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    nisemono_asg

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    安岡さんと平山さんの出会い文

    #ヤスヒラ

    都心から離れたところにある、安い宿の一室を借りた。
    梅雨の時期だった。

    オレが東京に出たのは、地元の工場で働いていた時、とある刑事に声をかけられたことがきっかけだった。
    なんでもその刑事は、赤木という名の若い白髪の男を日本中探し回っていたそうで、偶然同い歳ぐらいで白髪のオレにたどり着いたそうだ。
    顔も似ているというから写真を見せてもらった時はゾッとした。
    確かに似ている。
    自分に似た人間がいるのではと考えたことはあるが、瓜二つであったり、ましてや身近に、巡り合う可能性は極めて低い。
    オレはこういう偶然や、理論づけて証明し難い物事は好きではない。
    気分が悪くなる…。

    刑事にも何度も問い詰められたが、赤木とやらとは血も繋がっていないし、本人でもない。
    オレは平山幸雄、兄弟も親戚もいない。

    「お前でいい、いや、お前にしかできないデカい仕事がある」
    「はあ…」

    何か罪にでも問われるかとハラハラしたが、どうやら違うらしく、その刑事は、紙切れに電話番号と日時、場所を書いてオレに渡した。
    刑事の名前は安岡といった。


    ----------


    借りた宿の一室は、四畳半、電気をつけても薄暗く、湿った畳の臭いがこもって頭痛がした。
    建て付けの悪い窓を開けると、小雨と一緒にぬるい風が入ってきて、暗い道の向こう、少し離れた場所に墓地が見えた。
    布団を敷いた後、部屋の押し入れの戸が少し開いているのが気になって閉めようとしたが、これも立て付けが悪いのか閉まらなかった。
    力尽くで押してもそれ以上閉まらず、仕方がないのでそのまま眠ることにした。


    ----------



    翌日指定された場所に向かうと、あの時の刑事、安岡が立っていた。
    イラついたようにタバコをふかしているのは、オレが時間より少し遅れたからか。
    安岡はオレを見つけると、タバコを揉み消して駆け寄ってきた。

    「…どうも」
    「おう、よくきたな、振られちまったらどうしようかと思ったぜ」

    安岡は馴れ馴れしくオレの肩を掴むとそのまま歩き出した。

    「…どこいくんすか」
    「お前麻雀はわかるか?」
    「…え?」

    湿った道を、人気のない方へ歩いていく安岡の腕を振り解いた。

    「ちょ、ちょっと待ってください」
    「…あ?」
    「まさかデカい仕事って…やくざ絡みじゃないでしょうね…?」

    安岡は分かりやすく舌打ちをして、頭を乱暴に掻いた。

    「大丈夫だ、お前は赤木のフリをして打ってりゃいいんだよ、何も危険な目に遭うことなんてねえんだ!オレが保証する」
    「は…!?なんだよそれ…!なんの説明もなしに受けられるわけないだろ、そんな得体の知れない仕事…!」
    「説明するさ、これから。ここでは話せないだけだ。お前麻雀できるのか?できないのか?」

    ……できます。
    そう答えてからはとんとん拍子に事が進んだ。
    地元で最後の給料を手にしたきり、まだ収入はない。
    ただ、あの工場で一生燻るくらいなら、人生一度くらい賭けにでようとここにきたのだ。前に進むしかない。

    そして東京にきてやっと最初の収入を得たのは、都会の隅にある雀荘の卓の上だった。
    僅か1時間弱で工場にいた時の1ヶ月分は稼いだ。
    昔から、記憶力と、数字に関わることや計算に関しては人より優れている自信があった。
    その立ち回りが麻雀で活きた。

