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    望月ひみつ

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    望月ひみつ

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    ・ハロウィンパロディ
    ・シリーズものです。最初の話を読んでいないと分からない部分が多々あると思います。
    ・「不滅の薔薇と白いぼろ切れ」の後半部分からの🥦くん視点です。説明不足だった点の補足的話になります。
    ・開幕からタヒネタあり。厳密には異界に居過ぎて人間のままでは居られなくなった状態です。人としてタヒぬ選択肢もありましたが本人がそれを選びませんでした。

    【続・不滅の薔薇と白いぼろ切れ/蛹】ある秋の日。
    翡翠色の瞳と髪を持つ、1人の少年がその命を終えました。

    その日を迎えるまでの最期の三週間。
    少年はベッドの上で手厚い看病を受けていました。

    傍らで古びた本を開き、懸命に処置の方法を探しながらも自分の手を握り励ましてくれる横顔を少年はじっと見つめていました。
    その最中、夢現の中感じていたのは申し訳なさと、感謝。驚き。それから、心配。



    ごめんね。ありがとう。

    大丈夫だよ。ちょっと身体が熱くて動けないだけで、不思議と苦しくはないんだ。

    ねぇ。君、薔薇の庭園で気を失っていた時よりもっと青い顔だよ。

    治ったら、うんとお返しするからね。

    でも、もし僕の血が不味くなってたらどうしよう?




    心配しないで。もう少ししたら絶対に良くなるから。

    だから僕の事より、少しは君も休んでよ。

    僕だって君が心配なんだよ。

    …君がそんなに苦しそうな顔をするなんて、想像してなかった。




    ううん。ごめん。ごめんね。

    本当に君は何も悪くない。

    僕の為にこんなに頑張ってくれてありがとう。




    …ねぇ。これからは僕が言わなくても、お散歩したり、ご飯を食べたり、…ちゃんと寝てほしいんだ。

    本当は、もっと。君の役に、立ちたかった。



    ぁあ、それと、それと────、



    ここに来た時から今日まで、僕は、ずっとずーっと、幸せだったよ。




    伝えたい事はいくつもいくつもあるのに、全てが穴に吸い込まれて堕ちる様に、少年は少しずつ意識を手放し、やがて目覚めぬ深い深い眠りにつきました。










    ふ、と開いた目に映ったのは、金平糖を散りばめたような夜の空と金の月。
    軽く周囲に視線を巡らせると、薔薇の花と茨に囲まれていました。
    しかしその棘は何故か優しく、自身を護ってくれている様でした。


    僕は、どうしたんだっけ。

    少年はボンヤリと霞がかった頭を起こして立ち上がろうとしました。
    しかし、その身体は身に纏った白いボロ布をはためかせながら宙に浮かんでいるのです。

    ……?ずっと僕は、こんな感じだったっけ……?

    …僕、僕は、誰かと一緒に居なかったっけ……。

    夜空も薔薇も、何だか久しぶりに見た気がする……。

    物の名前は分かるのに、あの月の光は太陽を反射したものだとどこかで覚えた筈なのに。
    少年は自分自身が誰なのか、どんな生活を送っていたのか何も思い出せませんでした。

    最期に感じていた気がするのは、誰かの体温。

    しかし、それも気のせいかもしれません。

    少年は何か少しでも思い出せないものかと辺りを見回しました。

    すると遠く向こうから、何やら灯りが近付いてくるのです。

    一体その灯りの正体は何かと注視していると、その姿が徐々に明らかになりました。

    近付くにつれ、その“人”の背がとても高い事が分かりました。
    灯りの正体は手持ちランプでした。

    目の前までその人が近付いてきた所で少年は気付きました。
    身を包む黒いスーツの下はガリガリに痩せこけているばかりでなく、よく見るとその中身は骸骨の姿でした。
    金の髪があちらこちらに飛び跳ね、目は暗く落ちくぼんでいます。

    ───あぁ、僕は、もしかして死んだのかな。
    目の前の人は人じゃなく、お迎えに来た死神だろうか。

    すると骸骨の男が喋りました。

    「もう大丈夫だ少年、私が来た」

    何もかも理解しているようなその声は、思ったよりもハッキリとしていて優しく、不思議とどこか懐かしい気すらするのです。

    その雰囲気に途端に警戒心が解け、目の前の正体不明の男に少年は尋ねました。何しろ縋れるものが他に何もありません。

    「あああのっ、こ、ここんばんは!すみません、僕、自分の事が何も分からないんです。もし分かるなら、あなたの知っている事を何か教えてくれませんか?僕が誰なのか、これから僕がどうすればいいのか。」

    眉の下の影の奥に、優しく深い空色の瞳が2つニコリとしました。

    「よーしよし、一先ず落ち着くんだ少年。心配しなくていい。私が君を安全な所まで連れて行ってあげるからね。」

    カチャリと音を鳴らし、周りを広く照らせるよう男はランプを掲げました。

    そのランプの小さな火は不釣合いなほど辺りを明るく照らします。夜なのに、温かい陽の光を思わせるほどです。

    「あの、でもその前に僕何か、何か大切な事を忘れている気がするんです。」

    「…そうかい。でもね。君は忘れたまま行く方がいい。…君は善良な人間だった。これから行く所も悪くないさ。綺麗な花に囲まれた暖かい場所に行く事が出来るんだ。そこでしばらくゆっくり休んで、また次に行けばいい。」

