Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    7nanatsu8

    twst創作生徒であそぶ人です。地雷の方はさようなら…( ◜ᴗ◝)
    一次創作のあれこれもアップします!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    7nanatsu8

    ☆quiet follow

    ⚠️グロテスクな描写/過激な内容を含みます。苦手な方は閲覧を控えてください。⚠️
    鴨居百と鮭冬葉塩梅さんが一緒にお仕事をする小話です。(麋角解さん、夏代秋市朗さんの名前が出ます)

    ##四季会

    鴨居百の百物語 冬のお仕事 母は肉屋のパートで働いていた。まだ仮面ライダーが好きだった頃、その母の少ない稼ぎを使わせてしまったおもちゃのライダーベルトをつけて、母が働く肉屋に遊びに行った記憶がある。
    お昼前の肉屋は誰も並んでいなくて、汚れたエプロンを付けたおじさんが「かぁちゃん中にいるぞ」と特別に中に入れてくれた事が、あった気がする。
    本当に朧気な記憶だが、確かそこで見たのだ。
    どうしておにくやさんにこれがあるの?と、確か俺はおじさんにそう聞いたような。
    気がする。



    「ーーイノシシの肉です」
    「......はえ」
    「復唱しなさいガキ。『イノシシの肉です』」
    「いの、イノシシのにくです」

    1畳はある広い調理台の上に置かれた塊肉。ぎらぎらとした無機質な無影灯の光に照らされたそれは、まだ骨がしっかり付いていた。大きな冷凍庫から出されたばかりの塊肉は表面に産毛の様な霜を下ろし、ある程度解体されているが、肉塊の真ん中を真っ直ぐ通る骨の柱、恐らく脊椎と思われる骨が、その肉塊が何であったかを物語っていた。
    イノシシって、こんなに大きいっけ。
    イノシシって、こんなに背骨が立派だっけ。
    言われるがままに復唱する俺を見て「よし」と頷いた上司、アンバイさんは、肉塊の横に出されていた『それ』を片手で軽々と持ち上げる。
    俺が幼い頃肉屋で見た道具。

    ノコギリ状の刃が付いた機械。
    所謂、『ハンドジグソー』。

    「これは食肉解体電動鋸です。主に骨や筋を斬る際につかう、お肉屋さんや猟師の間ではメジャーなツールです。使い方は電動鋸と変わらりません。君、電動鋸を使った事はありますか」
    「イエっ」
    「では見て覚えなさい。あぁ、記録は取らなくて結構。どちらにせよ君の仕事はミンチ作業ですから、これはどう転んだって私がやらなければ行けない仕事です。あーあ、世の中って不条理......私こんなに優しいのに世界は私に優しくない......」

    アンバイさんは、ちょっと恐い人だった。
    俺より頭2つ程背が高く、日焼けしていない白い肌にシルバーとグレーの礼儀正しい七三分け。丁寧な話し方をしているが、「ガキ」「殺しますよ」と罵る時も丁寧なので倍怖かった。
    一方で責任感が強く面倒見がいいのか、この地下室に来る前にオツルさんに「じゃ任せた」と言われて以降、しっかり俺の面倒を見てくれていた。
    ヴーーーン、とハンドジグソーのエンジンがかかる。ここで怖がったり吐いたりしたらその刃先が自分に向くと安易に想像がついたので、じっと刃先を見つめながら万が一吐瀉物がせり上がって来た時に備えて舌を丸めて咥内に蓋を作った。

    「あ、」
    「?」
    「カモ君、やっぱり見なくていいです。回れ右して壁の染みでも見てなさい。

    多分これ、凍りきってません。半ナマです」

    さらりとそう伝える彼は、もう此方ではなく肉塊を見ていた。
    ジグソーの刃は止まらない。
    ザザザザザザザザザザ



    「あーあ、見なくていいって言ったのに」








    料理は苦手だ。というか自炊とは無縁の生活を送っていたので、包丁すらまともに握った事が無かった。
    アンバイさんにそう説明すると、「では今から君がする事は料理ではなくゲームだと思いなさい」と言われた。