    「お前出来るやつだな平山」
    「まあ…簡単ですよ、これぐらいは」

    それから何度か安岡に連れられて雀荘を荒らした。
    オレ1人ならどうなるか知らないが、この刑事がバックにいてくれるお陰で遠慮なく金を回収することができた。

    ここから始まるんだ、もっともっと、金を稼がないと…。
    稼いで…それで、どうするのかわからない、ただ、もっと先に、もっと上に。


    ----------


    「お前寝不足か?顔色悪ぃぞ」

    不意に安岡にサングラスを持ち上げられ、顔を覗き込まれた。
    飲みかけのアイスコーヒーを溢しそうになるのを慌てておさえる。

    「あぶねっ…!」
    「そういやお前まだ地元から通ってんのか?」
    「…そんなわけないでしょ、宿に泊まってんすよ」
    「へー…」

    お待たせいたしました、プリンアラモードでございます。

    「は…?」
    「お、きたきた」

    ウェイトレスが運んできた涼しげなガラスの器の中で、でかいプリンがホイップクリームに包まれフルーツたちに彩られていた。

    「……安岡さん?」
    「たまに食いたくなるんだよな、わかるだろ?」
    「……まあ…」

    プリンアラモードで年甲斐もなく浮かれるおじさんが何だか可哀想で、出かかった否定の言葉をオレは飲み込んだ。


    ----------


    その日も、いつもと同じ宿で、変わらぬ夜を過ごした。
    最初と唯一違うのは懐の暖かさか。
    部屋は蒸し暑いばかりだが、気持ちは清々しかった。

    相変わらず押し入れの戸は閉まり切らず、それだけが気になる。
    まるで誰かが、その暗闇からこちらを覗いているような気配がしてならない、そんな筈ないのに。
    苦手だ…こういうのは。
    ただ脳が意識しているからそう感じるだけで、押し入れには事実何も存在しない、オレは疲れているだけだ。
    幽霊?そんなもの、いるわけが……



    フ、



    と電気が消えた。
    辺りが真っ暗になる。

    「…なんだよ」

    呟きながら頭まで布団に潜った。
    気味の悪い部屋だが、毎日明け方に帰ってくる為、日が登るまで耐えるのは容易い。
    この不気味さと付き合ってる時間は短いほうだ。

    「……」

    そろそろ引っ越すか…。

    ----------

    「お前寝てるか?すげえ顔してるじゃねえか、体壊すぞ」

    結局眠りについたのは昼過ぎだった。
    夕方に目が覚めて、慌てて約束していた店に行くと、既に出来上がった安岡さんが隅のテーブル席にいた。

    「安岡さんだって、こんなに飲んで、体壊しますよ」
    「お前にはわかんねーよ大人の気持ちは」
    「…いやわかんねーっすけど」

    1人でビール大瓶4本も開ける大人の気持ちなんて…。

    「おーーーい!もう一本」
    「ちょっと…!」

    注がれるままに、オレも酒を飲んだ。
    こっちに来てから信用できるのは安岡さんだけだ。地元でも友人はあまりいなかったが。
    こうして一緒に酒を飲んでいると気持ちが紛れる。
    自分がこれからどう生きていけばいいのかとか、何が楽しくて生きるのかとか…。
    いずれ答えに辿り着けるような気がする。
    そうだ、悩むのはきっと寝不足の所為だ。

    「何、お前お化けが怖いのか?」
    「えっ…!」

    いつの間にか口を滑らせてしまったらしい。
    安岡さんがきょとんとした顔でオレを見ている。

    「…いや、だから、押し入れの隙間が…気になるって言うか…そういう、説明できない、理由のないものは受け付けないだけで…!別に怖いわけじゃ…!」

    情けなさでしどろもどろになるオレの肩を安岡さんが強く叩いた。

    「お前メチャクチャ頭いいから、お化けとか信じたりしねーと思ってたわ…!人間だな…お前もっ…!」
    「…え…??人間ですけど…いやお化けは信じてませんからね…!」
    「ともかくそれで眠れねーんだろ?」
    「うう…」
    「じゃあウチ来いよ」

    え…?

    予想外の提案に一瞬固まる。

    「まあお前の体調管理もオレの役目だからな、これから代打ちという商品として組に売っていくわけだし、次の住処が見つかるまでのツナギにオレんちに住めよ」
    「…はあ…」
    「女房がいた頃から同じとこに住んでるから部屋は広いぜ、安心しろ、お化けは出ねえって」
    「……え、結婚してたんすか」

    こんな適当な大人でも結婚できるのか、いや、腐っても刑事…給料は良いはず。
    それとも、結婚したからこんな大人になってしまったのか…。

    「もうだいぶ前に出て行っちまったけどな、また帰ってくんじゃねえかって思うと、なんか引っ越せねーんだよ、正直片付けもめんどくせえしな」
    「……」

    安岡さんは、寂しそうに眉を寄せながらタバコに火をつけた。
    なるほど、大人の気持ちか…。

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