味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)③味覚を失っている。そう告げると、藍曦臣はすっと表情を『藍宗主』のものへと変え、仔細を、と促してきた。下手に同情するような顔の一つでも見せるのであれば、馬鹿にするなと嘲笑を向けて部屋を辞そうと思っていたのに、と江澄は目を伏せて「言葉のとおりだ」と短く返す。
「気付いたら何の味もしなくなっていた。それ以外に不調はない。医生に見せたが特段理由が見つからないという。挙げ句の果てには休みを長く取れと言われてな。無理だと笑い飛ばして帰した」
「江宗主」
「そうだろう、継ぐものを定めていない以上俺が立つしかないんだ」
そちらとは事情が違う、横目で見やると藍曦臣が目を伏せるのが見える。嫌味をそのまま素直に受け止めるそのさまにまた少しばかり苛立って杯に酒を満たした。
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