    「お肉を細かく切るゲームです。油が刃に付くと切れ味が鈍りますからね、適宜沸かした熱湯に刃を漬ける事」
    「は、ハイ」
    「ビビってます?」
    「イエっ」
    「平気ですよ。シャーベット状のミンチ肉を浴びても発狂しなかったんですから、貴方も人間としてあるべき基盤が欠けているんです。思っているより辛くなりませんから、やりなさい」

    そう。
    緊張で回れ右をし損ねた俺は、ハンドジグソーが巻き上げた冷たい血肉を真正面から浴びた。
    後で聞いた話だと、冷凍庫に入れられた肉塊は温度と時間に不備があると外側だけカチコチに凍り、中身は柔らかいシャーベット状になるらしい。硬い表面には簡単に刃が入るが、柔らかい中身が振動する刃に巻き込まれると凄まじい勢いで周囲に飛び散り、かつ切れにくいという。
    ハズレの肉塊を引いてしまったアンバイさんは、しかし「まぁ掃除するしいいか」と思って刃を進めたらしい。俺が発狂したら、勿論殺すつもりだったと後に語った。
    一方、シャーベットミンチ肉を浴びた俺。
    怖かった。
    ......うん、怖かったのだと、思う。
    赤ピンクの吹き出し花火みたいな飛沫が飛び散り、ビタビタ胸や頬に鉄臭いみぞれ雨が降りかかり、絶叫する暇も無かった。
    以外にも、吐かなかった。
    あとそこまでショッキングではなかった。これは幼い頃肉屋の仕事場を何となく身近に感じていたからだと思う。
    皮を剥げば人も獣も同じなのだ。
    きっと。

    「ハイ、では任せましたよ」
    「ハイ...」
    「唐揚げくらいの大きさに刻んだら、2kg毎にこの袋に詰めなさい。袋の口は固結び。手首足首は隣のミンチ機に突っ込んで赤いスイッチを押しなさい。指紋が残ると厄介ですから、皮を剥がずに処理します。歯は処理が難しい上に情報が多いので、私が預かります。
    それと、今回は商品が傷んでいるので処理しますが、明日からは『春』に回す為の梱包もしますから、そのつもりで」
    「春、にですか」

    春。
    確かシュウさん達が夏で、アンバイさんは冬という役職の方だ。聞いた事の無い役職だったが、四季会という組織なのだから春があれば秋もあるのだろう。
    アンバイさんは「私、あそこの方々がうちで1番いけないひと達だと思うんですよね」と、今までの淡々としたものから少し柔らかい雰囲気に変わり、まるで井戸端会議をするようにそう切り出した。

    「いけないひと、ですか」
    「はい。私達冬の人間の仕事は『隠蔽』です。ゴミはゴミ箱へ捨てるべきではなく、ゴミは細かく刻んでバラして燃やして詰めて包んで地にかえすべきなのです。ゴミに向かって頭を垂れて手を合わせて南無阿弥陀仏を唱える必要はありません」
    「は、はぁ」
    「一方、春の方々の仕事は『商売』です。武器や薬や人間、臓器、必要があれば国だって売りに出す。そして必ず買わせるのですけれど、やり方が余りにアコギというか......野蛮というか、不躾というか。まぁ、こうしてゴミの解体をしている私にそう評する権利があるのか分かりませんが」
    「商売......同じヤ、えっと非利益法人に売るって事ですか」

    ここでは、自分達の事をヤクザと呼ぶと舌を割られる。なので、皆自分達反社会勢力の事を「非利益法人」と呼んでいる。
    アンバイさんは一瞬言いかけた俺に「気をつけなさいガキ、死にますよ」と朗らかに微笑みかけた。

