獣耳 あらぬ方向に注がれた視線に気づき、彼は怪訝な顔をした。
ハンニバル・レクターは、普段不必要なほど人の目を見る。少なくとも知る限りはそうだった。
一体何を見ているのか、いつから見ているのか。彼は考え、だが探るまでもないとすぐに思い至った。ひそめられた眉に先ほどまでとは違った意味合いがこめられる。ああ、と得心の吐息はこういった事態に陥るたび繰り返しそうされてきたように、重く鬱陶しげだった。
手を持ちあげ頭を触れば、髪の中に明らかに異質な感触がある。細く短い毛が密集したそれは獣の手触りであって、あるべき丸い耳は失われていた。耳がどうなったのかを彼は知っている。それを覆う獣の毛が闇のように黒い色をしていることさえ知っているのだ。
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