あ◯ろくんにフラれたいドアベルと共に店内に入ると「いらっしゃいませ」と涼やかな声に招かれる。
この声を聴くために一日の仕事を頑張ったと言っても過言ではない。
一度ならず、彼の「いらっしゃいませ」をこっそり録音して会社で嫌なことがあった時に聞けるようにしようかと思ったが俺の小汚いスマホから彼の声がしたところで意味がないと、結局は思い留まった。
安室くんの声は、ここ、ポアロで聞くからいいのだ。
「今日もいつものでいいですか?」
「あ、はい」
俯いて眼鏡を指で上げながら答える俺に安室くんは気分を害する様子はなく「かしこまりました」と明るく返してくれる。
彼のそんな誰にでも平等な優しさに内臓が軽くなったような気がした。
命が助かっているという表現は決して大袈裟な表現ではない。
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