせるように。体にすがりついて来る片手で悟の頭を撫でながら、片手でポケットの中のスマホに手を伸ばし、メール画面を開く。

    悟の体調が悪いこと、看病が必要そうだから自分も動けないことを簡潔に知らせ、代理で動ける人間を探してもらえるか頼む。ダメなら私が行くしかないだろう。

    私の服の中に冷たい手を入れ、体の形を確かめるように。悟は私の体にくっついて離れない。

    伊地知にメールをして十五分、返事が来た時には悟の冷たい手が私の上半身の至るところをなぞってTシャツは剥ぎ取られていた。
    伊地知からの返信には、乙骨が代わりに行ける旨と、夜蛾先生からの伝言が添えられていた。硝子にまた診てもらえ。
    硝子の治療で悟はどうにかならないと分かっていても、先生は変わらず心配をする。

    返信は後でいいか。

    「さとる、乙骨が代わってくれるって。今度お礼言いな」
    「ん……」
    枕元の悟のスマホに手を伸ばす。2人分のスマホの電源を落とす。外と二人で住んでいる部屋の繋がりを遮断する。

    「いいよ、待たせたね、」

    スマホを並べてベッドの下に落としたのが合図。
    がつん、床に当たった音と同時。悟の体が我慢できないとでも言うように、私をベッドに押し倒す。

    「おいで悟。…今日は休もう」
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