    「綺麗な花…この、薔薇よりもですか…?」

    「そうだね。しかもあるのは薔薇だけじゃない。新しい生活はきっと君も気に入るだろう。」

    「だけど…僕は、この薔薇よりももっと綺麗な…大事なものを知っている気がするんです。それを忘れちゃいけないって…。誰かを…誰かを幸せにしたいって…。救いたいって……。」

    少年自身にもそれが何かは分からないのに、無意識に右手の傷を撫で付けながら必死に伝えました。

    輝く金の髪を夜風に揺らしながら辺りの薔薇を見渡し、骸骨の男は言いました。

    「確かにここの薔薇は見事だね。そう…君はここの空気を長年…ずっと吸っていたんだね。だからただの人間でいる事は難しかったんだ。ここは普通の人間の世界じゃないから…。更に君の善良な気質がそうさせた。それが君の──」

    意味は分からずとも、男が何事か思いを巡らせ表情が変わっていくのを少年は感じました。

    「…ここに残る方法も、ある。だけどここでの事は忘れて仕舞う方がずっと簡単だよ。かなり多くのものを背負う必要がある。」

    力強い表情を変えない少年を見て、男は続けました。

    「それでも大事なものを照らす事を選ぶかい?決して楽な道じゃない。覚悟もいる。これまでと同じとはいかない。まァしかし、君次第さ!」

    先程まで難しい顔をしていた男は笑い始めました。

    「それでも諦められない事がきっとここにあるんです。だから!お願い…します。」

    「OK!…その日はこれから一年後だ。」

    ランプの輝きが男の歯に反射して光るのを少年は眺めていました。










    「──やぁ、こんばんは少年。調子はどうだい?」

    「こんばんは。問題ありません。」

    すっかり時間の感覚は薄れていましたが、しかしあれから確実に時間が経過していました。

    「そうかい、何よりだ。さぁ、空を見たまえ。今宵は素晴らしい満月だ。少年が死んで一年が経った!しかし君の気持ちと覚悟は一年前と同じかい?」

    「はい。」

    「よろしい。ではこのランプを持ちなさい。この光が君を強くし、悪いモノを薙ぎ払い、迷える者を導いてくれる。この火を、これからは君が絶やさぬよう大事に灯し続けるんだ。誰にも奪われないようにね。」

    この火はただの灯火ではないのだ、と理解した少年は慎重にランプを受け取りました。

    「私もね、かつてはただの人間だった。ただ、人間の間では聖人なんて言われてね。明日は皆が私達の為に祈ってくれる日なのさ。そして今夜はその前夜祭なんだ。既に力が漲ってくるのを感じているよ。」

    一際明るく放たれた光が、温もりが、少年の頭の霞も晴らしていきます。
    光が収まり眩んだ視力がゆっくり戻ってくると、先程まで目の前に居た骸骨男の体躯はいつの間にかガッシリ様変わりし、もはやあのそよ風にも飛ばされそうな弱々しい姿はどこにもありませんでした。

    そこに居たのは人々を救う希望、世界を照らす光、金色の太陽、全ての神の頂点に立つに相応しい、神々しく輝く姿。

    「あ、…あなたはまさか…オールマイト……!?」

    「知っててくれて光栄だよ。」

    その声と、ニカリと笑った笑顔は間違いなく骸骨男でした。様子はまるで別人でしたが、目の前の屈強な男と同一人物だ、と思えました。

    絵本で読んだ。憧れた。
    絵本、で…誰と…?
    僕は、いつ…。

    「………あ………、僕、は……。」

    「おや……ちょうどいい。そろそろ君の大切な人が迎えに来るよ。」

    薔薇の花葉が揺れる重なる音が遠くから微かに聴こえた気がして動けなくなっている所を、男のすっかり分厚くなった手のひらで背中をバンと叩かれました。

    「思い出したようだね。さぁ、行きなさい。また会おう少年。灯火を大事にな。」

    オールマイトが消えた後、背後に人の気配を感じました。

    ひらひらと布を泳がせて浮いたままの身体でゆっくり振り返ると、目の冴えるような赤と白の薔薇のような人が呆然と立ち尽くしていました。
    顔の火傷でさえもその美しさを濁せない、と思う整った顔には驚きの表情が浮かんでいます。

    懐かしい色違いの双眼に、目の奥がみるみる熱くなるのを感じました。

    少年はやっとの事で口を開きました。

    「えへへ…久しぶり。…元気だった?」



    人間の世界と神の世界の狭間で生きた翡翠色の少年は10年の年月を経て、幼虫の時期を終え蛹になり、空に飛び立つ蝶となるように、迎えるべくしてその時期を迎えたのです。


    きっと当分、向こう数百年は死ねやしない。
    君が一緒に居てくれないなら駄々を捏ねて泣き落とそうか、なんて思ったけど。どうやらその必要も無いみたい。

    なのにね、お互い涙が止まらないね。
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