トーランドの様子がどこか妙だ。それに気付いたのは、物資の補給の算段を付けた後の事だった。たわいも無い会話をしている最中、隣に並び立つトーランドがそわそわと少し落ち着きの無い様子であることに気が付いた。どこか別の事を気にしているように感じられるが、返答はごく自然で話題が噛み合わないと言ったことも無い。
彼自身が取り繕う事を得意としていることから、恐らく他者の目から見ると、特別に違和感として受け取る事もなく、自然な風体であるように映っているのだろう。それくらいほんの些細な変化であった。
「何か気がかりなことでもあるのか」
そう聞くと、トーランドはぽかんとした表情を浮かべた。まさか自分でも気付いていなかったのだろうか。そう思ったのも束の間、すぐに合点がいったようで、少し困惑したような笑みを浮かべながら、ばつが悪そうに口を開いた。
「いやあ……お前さんの尻尾がな……」
「尻尾?」
「俺の腰に触ってるのがちょっと気になったんだ」
それを聞いて、ちらと後方に視線を向けると、確かに尾がトーランドの身体の方にあるではないか。急いで尾を離した。隣に並び立つ者の体に触れる程に激しく尾を振ってしまっていたのだろうか。だが、トーランドはそうでは無いと答えた。不意に尾がぴったりと巻き付くように触れる瞬間があるのだと言う。その言葉を聞いて驚いた。己の尾のコントロールが出来ていないことなんて、幼い時分を除いて今まで無かった。もしかしたら、ただこのように指摘されなかっただけなのかもしれない。
「すまない、意識していなかった」
「いいや、構うこたぁない。まあでも、まさかムリナールくんが無意識でこんなことするとはなあ」
そう言って、先程の困惑したような笑みから一転、どこか嬉しそうににやつき始めた。一体どこに喜ぶようなことがあっただろう。