幼い貴方の目に映るモノ 俺の前にだけ現れる、幼いキラ。これは隊長が作り出した、心の逃げ場なのかもしれない。
だから俺は今日も、この幼く無垢に笑うキラを抱き締めて、頰にキスをする。
「きゃー! シンがちゅーするぅ!」
「そうだぞー。俺は、キラの事が大好きだからな!」
「シン、ぼくのこと、好きなの?」
「うん」
隊長には言えていない、俺の秘めた本音。
「好きだよ」
狡い自覚はあった。隊長はキラの時の事を覚えていない。そんなキラに、俺は隊長には伝えられない愛を告げる。
キラはぱあっと綺麗な紫色の瞳を輝かせた後で、両手で口元を覆ってくすくすと笑った。
「ふふふ。シン、ぼくのことが好きなんだぁ」
それから俺の耳元に顔を寄せたキラは、内緒話をするように俺の耳と自分の口の間に、両手で輪を作る。
「あのね、ないしょだけどね。ぼくも、シンのことがすきなんだよ」
「え……?」
「ふふふっ」
俺から離れたキラは、両手を広げて楽しそうにくるくると回る。
好きって、その……部下としてって、ことだよな?
あぁ、いや。キラの言葉が隊長の言葉……とも、言えない……のか?
んんん……。悩む事を言ってくるなぁ、キラは。
「ねぇねぇ、シン」
「おわっ」
俺が考えている間に、キラは俺の目の前にやって来ていた。鼻と鼻がぶつかりそうなくらいの至近距離で、キラは俺の瞳をじぃっと見つめてくる。
「……き、キラ……?」
「……ちのいろ」
「へ?」
キラの顔からは笑顔が消えていた。
「ちのいろ、だね……。あとは、火事のいろ……。そう……。ぼくがまもれなかった人が血に塗れて、街は燃えて……だから……だから、僕は……」
キラがそこまで呟いた時、俺は気付く。言葉の途中から、目の前で震え始めたのは“キラ”じゃない。
「あ、あっ……あぁぁぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!」
「隊長!」
頭を抱えるように強く抱き締めて、ガタガタと震える隊長を必死に宥める。
「大丈夫です! 貴方は何も悪くない! 貴方のせいじゃない!」
「でもっ、でも……僕のせいで、みんな……!」
「違う! 誰も貴方のせいだなんて思ってない!」
隊長の頰を両手で包み込んで、無理矢理俺の方を向かせた。
「お前は俺を救ってくれた! 俺以外にも沢山救えてる! だから自分を責めるな、キラ!!」
キラ。と、そう呼んだ瞬間に、隊長の身体がびくりと跳ねた。隊長は俺の言葉に大きな目を更に大きく見開いて涙を流していたが、数秒の後に、泣きながらふにゃりと微笑した。
「……しんは、いつもぼくを、たすけてくれる……ね……」
舌っ足らずな口調はキラだ。俺がキラを呼び戻した。キラは言葉を紡ぎながら瞼を閉じ、それから、くったりと身体の力を抜いた。
腕の中で気を失ったキラを見下ろして、俺は行き場の無い悔しさに歯噛みする。
俺は隊長も、キラも、大事にしたいのに……。