ショートコントKANKIN『私はなにも喋らないぞ』
「ふふふっ、それはどうかなー?」
「そこは、もっと真剣にしなきゃダメだよ」
ブレイバーンは裸で(元々裸だが)柱に縄でくくりつけられ、ルルとボブに尋問(練習に付き合っていたのだ)。
「んー?……そ、それはどうかな?」
とにかく低く低くとボブのレクチャー通りに、声色を色ぽくそれらしく言うルルにボブも頷く。
「まず、聞くことは覚えているかい?」
「ガガピー!所属と目的!!!」
「グッド、筋良いね」
ルルの吸収力もすさまじいがボブの教え方も良いのだろう。
まずは基礎、その後、応用と
簡単なことと難しいことの繰り返しでルルに自信をつけさせているのだから
「さあ、ブレイバーン、貴方がちきゅーに来た目的と所属を言いなさい!」
『私が言うとでも思うか?
ヒーローは諦めない、必ずイサミが私を助けに来てくれる筈だ』
ブレイバーンは悪の組織に捕まりがちなヒーローのような台詞を言う。
「ふっふっふ、ルルの手札はこれだけではない!」
パチンとルルが指を鳴らすと縄跳びを列車のように見立て遊ぶスミスとその輪の中に入っているイサミがいた。
「わるい、捕まっちまった」
イサミが手を離せば縄跳び列車から下車できるが、まるでヒロインの如くイサミは悲壮感溢れる声で言った。
『イサミィ!?なぜここにイサミが!!!』
「敵の弱点や弱みを握る。エージェントの基本!」
「すごいねー、まさか本当に連れて来るとは……あ、これ良かったら2人で食べてて、最近できたハワイ名物、ココナッツ饅頭」
「まんじゅう?」
「あんこか白あんが入ってるんだスミス」
「Japanのお菓子とコラボした商品か!
噂には聞いていたがもう発売していたのかいMr.ボブ?」
「こいつはまだ試作品でね、世界を救った英雄達に感想を聞きたいんだとよ」
ボブが持って来たココナッツ饅頭を囲むイサミとスミス。
呑気に茶を啜って美味しいと笑う2人。
それがなによりの拷問だと悶える1機
『イサミィ!私も!私もイサミとココナッツ饅頭をシェアしたい!!!
あーんしてもらいたい!
あっ!ルイス・スミス!イサミに口を拭いてもらうなんてずるいぞ!
私もイサミに口についたあんこを拭いてもらいたい!!!』
「ふふふっ、ならばこのちきゅーに来た理由と所属を素直に吐くのだ」
ルルもボブからもらったココナッツ饅頭をリスのように頬に詰め込みながら言うのだから、何も怖くないが
このココナッツ饅頭は試作品。
まだ市場に出回っていないレア商品なのだ。
その貴重な1つ1つが箱から消え、ブレイバーンの分が無くなってしまうのだからぐぬぬ、と口を曲げるブレイバーン。
「ボブ、これ美味しいね」
「確かに、甘い後の渋いお茶は最高だ」
イサミがせっせとJapanのお茶を振る舞うのもそれに拍車をかける。
『私もイサミの入れたお茶を飲みたい!』
「あー、すまんブレイバーン
お茶は今ので空になっちまった。
今沸かすから後でな」
『ぐっ!!!』
ルルがイサミのお茶を全て飲みきってしまったのだ。
そうこうする内にココナッツ饅頭も残り1つになってしまう。
「最後の1つは公平にジャンケンにしようか?」
提供先のボブの言葉に異論は無いとイサミとスミスとルルがジャンケンをする。
『私も!私も参加する!!!』
しかし、悲しいかなブレイバーンは後ろ手をぐるぐる巻きに拘束されている。
なお、本気を出さずともこんな拘束は拘束の内に入らないのだが
ルルのことも仲間として大切にしたいブレイバーンはどこまでも真剣に拘束されているのだ。
「ガガピー!ありがとスミス!」
スミスが勝利したらしく、戦利品はそのままルルに贈呈された。
『ああ、最後の1つが……』
綺麗に空になった箱だけがブレイバーンの目の前に転がる。
「今回の練習はここまでにしようか、ルルちゃん。時間内に情報を吐かせられなかったら誰かと交代するのも手だからね」
「イエッサー!」
『饅頭……』
終了の合図が出たのでブレイバーンは蜘蛛の糸でも払うように縄をほどき、空になってしまった箱を未練がましく逆さにする。
「……ブレイバーン」
ちょいちょいとイサミがこっち来いよと合図をする。
『イサミ?』
「……ほら、これおまえの分
バレねえように急いでズボンに突っんじまったからちょっと潰れちまったけど……」
『イサミィ!!!ありがとうイサミ!
もちろん!もちろん私に食べさせてくれるんだよなイサミィ!!!』
「……しかたねえな」
『ああ、生きてて良かった』
イサミの手で半分こされたココナッツ饅頭を二人で食べさせ合うことができて感無量だと目から涙を流すブレイバーン。
イサミは苦笑しながらちょっぴり潰れたココナッツ饅頭を美味しいく食べ2人でお茶をしましたとさ。
めでたし、めでたし