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    まる@雑多

    @sakkurinn1
    好きなものを好きなときに好きなように描く

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    まる@雑多

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    フォロワーさんの絵にssつけるやつをやりました。
    オズさん(@Wreck373_95)の以下の絵イメージです。
    https://twitter.com/Wreck373_95/status/1352865803348054016?s=20
    ※義善(ぎゆぜん)だけど最終的に別れます・暗めかもなので注意

    ##鬼滅

    我妻善逸という男は卑怯者だ。勇気のない意気地なしだ。
     少なくとも俺自身はそう思う。
     じいちゃんに拾われる前も、じいちゃんの元で修行していたときも、鬼殺隊に入ってからも、それは変わることがなかった。泣いて、逃げて、人にすがって、情けなく生きてきた。
     でも、俺だって好きでこう生まれた訳じゃないんだ。俺は俺なりに一生懸命生きているし、生存することくらいは許して欲しかった。
     そんな俺にも、優しく接してくれた人はいた。
     じいちゃん(ちょっと殴りすぎだけど)、炭治郎、禰豆子ちゃん、伊之助(お前も暴力的だよな)、鬼殺隊に入ってからは特に、いい人達に囲まれていたと思う。
     そのうちの一人、冨岡義勇さんとは、鬼殺隊に入って間もない頃、偶然知り合った。
     町で初めて彼を見たときは、綺麗な人だなと思った。烏羽色の髪を無造作に束ね、切れ長の瞳は深い海を思わせる色をしていた。俺は男前のことは嫌いだけど、彼はなんというか、放っておけないが先に来てしまったせいで拒否反応は出なかった。まあ無理もないと思う。だってお店に入って料理を頼んでおきながら、財布を忘れたことに気付いて心底困っていたからだ。言い訳もしなかったため、お店の人からはかなり怪しまれていた。
     帯刀していたから、同業者かと推測し、飲食代を肩代わりしたのが出会いだ。
     同じ鬼殺隊の人かも、とは思っていたけど、まさか柱の一人だとは思わなかったが。

     ――ついでに言うなら、その後自分がこの綺麗な人とお付き合いすることになるだなんて、欠片も思わなかった。

     だから、彼から「好きだ」と告げられたときは、目を丸くして呆然としたものだ。
     夕焼けが世界を赤く染めてゆくなか、真剣な目をした義勇さんは俺なんかのことが好きだと言ってくれた。彼から聞こえる心臓の音はひどく五月蠅くて、その言葉が嘘なんかじゃないことがわかってしまう。俺は、誰かに特別だと言われたことがなかったから、ものすごく嬉しくて、浮かれてしまった。「ありがとうございます、嬉しいです」と、にやけながら答えれば、目の前の彼はほんの少し困った顔をする。多分俺の言葉が返事になっていなかったからだ。それに気付いて、きちんと返事をしようと思った。けれど、どうしても「俺も貴方が好きです」という言葉が言えなかったのだ。その代わり、俺は「俺も同じです」と答えた。

     いま思い返しても、なんて卑怯な返事なのだろうと思う。
     だからこそ、俺は義勇さんに会うたびに、『好き』という言葉を伝えようとした。でも、その言葉はどうしても声に出せなかった。
     義勇さんと一緒に居ると楽しい。抱きしめられると落ち着く。口付けはちょっと照れてしまうけれど、嫌いじゃない。だから、何故『好き』と伝えられないのか、俺には全然わからなかった。

     わからないまま、時間は過ぎ、彼から別れを切り出された。
    「別れよう」
     そう言われたとき、俺は全然意味がわからないなりに、ものすごく傷ついた。ついに嫌われてしまったと思った。
    「あ。え、なんで」
     呆然としたまま問えば、義勇さんはすぐに答えた。
    「好きでもない相手に、付き合わせて悪かった」
     その言葉に、さらに衝撃を受けた。もしかして、俺がずっと『好き』の一言が言えなかったのが悪いんだろうか。だから彼は俺に愛想が尽きたのだろうか。
    「ま、待って。俺、義勇さんのこと嫌ってなんて」
    「わかっている」
    「じゃあ」
    「善逸。お前が好きだ」
     引き下がる俺に、義勇さんは優しい声で告げた。嘘のない、真っ直ぐな言葉だ。
    「……うん、俺も――」
     俺も好き。そう答えようと思ったのに、やはりその先が言葉に出せない。このままでは嫌われてしまう。焦る俺の頭を彼の右手が撫でた。
    「俺は、人心に聡い方ではないが、少しはお前を理解したつもりだ」
     頭を撫でる優しい手が、顔の側面に降りてくる。
    「善逸の好きと、俺の好きは違う」
     その、言葉に。
     俺は目を見開いた。
     ――気付いてしまった。どうして好きと言えないのか。その、理由に。

     特別だと言ってもらえたのが嬉しかった。
     (だから、心底浮かれてしまった)
     好意的に接してもらえることが心地よかった。
     (だから、この関係性を潰したくなかった)
     好きだと、肯定してもらえる存在であると認識できて幸せだった。
     (だから、離れることも選択できなかった)

     ――そうやって自分のことばかり考えていた俺は、義勇さんのことを愛することが出来ていなかった。

    「あ――」
     気付いたら、目の前がゆがんだ。涙が次から次へとあふれ、己の頬と義勇さんの手を濡らす。
     優しい手は、一度だけ、俺の涙を拭ってから離れた。
    「信じてやれなくて、すまない」
     彼は、最後の言葉まで、優しくて。
     そう言って離れていった義勇さんの顔を、俺はついぞ見上げることが出来なかった。
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    まる@雑多

    DONE2020年5月に書き始めて未完のまま放置していたものを、この前発掘して、2023年のいま完成させたシエウノ小説です。
    2020年の私が途中まで書いているのですが、まあシエテがめちゃくちゃ可愛い。いや、シエテが可愛いのは世界の真実ですが、今の私からこのテンションのお話は出てこないなあと思います。可愛いシエテしかいません。
    頑張って可愛いままに終わらせました。そのつもりです。不穏なことは一切無いです。
    予期せぬ告白の余韻 シエテが、ウーノに最初に好きだと気持ちを伝えたのは、酒の席だった。


     二人で街のバーに入って、隅のテーブル席に座り、情報交換をしながら酒を楽しんだ。
     シエテも酒に強いのだが、ウーノは所謂ザルだ。その小さな体でよくもまあそんなに飲むものだと思う。
     久しぶりに二人で酒を楽しんだせいか、シエテは少し理性が緩んでしまっていた。だから、楽しく酔っ払った結果、楽しく気持ちを告白してしまった。
    「ウーノ。俺ね、ウーノが好きなんだ」
     シエテが頬をゆるゆるにしながら伝えると、ウーノはほんの少し驚いた顔をしたものの、「それは嬉しいね」とまるで子どもに対するかのように微笑んだ。この時点で冷や水を浴びせてくれればよかったのに、と翌朝のシエテは思う訳だが、このときのシエテは単なる酔っ払いであった。ウーノが微笑んでくれたことが嬉しくて、彼の片手を取って、その手の平にちゅっと口付ける。そのまま舌を出して、ペロリと舐めた。僅かに汗の味がする。
    7800

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