    「非利益法人、ですね。詳しい顧客情報は知りませんが、商品が商品なので普通の企業なんかには流しませんよ」
    「ですよね......」
    「ですが、こと人体に限っては割と一般人向けに売っている様ですけれどね」
    「えっ?大丈夫なんですかそれ」
    「一般人と言っても、海の向こうの『大丈夫じゃない一般人』に売り飛ばしているそうですよ。春は夏に次いで構成員の多い季ですから、何かあった際の人柱もたくさんあります」
    「はぇ......」
    「因みに、一番構成員の数が多いのは夏です。数が多い分たくさん死にますからね、あそこは」

    なんでもない様な顔をして、ドラマの粗筋を話す様にアンバイさんはそう語った。
    人が死ぬという事、そして人を殺すという行為が日常に染み込んでいるのだろう。昨日散歩道に咲いていた花が、今日は誰かに摘み取られていた。そんな些細な変化なのだろうか。
    いや、もしかしたら変化ですら無いのかもしれない。
    現に目下死体を解体中だというのに、アンバイさんも俺も、落ち着いていた。
    渡された包丁を握り直し、まな板に乗った肉に刃を通した。
    しゃこ。
    そんな小さな音がして、肉が半分に切断される。まだ少し凍っているから固い。

    「ほら、平気でしょう?」
    「は、ハイ」
    「何故だか分かります?」

    アンバイさんを見上げると、彼は笑っていなかった。

    「......これがイノシシの肉だからですか」
    「......成程」

    彼はそう呟いて、まだ骨と肉が繋がっている大きな肉塊の方へ向き直った。俺はその方向を見るなと言われているので、アンバイさんを目で追うことはせず手元の肉を切る作業を続けた。
    しゃこ。
    さっこん。
    しゃこっ。
    しゃこ。
    肉をじいっと見ていると時折切断面にまあるい小さな穴が見えた。太い血管だ。
    スーパーなんかで売っているパック詰めの肉ではまず絶対にお目にかかれない光景。
    かつて肉屋で働いていた母も、こんな作業をしていたのだろうか。
    不思議な気持ちになった。

    「ところでカモ君」
    「ハイ」
    「君、どうして夏の怪談に目をつけられたか分かります?」
    「夏のカイダン?」
    「あぁ。ココではね、稀に嘘みたいに死なない人間や馬鹿みたいに『いけない』人間が見られるんですけど、そういう規格外の人間の事を『怪談』と呼ぶんですよ。
    私が言っている夏の怪談は、カシロシュウイチロウの事です」
    「! カシロさん」
    「ほんと、あの人は中々に恐ろしくていけない怪談です......。で、分かります?」
    「......」

    言われてみれば、そうだ。
    どうして拾われたんだろう。

    「......ま、今日の仕事を焚き上げ次第教えてあげましょう。あーあ、私ってほんとに優しい」
    「あ、ありがとうございます」
    「どういたしまして。ではさっさと終わらせて下さい、ウチの怪談が地上で凍えて待っていますから」
    「え」

    アンバイさんの言葉に思わず手を止めて、顔を上げる。と言っても振り替えるなと言われているのでタイル張りの壁が目の前に広がっているだけなのだが。
    それより、今彼は怪談と言ったか。

    「あぁ、言ってませんでしたね。
    麋角解は長く冬の怪談ですよ。彼、何だかんだずっと冬に在籍していますし、一見この世界で生きるには水が合わないように見えますが、四季会全体で見ても指折りの危険人物です。
    私にしか優しくありませんから、お気を付けくださいね。ガキ。あははは」

    背後から聞こえてくる声は、随分と楽しそうだった。
    片腕一本で俺を持ち運んだあのオツルさんを思い浮かべる。確か彼はここの地上で別れる際、シャベルを持っていた気がする。

    拝啓、ここには居ないカシロさんへ。
    俺、埋められてしまうんでしょうか。

    包丁の音が止まった地下室に、電動鋸のモーター音がヤケに元気に響き渡った。



    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏❤❤❤👏☺👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works