――買ってしまった。
届いたばかりの荷物を見下ろし、ごくりと小さく喉を鳴らす。
平々凡々なダンボール箱に、伝票に書かれた『雑貨』という文字。なるほどこのようにして届くのか。絶対バレないから大丈夫と言われていたが、確かにこれでは中身が何かなどわからないだろう。まあ、わかっては困るものなのだから当然なのだが。
そわそわと逸る気持ちを抑え、蓋を封じたテープを剥ぎ取り、中身を確認しながら順々にベッドの上へ並べていく。
あれから刑部姫の協力を得て――何故かものすごい形相で食いつかれて「使ったらレポって!」と迫られた――通販サイトで購入した淫らな器具の数々。彼女の勧めで初心者向けとされているものを選んだが、途中でだんだん楽しくなってきてしまい、最終的にちょっとした拘束具とそれなりの大きさの電動張型までカートに放り込んでしまった。当世風にいうなら、ハイになっていた、というやつだろう。勢いというものは恐ろしい。
もっとも、不埒な高揚感はこの身の内に深々と根を張り、平静を取り戻した今も残ったままではあるのだけれど。
またも枝葉を伸ばそうとするそれを逃がすように、道満はほぅとぬるい溜息をこぼした。それから小さく頭を振って、並べた器具の使用法にひとつひとつ目を通し始める。
「我ながら、淫奔になってしまったもので……」
まァあやつのせいですが。そう独りごちて、道満は手にした桃色の張型をついと指先でなぞり上げた。無機物であるそれは当然ながらぴくりともせず、如何に砲身に触れられようが、道満の手中にじっとおさまったままだ。
――あの男のせい。
詰るようにそう言ってはいるものの、別に晴明との行為に満足していないわけではない。
抱かれる時にはたいていとろとろに溶かされて、綺麗に理性を飛ばされて、気付けば潰れて朝になっているし。そこで少しは加減しろと言うと、今度はぬるま湯のような愛撫を施されて延々啼かされる羽目になるし。実に業腹だが、満足できないどころか、むしろ快楽を与えられすぎてほとほと困っているといっていいくらいだ。
本来ならばこんな玩具で己を慰める必要などない。ただ、少しだけ……ほんの少しだけ、いつもと異なる快感を得てみるのもいいか、と思ってしまったのだ。他の男に抱かれるなど御免だし、女を抱く気もさらさらないけれど、晴明に与えられるものとは違う悦びを一度くらい感じてみたい。
温度のない男根の先にそっと唇を寄せれば、どきどきと胸が高鳴った。
早く試したい。できることなら今夜にでも。だが晴明にばれてしまってはまずい。こんなもので遊ぼうとしていると知れたら、さすがに何を言われるかわからないからだ。
彼奴がどこぞに駆り出されるのを待たねばなるまいな……などと考えつつ、道満は淫具を詰めなおした箱をクローゼットの奥へと押し込んだ。術による隠蔽はあえて行わず、あるがままの状態で葛籠などと共に置いておく。
下手に細工などした方が、逆に厄介な狐に嗅ぎつけられそうなので。
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それから数日。早く早くと待ち望んだその日は、思いのほかすぐにやってきた。
「QPがカツカツなので午後からしばらく宝物庫にこもります。目標額達成まで帰らないから、みんなそのつもりで」
鬼気迫る表情でそう告げた立香が、編成メンバーに晴明を指名したのである。当の晴明はなんとも形容しがたい顔を見せたものの、カルデアのサーヴァントとしてここに在る以上、マスターの命に否やを唱えるなどできようはずもない。
「はぁ……今夜は泊まり込みになりそうですね」
「いやはや、ご苦労なことですなぁ。まぁせいぜい励んでくるとよろしい。それから過労で早い処死ね」
「おまえはまた気軽に呪詛を……なんだか妙に嬉しそうじゃないか、道満」
「ンンン、気のせいでは? 貴方が留守の間に羽を伸ばそうなど、拙僧まったく、これっぽっちも! 考えておりませんがァ?」
無論、虚偽である。
誤魔化すどころか浮ついた気持ちがだだ漏れになってしまったが、晴明はかえって気抜けしたのだろう。それ以上は何も突っ込んでこなかった。
土産はないからね。存じておりますが。そんな定型文のような会話を経て晴明を送り出す。男の気配が去ったのをしかと確かめてから、道満はにんまりと笑みを深め、慎重な所作で秘密が詰まった箱を引っ張り出した。
開いて中を見て、また閉じて。
ベッドに置いたそれを眺めながら、さてどうするかと小さく唸る。
ひとりの時間はつつがなく確保したが、さすがに今からすぐ自慰に耽るわけにもいかないだろう。日もまだ高い。するならやはり夜、起きている者も少なくなってからがいい。
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うちの道はわりと素直に気持ちいいことが好き
晴とえっちするのが嫌じゃないのもただ気持ちいいからだと思ってる 晴以外とはしたくないなぁって思ってる意味には気付いてない